Ep.3 魔女の願い

 大昔、魔女は世界を滅ぼした。

 長い長い人間と魔女の戦争の果て。この世界は、人間による化学兵器と魔女による呪いで、見るも無惨に朽ち果ててしまっていた。

 化学兵器と魔術、それはほぼ互角だった。

 引くことのできない戦いは何年何百年しても決着することはなく、彼女はこの世界を滅ぼすことにした。自分の持つ全ての魔力を使い果たせば、この世界を滅ぼして初めからやり直すことは出来るだろう。

 彼女の名前はアイリア。魔女ではあるが純粋な魔女ではない。

 魔女と人間との間に生まれた歪な存在だった。

 アイリアは、まず、この世界の人間を五十人集めた。

 彼らを丈夫な船に乗せ、世界を洪水でうち流したのだ。水は大地を削り豊かな種子をこの地に運ぶ。何日、何年、そして、――世界はこの船に住んでいるものだけが全人類になる。そして、この人間たちの記憶を消した。化学兵器など、そんな危険なものは忘れさせ、代わりに富を追い求めるようにした。そうすれば真面目に働き、そして魔女のためになるだろうと考えたのだ。

 そして、自分の血を分けた子どもを作った。魔法の力を子どもたちに与え、それをまた子に伝えよと教えた。前の世界をアイリアが滅ぼしたなど決して気づかれてはいけない。魔女の子ども達には、自分たちが人間のために豊かさを求めるのだ、魔女が人間が出来ないことをするのだと教え込んだ。

 そして、アイリアがこの世界を創ったのだという創り話を教え込んだ。

 そうすれば、豊かな世界になると思った。

 魔女は人間が出来ないことをするためにその力を使い、人間は魔女の恩恵を受けて真面目に働き、富を追い求める。

 自分は魔女と人間の子ども。

 その子どもである魔女たちは、全員一人残さず、人間の血が混ざっている。

 だから、その血が人間のために魔法を使うことを求めるだろう。

 魔力を使い果たしたアイリアは、この世界の未来が幸せになることを祈り、永遠の眠りについた。

 それが叶わない望みだということを知らないまま――。

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