通信施設への突入――マリウス・ハリガン

 ボギーのローターが止まり、辺りの隊員の息遣いが聞こえるようになる。そろそろか。

 

 ヘリボーンで上陸する場合、ヘリコプターなどを守りつつ環境に慣れる時間があるのだ。目を慣らしたり、聴力を取り戻すために。

 

 号令を出し、機体を中心に展開していた円陣を解く。


 まずアルバーンのもとに寄り、状況の確認だ。


「二人は無事か?」


 アルバーンの両脇にいる橘君、松島君はそれぞれ、「大丈夫」と答える。


 航空写真を取り出し、それを懐中電灯で照らすと、近くの皆が眩しそうに目を細める。


「橘君、君が頼りだ。もう一度聞くが、聖堂には子ども達を集めないのだな?」

「ええ、そこは親父達にとって聖地です。戦闘に巻き込むことはないはず。それよりも自警隊の通信施設か、寮が怪しいと思います」


 「分かった」と答えておき、それぞれの部隊に指示を飛ばす。


 シェパード分隊には寮に向かってもらい、わたし達ハウンド分隊は通信施設に向かった。


 どこに椿会が潜んでいるか分からない中、警戒しながら森の中の道を行く。

 だが意外なほど罠がなく、即席爆弾も落とし穴もなし。


 通信施設は、馴染みがある鉄筋コンクリートの建物だった。元々は自衛警察隊の施設だから、軍事施設として構造は分かりやすいかも知れない。


 ハウンド分隊は更に2班に別れ、我々が正面玄関を守り、もう一つの班が裏口の他に出入り口がないか探る。

 こういう場合は見張りがいるかも知れないが、逆に中で待ちかまえていることも考えられる。


 しかし玄関と裏口意外の出入り口は見つからなかった。見張りもなく、監視カメラを見つけたぐらいだった。


 正面玄関のわたし達は、わたしの号令でドアを蹴破り突入する。別働隊も同時に突入したはずだ。


 施設内は送電が止まっているらしく、消灯されており、すぐに皆が暗視装置を起動する。

 島の発電所は破壊しているから、敵は暗闇の中我々と戦うことになるはずだ。

 ゴーグルを覗くと、緑の世界が広がる。


 玄関から入るとまず警備室があり、奥に様々な札のかかる部屋があるが、今どのような使われ方をしているかは検討もつかない。

 

 罠がないか、廊下を進みながらの警戒。すると、突然電灯が点灯する。

 暗視装置の中の世界が明るい緑一色になり、何も見えなくなる。

 慌ててゴーグルを外すが、光のある世界に目が慣れない。

 無理に目を凝らし、背後など周りを警戒する。だが誰もいない。


 そしてまた消灯。


 ストロボのように、我々を馬鹿にしたようなテンポで電灯が明滅する。

 どうやら暗視装置を使う手は封じられた。このストロボの中で戦うのはきつい。


「武蔵、ここの発電機はどこだ!」


 松島君が堪えられずに橘君に聞くが、彼も混乱しているようだ。渡しておいた暗視装置もさっさと脱ぎ捨ててしまった。


「ここは初めてだ! 知らん!」


 確かに、送電を止めているはずだが、この施設は自前の発電機か蓄電器を持っているようだ。島の発電所ならとっくに破壊している。

 ふと一人、別行動をしようとする人影を見つける。


“11、どこへ行く”

“警備室にブレーカーがないか見てきます!”

“お前順応できているのか?”

“任務遂行できます!”


 そういえばアルバーンは夜目が利いたな。


“分かった、行け”


 一人で行かせるのは心配だが、他の隊員を連れて行っても足手まといだ。彼女一人で行かせるしかない。


 短機関銃を構えながら足取り軽く走っていくのを見る限り、本当に順応しているようだ。


 アルバーンがブレーカーを探している間、我々も辺りの警戒を続ける。

 玄関から椿会のメンバーが入ってくるかもしれず、はたまた廊下の奥から来るのか部屋から飛び出てくるかも分からない。


 アルバーンがすぐに戻ってきたところを見ると、ブレーカーはなかったようだ。


“ハズレか?”

“はい”


 となると、このまま進むしかなさそうだ。


“11、06まるろくと先に進め。一つ一つ部屋を潰していく”


 返事だけは一人前なアルバーンは皆を先導していく。

 一番手前の部屋の前に着くと、06、スプロストンSprostonがドアを破壊し、先頭のアルバーンがスタングレネードを投げ入れる。そしてわたし以外の隊員が突入していく。

 わたしはゲストの二人を背後から護衛し、スプロストンは廊下の先を警戒する。


 「動くな!」とアルバーンが威勢良く叫ぶも、皆がすぐに出てくるあたり、ハズレなのは伺える。


 次の二部屋でも同じ事の繰り返しだった。


 電灯を破壊しながら進むことで、なんとか目潰しに対応しているが、遠くでちかちかするのもなかなかストレスになる。


 そして両開きのドアの部屋にたどり着くと、経験上、その部屋には何かがあると予感する。

 今までの部屋の間隔よりドアが遠く、広い空間があると伺える。


 ドアを吹き飛ばし、皆が押し入る。


 二人を護衛しつつ、皆が出てくるのを待つが、何故か皆押し黙る。


“誰かいたか? 安全か?”

“安全です。ただ……”


 部屋の中を覗いたスプロストンも、何かを言いよどんだ。


 二人をスプロストンに任せ、わたしも中に入ることにした。

 そして、わたしも言葉を失ってしまった。





スタングレネード——殺傷が目的ではなく、強烈な光や音で周囲の人間を無力化することが目的の手榴弾。一時的に目が利かなくなったり、酷い耳鳴りで動けなくなる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る