神さまの加護で〜平民の僕が嫁と仲間の為に英雄になって国を建国させる〜
宮野アキ
一章・神さまの加護で、人生を変える
プロローグ・終わりと始まるきっかけ
「宣言はいつ始まる?」
「ついにこの時が来たんだ。俺たちの時代が!!」
「王子さまは顔を出されるかしら♡」
これからこの国の国民となる人々が城の中庭で、おこなわれる行事に期待や希望を込めた声で同じ国民となる隣人であり、同胞に話しかけている。
子供から老人そして不死の者。
男性や女性、両性の者。
白い肌から黒い肌、緑の肌の者。
獣の耳や獣の姿をした者や鱗の生えている者、無生物など様々な人々が集まっている。
そんな光景を僕は高揚した気持ちを抑えきれずに笑ってみていた。
この時をどれほど望んでいたか。
緊張感を持たないといけない事は分かっているけど、ついつい笑みがこぼれてしまう。
「……時代が変わる時と言うのは騒がしくもあり、穏やかで平和なものかもしれない。か」
でも、しっかりと警備をしないとアイツに怒られる。
気持ちを切り替える為に白髪の頭を振り、黄色い瞳の横長の瞳孔を細める。
中庭に集まって居る人々を城の屋上から見渡す。
だが、ついつい眼下に広がる様々な種族の人々が集まっている姿を見てるとニヤけてしまう。
ダメだ、抑えきれない。この光景をアイツにも――
「気持ち悪い顔しているぞエルリーヒ!」
「――!!」
突然自分の名前を呼ばれ、横長の瞳孔の瞳を見開いて声のした方を振り向く。
そこには紺色のローブを目深に被り、身長よりデカい杖を持った女性。
僕のパートナーの一人、魔法使いのアルカがいた。
「……アルカか、別にいいだろ。それより自分の持ち場に戻ったらどうだ?」
アルカはローブから見える雪のように白い顔を微笑ましい物を見るかのように笑いかけて、僕に近付いて来て――
「別にいいではないか。ここからでも城全体の状況を感知する事はできる。だったら、別にここに居ても不都合はないだろ」
そう言いながら僕の隣に歩み寄ると体を僕に預けて来る。
「それに私はエルの横に居たいのだ。いいだろ」
「全くお前は……」
そんなアルカの姿に微笑ましく思いながら、僕はアルカの頭を撫でてやる。
「うふふ」
アルカは僕に撫でられて気恥ずかしいのか、少し身をよじるけど離れようとはしない。その度にチラチラとアルカの額にある小さな角がローブから見え隠れする。
大人びてるけどこういったふとした表情が可愛いな~と思っていると、ふと気になった事をアルカに聞いてみた。
「そういえば他のメンバーは?」
「あら?私がここに居るのに他の娘の話?」
「いや、そんなつもりはないって!」
「それなら……」
「ここに居ますぞご主人!!」
「――!!」
突然、後ろから声を掛けられ慌てて振り向くとそこには白銀の長い髪を後ろで一つにまとめて、獣耳と青い瞳、緑色の瞳のオッドアイの女性がいた。
彼女も僕のパートナーの一人、シーフのキサラギ。
キサラギはイタズラが成功したのが嬉しいのかニカニカと笑っていた。
「脅かすなキサラギ!普通に出て来いよ!!」
「そう言いますなご主人!皆の者だってこの光景をご主人と一緒に見たかったのですぞ!」
……はぁ全く仕方ない奴だな。
真っ直ぐな瞳で見つめて来るキサラギをみて僕も注意する気が失せてしまった。
「……ムツキはどうしたんだよ」
「私もここに居る」
「――!」
声のする方を向くとアルカの横にキサラギと同じ顔立ちと獣耳。違う所を上げるとしたら短く切りそろえた白銀と黄色の瞳、青い瞳のオッドアイの女性。
僕のパートナーの一人で、キサラギと同じシーフのムツキが僕を見つめていた。
「お前達僕を脅かすのは止めろよ!」
「ふふ、みんなエルの事が好きだからね。ワンちゃん達がここに来るのも仕方ないわ」
「嬉しいけど……そろそろ持ち場に……え?どうしたムツキ?」
「………………」
未だに僕の顔をジッと見つめて来るムツキに声を掛けるけど、返事がない。
……もしかして、ここで?
僕はなんとなくムツキが何を求めているのかが分かってムツキの頭に手を乗せて軽く撫でてやると――
「えへへ」
とムツキは気持ち良さそうに笑う。
アルカにやってたのを見て羨ましくなったのかな?相変わらず甘えん坊だな。
と考えていると後ろからムツキを見ていたキサラギが頬を膨らませて抗議してきた。
「お姉ちゃんズルい!私も!!」
キサラギは羨ましくなったのか僕の背中にグリグリと頭を押し付けてくる。
「はい、はい」
僕は仕方ないと思いながら後ろにいるキサラギにも空いている片手でキサラギの頭にも撫でてやる。
「くぅん、えへへ」
そんな僕達の姿をアルカは微笑ましそうに見てくる。
「ふふふ、エルは愛されてるわね……そろそろ始まるみたいよエル」
アルカが指を指すその先には城の中央にあるバルコニーから豪華な衣装を着た。
この国の国王と王女となる男女と王子になる幼い少年が手を振りながら護衛の者たちを連れて現れて来た。
国王と王女、王子をみた国民たちの声援の声は一気に大きくなり、国王と王女はそんな民衆ににこやかに手を振っていたが、しばらくすると使用人が拡声器の魔道具を持って来ると手を振るのを止めて拡声器の魔道具の前に立った。
「「…………」」
国民達の声援は消えていき、国民は国王の言葉を待つ。
そしてこれから国民となる者たちは緊張した空気を張り詰めて――
「皆の者、今日は記念すべき日によく集まってくれた」
「「「ウオオオオー」」」
国王の第一声に国民たちは一気に盛り上がり、歓声を上げた。
そんな国民に国王は嬉しそうに笑っていたがすぐに表情を引き締めて右手を高く上げる。
「「「オォォ…………」」」
国民達が静かになったのを確認した国王は言葉を続けた。
「皆の者感謝する。我も皆と同じでこの日を迎えられた事を嬉しく思う。我は――」
僕はパートナー達と国王の演説を聞きながら昔のことを思い出していた。
すべての平和が壊れた祖国イガーラ・アイロッソ王国の戦争と崩壊。
狂信者とそれを操る邪神との全面戦争。
ゴブリンとオーク達と共闘したのを切っ掛けに、パートナーが増えたり。
古代遺跡で神さま達に出会って真実を知ったり。
パートナー達を助ける為に、大国相手に戦争を仕掛けたり。
僕がまだ成人を儀式を迎える前の子供の頃。
……もしかしたらあの時がすべての始まりだったのかもしれないな――。
……あの時は、僕がまだ成人の儀式を迎える前の頃。
言語学者の両親が遠くの国に行かないといけない仕事が入ったけど。
僕を連れて行く事は出来ないと判断した両親は、僕を父さんが生まれ育ったナックフォーゲル村で育成牧場を経営してた親友のアドルフさんに牧場を手伝うのを条件に僕は預けられる事になって――
◇ ◆ ◇
「エルリーヒ、作業は順調か?」
「あ、アドルフさんお疲れ様です。はい、大丈夫です」
僕が飼育小屋の古い干し藁と新しい干し藁を変える作業をしていると小屋の外から泥だらけの作業着を気にした素振りのない男性――アドルフ・イデアールさん。
父さんの親友の一人で僕がこの村で一番頼りにしている人だ。
アドルフさんは小屋に入って見渡す。
「さすがエルリーヒ、仕事が早いな。ここはもういいからリリ達の手伝いをしに
水洗い場に行ってくれ」
「うん、わかったよアドルフさん」
僕は干し藁の手入れ作業に使っていたピッチフォークを壁に立て掛けて――
「じゃあ、行ってくるね」
「おう、俺もここが終わったらそっちに行くからな」
「わかった。リリさんにも伝えておくね」
「あぁ、頼んだ」
飼育小屋を後にして小走りで水洗い場に向かう。
その途中、空に数匹の飛んで居る影を見つけて思わず微笑む。
「今日も元気そうだな、ワイバーン達は」
普通の村なら一匹のワイバーンが飛んでいればそれだけで壊滅の危機であり、数十匹も飛んでいれば絶望的だ。けど――
この村の住人は誰も驚いていない。
むしろこの光景はこの村の日常で、生活の一部。
そんな雲の位置より高く飛び上がって行くワイバーンとそれを先導する飛竜に乗っている人を見て僕は思わず呟いていた。
「僕も一度でもいいから、彼らと同じ高みまで上って行きたいな……」
けれど、そんな小さな夢も……今の僕には叶えられない夢だった。
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