第4話 魔王軍幹部
ミルフィの町にアクス達が訪れてから一週間が経っていた。
この一週間の三人の働きは凄まじいものであった。魔王軍に堂々と喧嘩を売り、いくつもの拠点を潰して回っていた。
その成果のおかげか、新参者のアクスとサリアも今では他の冒険者達に認められていった。
「う~ん...どうしよう、クエストが全然ないわね」
当の三人は、最近の活躍ぶりで受けられる仕事がほとんどなくなっていた。
魔王軍の襲撃も最近は全く無い。だからといって、簡単な仕事は他の冒険者達が持っていってしまう。
他の冒険者達にも生活があるのだ、仕事を奪う訳にもいかない。
平和なのはいいが、実に悩ましい状況だった。
「アクスさん少しよろしいでしょうか」
ギルドの受付嬢がアクス達に尋ねてきた。
「皆さんにギルドから依頼したい事があるのですが」
「依頼?そりゃ願っても無いことだな、詳しく聞かせてくれよ」
「実は近くにあるシガの洞窟というダンジョンで冒険者達が行方不明になったと報告がございまして、皆さんに捜索をお願いしたいのです」
ダンジョンとは元はただの洞穴や砦などが、魔物の住みかになった物の総称である、
「シガの洞窟?あそこはとっくに探索され尽くしてなにもなかったはずだけど」
「リーナさんのおっしゃるとおりずいぶん前に探索し尽くしたのですが、最近ダンジョン内に怪しい人影が入る様子が確認されたのでその調査を他の冒険者様方に頼んだのですが...」
受付嬢は息を飲み言葉を続けた。
「...その人物は手配書に記されている魔王軍の幹部だったそうです」
リーナが席から腰を上げ、興奮気味に聞き返す。
「本当に魔王軍の幹部なの!?」
「えぇ…確かに間違いないそうです」
「そうと決まれば早速行くわよ二人とも!」
有無も聞かず、リーナは話を進めていく。
「よっしゃー!ようやく強いやつと戦えるんだな!?」
アクスもテンションが上がり、高々と声を上げる。
魔王軍の幹部と戦うのかもしれないのに、こんなにも乗り気になるのはこの二人だけだろう。
二人の様子を見て、サリアが深くため息をつく。
「はぁ…やっぱりそうなるわよね…。まぁ、ごちゃごちゃ言っても意味ないし、行きましょうか」
「ありがとうございます!ですが、くれぐれもお気をつけてください」
受付嬢は深々と頭を下げた。
アクスとリーナの二人は、軽い足取りで、跳ねるようにギルドを出た。
一方のサリアは、重い足取りで、ゆっくりと後を追った。
町から長い道のりを進み、三人はダンジョンへとたどり着いた。
このダンジョンはシガの洞窟と呼ばれていて、自然に出来た洞窟が魔物達の住みかになったそうだ。
「ずいぶん大きな洞窟ね」
岩山に開けられた大きな穴が奥底まで続いている。
その穴は深く、太陽の光で洞窟の中が照らされるも、奥の方は暗く、先まで見ることはできなかった。
「それじゃあ中に入りましょうか。でもアクス、ダンジョンの中では勝手に行動しちゃだめよ」
「なんで俺にだけ言うんだよ」
「あなたが一番そういうことしそうだからよ」
松明に火を着けた三人は、洞窟の中へと足を進めた。
洞窟の中は松明の光に照らされて鮮明に見ることが出来た。
辺りは剣山のように岩が鋭く尖っており、天井にもつららのように鋭い岩がびっしりと並んでいる。
長年探索されてきたダンジョンであるからか、道はある程度整地され歩きやすくなっている。
すると、先頭を歩いていたアクスが振り返り、二人に尋ねる。
「なぁ、やっぱり魔王軍の幹部って強いのか?」
呆れた様子でサリアが、アクスを叱咤する。
「またそういう話?もう少し緊張感を持ちなさいよ」
「まぁ…強さはまちまちだけど、そこらの魔物よりは強いでしょ。むしろ幹部が弱かったら、がっかりするわ」
リーナの言い分に、サリアが口籠るも、意を決したように聞いた。
「ねぇ…もしかして、リーナも戦闘バカ?」
「戦闘バカとは失礼ね、私は一番を目指しているのよ、強いやつがいたら戦いたくなるのは当然よ」
リーナは、当然の如くのように言った。
「それを戦闘バカって言うのよ…」
心底呆れた顔で、サリアはうなだれる。
ダンジョンの中を進んでいると、先頭を歩いていたアクスの足が止まった。
「どうしたのアクス?いきなり止まって...」
「しっ!」
話しかけたサリアの口をリーナが抑えた。
暗闇の中で足音が聞こえる、それに加えて鼻を刺すような異臭が風に乗って漂ってくる。
アクスは松明を前に掲げながら、少しずつ足を進めていった。
いつもなら大胆に進むアクスだが、今回は何故か慎重に進んでいた。
すると暗闇の中から、一人の男が現れた。
下を向きながら、ゆったりと三人に近づく男。異変に気づいたアクスが、松明で男を殴りつける。
松明の火が燃え移り、男の体が火に包まれる。
「なにやってるの!アクス!?」
異変に気づいていないサリアは、アクスがただの人を殴ったと思ったようだ。
「違う、よく見ろ」
松明で男を指すと、男の顔の部分に注目した。
燃えていて分かりにくいが、男の顔は人の物ではなかった。
口から獣のような鋭い牙が生え、大きな目玉が顔の中心に付いていた。その姿は、明らかに人ではなかった。
サリアは思わず口を抑え、目の前の男の姿に恐怖した。
男は体についた火を消すために地面を転がり回り、火を消した。
男は、低い唸り声を上げ、今にも襲いかかる勢いだった。
「こいつ…まだ立つのか」
「なるほど、こいつはキメラね」
キメラとは二種類以上の生物を合成した、生物である。
さしずめこの男は、殺された後に肉食獣と一つ目の魔物とでも合成されたようだ。既に肉体は死んでいる為、気配を全く感じなかった。アクスが慎重でいたのはそれが原因だろう。
リーナは指先からエネルギー弾をを放ち、男の頭を撃ち抜いた。男は動かなくなり、その場で崩れ落ちた。
リーナが、倒れた男の体を探り始めた。
男の胸には冒険者カードが掛けられており、リーナはそれをじっくり見た。
「この男も冒険者ね、おおかた捜索願いを見てやってきたんでしょうね」
サリアが、キメラと化してしまった男の死体に近づき膝を着いた。
男の体に触れ、目をつむり何かを考え始めた。
少しすると、より一層表情が曇った。自分の両手を握り、優しく祈りの言葉を掛ける。
「なぁ?その男は生き返らせたり出来ないのか?」
「…この人、過去に一度死んでいるわ、蘇生魔法は一度死んだ人は蘇生できないの…」
「そうか…」
アクスも男に近づき、サリアのように祈りを捧げた。
「悪いけど祈りはまとめてやってくれる?新手が来たわ」
洞窟の奥から、さらなる敵がやって来た。
先程の男と同じく、キメラにされた元人間達であった。
「やれやれ...ここの
「そうだな、どんなやつか顔を拝んでみたいぜ」
アクスとリーナは、大勢のキメラ達を前にしながらも、余裕の笑みを浮かべていた。
キメラの群れを倒し、ようやく洞窟の深部へとたどり着いた三人。そこは広間になっており、すでに探索され尽くされた後だった。さらに、洞窟はここで行き止まりとなっていた。
「おかしいわねなにもないわ」
「いいえ絶対なにかあるわ、念入りに探しましょう」
三人は、洞窟の深部を探索し始めた。
壁を叩いてみたり、地面を足で軽く蹴ってみたりするも、手がかりは見つからなかった。すると、アクスが何かを探り当てた。
アクスは壁の一部に鼻を当て、匂いを嗅ぎ始めた。
「うげっ!血の匂いがする、それと腐った匂いだ…」
アクスが指し示した壁を調べ始めると、かすかな魔力が残っているのが分かった。おそらくは、魔法による仕掛けがあるのだろう。
「お手柄よアクス!後はどうやってここを開けるかね…」
額に指を置き深く考え込む。
「邪魔よどきなさい」
リーナがアクス達を押しのけ、拳に力を込め強烈な一撃を放った。
壁は粉々に砕け、壁の一部が木製の扉へと変化した。
「なるほど、魔法でカモフラージュしていたのね。それにしてもリーナ、いきなり壊すのはやめてよ」
「悪かったわね。でも、こっちの方が早いのよ」
平然の顔で扉の先へと進むリーナ。二人もそれに続き、先へと進んだ。
するとそこには、先ほどの場所とはかけ離れた光景が目に写った。
白い壁に、天井を支える大きな柱が立ち並び、目の前には大きな扉が構えてあった。壁には何やら文字が書かれているが、見たこともない言語で書かれている。
「古代の遺跡かしら、まさかこんな所にあるなんて…」
美しい建築物に、サリアは目を輝かせうっとりしている。
「綺麗…」
そこに、耳をつんざく恐怖に満ちた悲鳴が聞こえてきた。
「今の声...向こうから聞こえてきたよな」
大きな扉を指さし二人に尋ねた。
「もしかして生存者かしら、だとしたら急がないと!」
慌てて扉に駆け寄り開けようとするも、扉には錠も取っ手もなく隙間から向こうの様子がかろうじて見ることしかできなかった。
無理やり開けようと、隙間に指を入れ開こうとするが、扉は固く閉ざされており開けることが出来なかった。
「ぐぬぬぬぬ…開かねぇ…」
「どいて!」
リーナが扉に向かって気を込めた強力な一撃を放ち扉を砕いた。
扉の向こうはずいぶんと荒らされているが、さまざまな本や瓶に入った液体が並べられており、はるか昔に誰かが住んでいたといたと見える。
さらに奥の方にも扉が見える、その扉の前に先程の悲鳴の主であろう男が、扉にもたれかかるように座り込んでいる。
男は身長は低く体も細い、貧弱そうな事が見てわかる。それに加え頬が痩せこけている、だがそれは元々の姿のものとは見えない。しばらく食事を取っていないのだろうか。
質素な緑のローブを身に付けているものの、ホコリや血にまみれ汚れていた。
男はこちらに気づいたようで、床に落ちていた緑の羽帽子を灰色の髪の上に乗せ、三人に向かってよつん這いで這いつくばりながら慌てて助けを求めた。
「たっ!助けてください!黒い女性がいきなり現れて、そしたらいきなり消えて...」
男は腰を抜かしているようで、アクスの足にしがみつきながら話した。
ひどく弱っている様子で息を激しく切らしている。
サリアがそっと近づき、男の肩ををなぜながら落ちかせた。
「落ち着いて、もう大丈夫よ」
サリアの言葉に落ち着きを取り戻した男は、いくらか呼吸を置き少しずつ話し始めた。
「僕の名前はヘルガン=ニアニス。ここには好奇心で入ったのですが、変な人達に襲われてしまい奥に逃げ込んだのですが、そしたらいきなり女性が現れて襲われて…」
一通り説明を終えたヘルガンは、まだ何かに怯えた様子で震えている。
「詳しい事は後で聞こう、今はここから出るぞ」
アクスはヘルガンの手を引っ張りあげ、支えるように肩を貸した。
四人は部屋から出て外へ出ようと、元居た場所まで戻ろうとした。
しかし先程通ってきた穴の前まで行くと、何かに弾かれた。
「痛っ!なにこれ結界?」
目には、うっすらと黒く光る魔法の壁が貼られていた。
アクスとリーナは入口に背を向き、気配を探ることに集中している。だが、全く気配を感じない。
「…こうなったら結界を壊すわ、時間を頂戴」
焦りを感じたのか、サリアが結界を破ろうと杖を構える。
その時、サリアの背後の空間が歪み、見知らぬ女が現れた。
女はサリアに短剣を思い切り振りかぶる。
「サリア!!」
突然現れた気配にアクスが気づくも、ヘルガンを支えている状況の為に、すぐに行動を起こす事が出来なかった。
声に気づいたサリアが振り返ると、既に顔の前に短剣が迫っていた。
次に気づいたリーナが、女に対して素早く蹴りを放つも、再び空間が歪み、女はその場から姿を消した。
「なっ!?」
再び気配が感じられなくなった。
サリアが腰を抜かして地面に座りこんだ。
目の前に突きつけられた恐怖を思い出し、顔からどっと汗が吹き出てきた。あと少しで死ぬかもしれなかった恐怖が精神を
「大丈夫かサリア!?」
「うん、大丈夫…」
汗を腕で拭うも、未だに汗が吹き出ている。
「すまねぇリーナ、助かった」
「別にいいわよ。それよりも敵に集中しなさい」
リーナを守るようにそばに寄りつつ、辺りを警戒し始めた。
すると、アクス達の目の前の空間が歪み、大胆にも女が姿を現した。
その女は、白く透き通った肌に対し、黒い髪がよく目立つ。
腰に短剣を差し、露出の高い服の上に、黒いマントを羽織っている。
女はほくそ笑みながらアクス達に話しかけた。
「なかなかやるわねあなた達、普段だったら今の攻撃で殺せてたのに」
アクスの眉がひそめられる。
「サリア、ヘルガンを頼む」
サリアにヘルガンを任せ、自身は二人を守るように立ち塞がった。
女は続けてリーナに話しかけた。
「ところでそっちのお嬢さんは…」
お嬢ちゃん。その言葉に反応したリーナは、話を遮り女の頭目掛けて、指から熱線を放った。だが、軽々とかわされ、リーナは軽く舌打ちした。
「なに避けてんのよ、当たりなさいよ」
「あなたがリーナ=ガデンね…話には聞いていたけど随分と物騒な女ね」
女は、リーナの事を知ってるような口振りでさらに話を続けた。
「当時十八歳にして魔王軍幹部の一人を打ち倒した人間。どれほどのものかと思ったけど、案外大した事なさそうね」
アクスら三人は、リーナの顔を見つめて驚きの表情を浮かべた。
「お前そんなすごいやつだったのか、道理で強いはずだな」
賞賛の声をかけるも、リーナは嬉しくなさそうだった。
「...あんなのただのまぐれよ」
リーナは視線を女に向けたまま、ヘルガンに尋ねた。
「ところで、あんたが言っていた黒い女性ってのはこいつ?」
先程よりも体を大きく震わせながらも、ヘルガンが指を指して答える。
「そっ...そうです!この女の人がそうです!」
「おまえ何者だ?」
アクスの問いに、深くお辞儀しながら答える。
「私は魔王軍幹部、吸血鬼のラルト。覚えていて頂戴ね」
“魔王軍幹部”その言葉を聞いたサリアの目が変わる。
「へぇ…のこのこと魔王城から出てきた馬鹿が!今ここで始末してあげる!」
気合と殺意の混じった声を上げ、指を鳴らしながら、リーナが近づく。
そこにアクスが片腕を広げ、リーナの前に出る。
「待て、こいつは俺がやる」
しかし、リーナが譲る事はなく。
「こいつには喧嘩売られたのよ?私がやる!」
「そんなん言ったら、先にこいつはサリアを殺そうとしたんだ!俺がやる!」
「私よ!」
「俺だ!」
お互いの激しい気持ちがぶつかり合い、どちらも譲る気はなかった。
その光景を見て、皆が呆然としていた。
二人の張り合いに我慢出来なくなったのか、サリアが声を上げた。
「どうでもいいから!さっさとそいつ倒しちゃいなさい!!」
「「はっ…はい!!」」
サリアの気迫は凄まじく、アクスはともかくリーナまでもが怯えていた。
「逃げないんですか!?相手は魔王軍幹部なんですよ!?」
「残念だけど…あの二人は戦闘バカでね、逃げるなんて選択肢は多分ないわよ」
「えぇ…」
二人にもずいぶんと振り回されてきて思い知ったのか、サリアは半ば諦めていた。
これには、ヘルガンも思わず引いていた。
「まぁ…あの二人は強いから、二人で協力すれば幹部くらい…」
二人の事を信頼していたサリアの気持ちは、裏切られた。
「「じゃんけん、ぽん!!」」
なんと二人は、その場でじゃんけんを始めた。
サリアの口が、開きっぱなしになり、ぼそぼそとなにかを呟いている。
じゃんけんはその後も、あいこを繰り返し、五戦目にして勝負がついた。
「よっしゃー!俺の勝ち!」
「ちっ!」
拳を高く掲げ喜ぶアクスに対して、リーナは大きく舌打ちをつくと、サリア達の元に下がった。
「なにやってるよ馬鹿!一人で戦うつもり!?馬鹿じゃないの!?」
大きく腕を振り回しながら、アクスに怒声を浴びせる。
サリアに怯みつつも、アクスが言い返す。
「でもよ、相手は一人なのに二人がかりでやるのは卑怯だろ?」
場が静まり返る。短い沈黙の後、サリアが再び声を出す。
「戦いに卑怯もないわよ!なんでそんなに馬鹿なのよ!」
「あら、本当にひとりで戦うつもり?」
冗談だと思っていたのか、アクス達の行動に呆れ、笑っている。
アクスは小さな笑みを浮かべながら、言い捨てる。
「お前くらい一人でどうにかできねぇと、魔王なんて倒せないからな」
先程まで笑みを浮かべていたラルトが、アクスの発言が
「言ってくれるわね…」
一歩ずつ歩きだし、次第に速度を増しながらラルトが近づいてくる。そして、目の前で加速し姿をくらませた。
目では見えないが、気配を探り相手の居場所を掴んだ。
アクスの後ろに回り込んでいたラルトを、振り返りざまに蹴った。
防がれ、足を掴まれるも、手の中に雪のエネルギー弾を作り出し、ラルトの体に押し付ける。エネルギー弾が光り、爆発を起こす。
爆発を氷で防いでいたアクスもダメージを受けたものの、拘束からは逃れる事が出来た。
漂う爆煙の中から、何本ものナイフが投げられてきた。アクスはそれを指で受け止める。
わずかに出来た隙を突き、ラルトが後ろに回り込み横薙ぎに腕を払った。
吹き飛ばされたアクスは、地面を削りながら止まる。すぐさま反撃を試み、真正面から突撃する。
二重の紫の魔法陣を掌に現し、ラルトが魔法を唱える。
「『ノムクラ』」
掌に現れた、大きな闇のエネルギー体が小さく分裂し、アクスに向かって飛ばされた。
闇のエネルギー弾は、アクスを狙ってくる。
四方から飛んでくるエネルギー弾をかわすも、地面に激突したエネルギー弾が爆発し、煙を巻き上げる。
すぐに爆煙を腕で払いのけるも、目の前にラルトは居なかった。
気配も感じない。すると、アクスの背後から突如ラルトが現れた。
手にはエネルギー弾を溜めており、それをアクスの胴体に押し付けた。
「じゃあね…」
エネルギー弾が放射状に爆発した。
爆発に吹き飛ばされたアクスは、ボロボロになっていたが、ダメージは大きくなく、幸いにも立ち上がる事が出来た。
「ずいぶん頑丈なのね」
アクスは、服の汚れを手で払った。
「ふぅ…危ねぇ、この服がなかったらもっとダメージを受けてたかもな」
サリアの作った服の性能は本物で、あの爆発を食らっても汚れがつくだけだった。
「さぁて…今度はこっちの番だ!」
にやりと笑い、アクスが口から氷を吐き出した。
氷は霧の様に広がり、辺りを
「ふん!こんなもの…」
視界を奪われるも、冷静に対処をしようと構える。
次の瞬間、ラルトの背後から人影が現れる。
それを見逃さなかったラルトは、急所を狙い腕を突き刺した。
確かな手応えを感じたラルトが、勝ち誇った。
「氷の煙幕に紛れて背後からの攻撃…そんな手は私には通用しないわ!」
腕を引き抜こうとしたラルトが違和感を感じる。感触がおかしい、血も出ない。
霧が晴れ、その理由を
「なっ!これは氷の分身!?」
それはアクスではなく、氷で出来た
アクスはラルトの背後に回り、勝利を確信したかのように微笑を浮かべた。
「おまえの戦い方、参考になったぜ…」
手に溜めたエネルギー弾を、先程のお返しのように放った。
爆風で吹き飛ばされたラルトは、地面に転がるもすぐさま体制を立て直した。
だが、ダメージが大きいのか、体制を崩してしまい、地面に膝を付いた。
「ここまでね…悪いけど今日は帰るわ、今度は万全の状態で戦ってあげる、覚悟しときなさい。『ノムン』!」
魔法陣を宙にかざすと、空間に穴が空いた。
「待てっ!」
咄嗟に止めようとするも、穴の中にラルトが消えていってしまった。
「くそっ!」
すんでの所で逃げられ、アクスは悔しそうに地面を蹴る。
「アクス大変よ!」
不意にサリアが、大きな声を出した。
急いで駆け寄ると、ヘルガンの調子が急変していた。原因は分からないがひどく苦しんでいる。
「二人とも、ヘルガンの応急処置が済んだら急いで町に戻るわよ!」
サリアが回復魔法を唱え、ヘルガンの様子を安定させ、アクスがヘルガンを背負い上げた。
三人は大急ぎで、ヘルガンを町へと運んだ。
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