第48話 謎に包まれる

クラーケンを倒し、海を進む三人。

もうスピードで進む船は、夜間やかんも進み続けた。

何度も敵の襲撃にいながらも、次の日の昼には、ようやく西の大陸が見えた。

「見えた!ようやく着いたわね」

「やっと船酔いから解放される……」

三人は大陸に上陸し、辺りを見渡した。

「特に何かあるわけではないわね」

何かあるかと警戒していたが、目の前に草原が広がっているだけだった。

「いや、あそこにデカイ壁があるわ」

リーナが指差した先には、大きな壁がうっすらと見えていた。 

「じゃあ、あそこに向かいましょうか」


大きな壁を目指して進む三人。

敵地という事もあり慎重に進んでいたが、一向いっこうに敵は現れなかった。

みょうね……敵の気配が全然無い」

「アクスは何か感じる?」

「何も無いな……あの壁の奥からは感じるけど」

「壁の向こうで待ち伏せしてるのかしら」

「ヘルガンはあの中でよく無事にいられるな」

「………今更だけど、ヘルガンが私達より先に着いてるのはおかしくないかしら?」

サリアの言葉に、リーナがうなずく。

「ええ、そうね。ヘルガンの方が早く港を出たとはいえ、船の速さはこっちの方が圧倒的に上。あそこに居るのが不自然だわ」

アクス達は自慢の怪力や、能力を使って、短い時間でこの大陸に着いた。

一方でヘルガンは、三人に比べると非力で、大した能力も無い。

「となると…ラックルの未来視でどうにかしたのか?」

「未来が見えるだけで、私達より早く着くって?おかしな話ね」

リーナはあざ笑うが、否定はしない。

その可能性があることを、理解しているからだ。

「ま、本人に聞くのが一番ね」

三人は進み続け、壁までたどり着いた。

真っ白な大きい壁を、三人が見上げる。

「よし、入りましょう。アクス」

「ああ、背中に乗れ」

アクスがサリアを背負い、壁の上まで跳び上がる。

リーナがそれに続いて跳び上がる。

壁の上へと着いた三人は、壁の中の風景に息を呑む。

四角い建物が並んで立ち、街中まちなかを機械が走り回る様子が見える。

住人達も異様で、腕や足に機械が仕組まれた服を身に着けている。

「変わった所だな…」

「どっかで見た事あるわね。確か、月で…」 

「でも、月よりもすごいわ」

アクスとリーナの二人は、街の様子に興味を覚え、隅々すみずみまで観察し始めた。

「まさか…ここまで発展してるとはね……」

「もしも、魔王軍が居たらやばいわね」

「そこの通りは人が居ないわ。そこから降りましょ」

サリアは安全に降りれそうな場所を見つけ、二人に伝える。

壁の中へ降りた三人は、念のために建物に隠れた。

アクスとリーナは、再びヘルガンの気配を探る。

「ヘルガンの気配は?」

「ん……下だ」

唯一の手がかりである、ヘルガンの気配は、この国の地下にあった。

「じゃあまずは、地下への道を探さないとね」

地下への道を求めて、三人は広い国を回り始めた。


地下深くにて、ある男がモニター越しにアクス達の様子を眺めている。

国中に仕掛けられた監視用のカメラから、男は見ていた。

「ようやく来たか。あいつを泳がせたかいがあったというものだ」

男はそばに女性をはべらせ、グラスに入ったワインを飲み干す。

「入れ」

部屋の外に待たせていた兵士を呼び出すと、モニターに映っている三人に指を指した。

「この三人を地下へと案内してやれ」

「はっ!」

兵士は命令を聞いて、すぐさま部屋を出ていった。

「さてと、実験開始だな」

男は側に居た女性を連れて、部屋から出ていった。


地上では、三人が地下への道を探していた。

この国は広く、入り組んでいる。

探すのは、困難であった。

「腹減った…」

「我慢しろ!」

アクスは空腹で、今にも倒れそうだった。

「仕方ないわね…一回休憩にしましょう」

リーナはその言葉を無視し、壁に張り付いた状態で、周りの様子を見ていた。

「二人共、こっち」

二人はリーナの後ろから、リーナの視線の先を覗き込んだ。

そこには兵士が二人。

通信機を使って、何やら話している。

「了解。ただちに地下へ向かう」

その言葉を、三人は聞き逃さなかった。

「聞いたわね?」

「ええ、あの兵士を追いましょう」

兵士に気づかれぬよう後を追い、三人はある建物の前に着いた。

兵士達が中へ入っていく様子を見て、三人は確信した。

「ここね。少ししてから私達も行きましょう」

「罠の可能性もあるから慎重に行くわよ」

「その前に何か食ってからでも…」

「はいこれ」

サリアは懐からサンドイッチを取り出し、アクスの口に突っ込んだ。

「それでいいでしょ?」

りねぇ」

「いいから早く行きましょ」

リーナがアクスを引っ張り、無理矢理地下へと進んで行った。


地下への道は階段となっていて、ずいぶんと狭い道を歩き続ける。

しばらく歩き続けると、少しひらけた場所へと出た。

真っ白な空間に、小さな扉があった。

「さっきのやつらはこの扉の先か?」

アクスが先導して、扉を開こうとする。

扉の中央にある取ってを掴み、引っ張る。

しかしその扉は、横に引いても縦に引いても、開く気配は無かった。

「開かねぇ……ぶっ壊して進むか」

「駄目よ。気づかれちゃうわよ」

敵に気づかれる事を懸念けねんするも、その考えをあざ笑うかのように、突如とつじょ扉が開いた。

「とっくにバレてるってことね」

三人は警戒けいかいをより一層いっそう強め、扉の奥へと進んで行く。

中はさらに一層広く、下を覗けば、広大な研究所が見える。

人が入れるくらいのガラスの筒がずらりと並び、中には緑の液体が入っている。

アクス達は近くで見ようと、下へ飛び降りた。

間近で見たガラスの中には、思わず目をらす物があった。

人の腕。さらには、足や頭まで。

男女問わず、ガラスの中に詰められている。

「嫌な場所だな……」

アクスも目をすが、そらした先の光景に冷や汗が吹き出た。

「ヘルガン!ラックル!」

そこらの肉塊のと同じ様にガラスに入れられた、ヘルガンとラックルの姿があった。

ガラスを叩いて反応を待つが、目を覚まさない。

「二人とも手伝ってくれ。これをぶっ壊すぞ!」

アクスはこぶしを握り、ガラスに殴りかかる。

放った拳は空振った。

アクスの体が、ふわりと浮き上がったからだ。

それは二人も同じで、体がちゅうに浮いていた。

「なっ!?」

「なによこれ!」

直後に起こる、視界の混乱。

アクス達の目には、世界がゆがんだかの様に見えた。

「くそっ……サリア…!」

薄れゆく意識の中、サリアに手を伸ばすが、その手は届かなかった。

視界が歪んだまま、どこかへと落ちた感触を味わった。

徐々に元に戻っていく視界には、綺麗きれいな青空が見えた。

地下にいたはずのアクスは、その光景に違和感を感じた。

「どうなってんだ…」

自分の顔を叩き、意識をはっきりとさせた。

その目で再び、周りを見た。

目に写ったのは、丸い窓越しに見える太陽の輝き。

さらには、真っ青な海。

地下では見る事が出来ない景色けしきだった。

「地下に居たはずなのに、なんで地上に出てんだ……」

アクスが居る場所は、線路を走る汽車の中だった。

近くには何の気配も無く、走っている汽車に違和感を覚えた。

『不思議に思うかね?』

誰かの声が響く。

だいぶ年を取った男の様な声だった。

「誰だ!」

『ようこそ、俺の国へ。来ると思っていたぞ、ヘルガンの奴を追ってな』

「誰かって聞いてんだろ!」

アクスは何度も叫んだ。

しかし向こう側から、直接答えは返って来ない。

『君たちには俺の実験に付き合ってもらう。俺の国へ攻めてきたばつだ』

その言葉を最後に、話は終わった。

「やっかいな事になりましたね、アクスさん」

「無事だったかジベル」

「そりゃあ、いっつも貴方あなたにくっついてますしね」

「サリアとリーナも無事だといいんだが……」

『アクス!聞こえる?』

アクスの脳内に、サリアの声が伝わる。

「無事なのか!?」

『ええ、無事よ。アクスも大丈夫そうね』

「なんとかな。ただ、状況がまったく分からない」

『まずはリーナと合流しましょ。気配は辿たどれるわよね?』

「ああ…すぐにやってみる」

目を閉じ、リーナの気配を探り始める。

「居た!」

『それじゃあすぐに合流しましょ。私も位置は把握はあくしてるから』

「わかった。俺もすぐ…」

不意に、みょうな気配を感じた。

『どうしたの?』

「敵だ!上からくるぞ!」

アクスの言葉の後に、至る場所に敵が降ってきた。

街に何十体もの敵が降り注ぎ、地面に激突していく。

アクスが乗る汽車の上にも現れ、屋根を突き破って中へと入って来た。

それはゆっくりと顔を上げ、大きな口を開いた。

目や鼻が見当たらず、顔そのものが口となっていた。

身にまとっていた服は突然破れ、腕から剣が生えてきた。

そいつはアクスを見ると、一目散いちもくさんに飛びかかった。

荒い声を上げながら、腕の剣でのどを狙った。

敵の放った剣は、のどの前を横切る。

攻撃をやり過ごし、化け物の腕を剣ごとへし折った。

痛みで悲鳴を上げる化け物に、強烈なりをくらわせた。

壁に打ち付けられた化け物は、今度は怒りを込めて叫んだ。

「思ったよりしぶといな……」

アクスは腕を向け、こぶしを握りめる。

化け物の周りを氷が囲み、大きな箱となって化け物を閉じ込めた。

アクスは再び、手を強く握りめる。

その瞬間箱の中で、氷の針が化け物を突き刺した。

化け物の悲痛な叫びを聞き、アクスは氷を溶かした。

溶けた氷と共に流れる赤い血。

化け物の体には、無数の穴が空いていた。

アクスは死骸しがいに近づき、その化け物の体を注意深く観察し始めた。

「こいつが例の実験とやらか?」

「そうみたいですね。それにしても気持ち悪い魔物ですね」

観察を終えたアクスは、汽車の上に登った。

海の反対側には街があった。

アクスは一刻も早く仲間と合流するため、汽車から街まで跳び移った。


汽車から街までは遠いが、アクスは一回の跳躍みょうやくで無事に着いた。

しかし街に入ったと同時に、耳をふさぎたくなるほどの音が街中まちじゅうに鳴り響く。

それを合図に、地面から敵が現れる。

白い装甲が全身を覆う、機械生命体であった。

機械である敵は、アクスにも探知出来ず、アクスの動きが遅れた。

戸惑とまどって、その場に立ち尽くした。

そのすきに、アクスを視界にとらえた機械達が、一斉いっせいにミサイルを撃つ。

アクスは上に跳んで、ミサイルを避けた。

しかし、上に跳んだアクスを、建物の屋上から敵が狙う。

音も無い攻撃が、アクスの肩を貫いた。

空中で態勢を崩されたアクスは、地面に身体を強く打ち付けられた。

地面に落ちて、動きの鈍ったアクスを、再びミサイルが襲う。

何十発ものミサイルが撃ち込まれ、炎と煙が上がる。

延々と続く攻撃の最中さなか、煙の中からアクスが飛び出した。

飛んでくるミサイルをかわし、一つずつ機械を潰していった。

それでもなお、ミサイルの数は減らない。

アクスは再び、上に跳ぶ様に追い込まれた。

上に跳んだアクスを狙い、敵が再びどこからか狙いを付ける。

敵は建物から攻撃を放ち、アクスの太腿を撃ち抜いた。

「くそっ!」

「五十メートル先。白い建物の真ん中辺り!!」

唐突に、ヘルガンの声が敵の位置を知らせた。

声に気づいたアクスは、即座に言われた場所に目を向ける。

そして、建物全体を飲み込むほどの冷気を放った。

建物は一瞬で氷つき、アクスによって砕かれた。

さらに、下にいる敵に対しても同じ様にこおらせ、一気に数を減らした。

無事に着地したアクスは、辺りを見渡しながら叫んだ。

「無事だったかヘルガン!どこにいるんだ?」

仲間の無事に喜ぶもつかの間、アクスの目の前に現れたヘルガンが衝撃を与えた。

「なっ!?ヘルガン……お前!」

「すみませんアクスさん。ヘマしてしまいました」

ちゅうに浮き、全身があわい光に包まれたヘルガン。

体も透けて、まさしく幽霊そのものだった。

「どうしたんだ!?」

アクスがその体に触ろうと手を伸ばす。

伸ばした手がヘルガンの体に触れようとした時、アクスの手はヘルガンの体を通り抜けた。

「まさかお前……」

「はい。………死んでしまいました」

「っつ……!」

アクサは思わず、ヘルガンから目を背ける。

しかし、敵がそれをずっと眺めている訳でもない。

再びミサイルが、アクスを狙う。

「消えろ!!」

恐ろしい怒号どごうと共に、大量の冷気を発した。

飛んでいたミサイルは空中でこおり、動きが止まった。

ミサイルを撃っていたロボット達も、冷気にやられ、完全に停止した。


周りに敵がいない事を確認し、アクスはヘルガンから詳しい話を聞き始めた。

「話す事が多すぎて、長くなると思いますが…」

「手短に頼む」

「では始めに、ここに来てから聞いた男の声。あれは………僕の……父です…」

口調に悲しみを感じさせるヘルガンに、アクスはどう言葉を返すか迷った。

「それは……その……残念だったな…」

ヘルガンを首を横に振る。

「別に、いずれ落ちぶれると思っていたので。魔王軍に入っているとは思いませんでしたが」

「魔王軍。もしかして、そいつも幹部か?」

「はい。ほこらしげに語ってましたよ」

「そうか……急いで二人とも合流しなくちゃな…」

幹部と聞いてから、アクスの態度が変わった。

これまで魔王軍の強敵達と戦ってきたアクスは、その強さを重々じゅうじゅう理解していたからだ。

「あいつは科学者で、機械や生物学に精通しています。僕とラックルの身体も、その研究に利用するつもりです」

ヘルガンは自分のこぶしを握りめ、心の奥底にめていた言葉を吐き出す。

「あいつを殺すために……どうか、力を貸してください」

強い意志を持った言葉に、アクスはゆっくりと頷いた。

「……分かった。なら急ぐぞ」

上へと跳び上がったアクスは、宙に氷の土台を作った。

そこから二人の気配を感じる場所まで、跳んで行った。




























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