追跡者——パール

 路上で駐車し待っていると、すぐ脇をトレーラートラックが猛スピードで通過した。

 それを追い、あたし達は発進した。

 まああたしは助手席で、運転はオストロOstroに任せている。


 中に精密な商品が入っているらしいけど、詳しい内容は教えられていない。まあ、鈴谷の指示だから、医療器具関連とは思っている。

 もしくはスパコンか。


 だいたい、あの野郎は隠し事が多すぎる。つい最近まで名前も顔も知らなかった。ビジネスを始めるまで研究の内容も明かさなかった。

 そういう奴の信頼度なんて0ゼロだ。


 ふと、オストロがバックミラーを気にし始めた。振り向いてみると、あたし達に全速力で迫ってくるバイクがいた。

 こりゃトレーラーを狙ってるな。


 まあルルーの伯父さんからも全力で守るよう言われているので、仕事はする。


「追い越させるな」


 オストロはすぐ白線を越え、反対車線側から追い越そうとしていたバイクを足止めする。

 対向車にクラクションを鳴らされた。

 当然と言えば当然だが、バイクはすぐ路肩側に移動した。

 それに合わせ、あたしも銃を取り出す。


 改めてバイクを見ると、ライダーはショットガンをスリングで肩に掛けていることに気が付いた。

 そしてどうも女性らしく、華奢で、黄色いアウターシャツをはためかせている。ヘルメットからは長い金髪がなびいている。

 あたしにはない長い髪だ。


 彼女がやはり追い越そうとするので、すぐさまオストロがガードレールと車体で挟み込む。

 バイクはたまらずブレーキをかけ、あたし達の車の後方に下がる。


 バイクが後ろに来たところで、あたしは座席を倒し、リアガラス越しにピストルを構え、彼女の頭を狙う。

 すると、ライダーは立ち乗りを始めた。

 まさかとは思ったが、彼女はショットガンを構え、あたし達に向けた。


 もたもたしていられず、彼女の頭を狙い撃った。しかし間一髪のところで避けられた。

 彼女は何かに感づいたらしく、立ち乗りをやめしゃがみこんだ。

 割れたリアガラスの向こうで、バイクをふらつかせながら、あたし達から離れていった。


 立ち乗り射撃というのは、なかなかできるものではない。軍隊のエリート部隊がやっているかやっていないかの技術で、かなり特殊な射撃だ。移動しながらの射撃なんてなかなか当たらないし、実用性が限られているのでしないのが普通。

 あたしもできない。


 だいたい、バイクのアクセルとクラッチから手を離して速度を維持できるのは、普通のバイクではない。何か改造しているようだ。


 バイクは車から200メートルほど離れたが、すぐに追いつき始める。

 トレーラーを護衛する都合上、140キロ程しか出せていないのだが、相手は200キロ以上出せるのだろう。

 彼女は急加速で前輪を浮かせながら迫ってくる。


 再び立ち乗りの姿勢になり、身体をハンドルに押し付けて、またこちらにショットガンを向ける。

 だが、あたし達に向けると言うより、もっと下のようだ。


 発砲と共に、散弾が車を叩きつける音がした。車がぐらつき、車は左に逸れていく。


「タイヤをやられた!」


 オストロは叫ぶと、ブレーキを踏み、車を無理やり停車させる。

 スピードが出ているのだ、ハンドルを持っていかれると横転する可能性もあるので、その操作は妥当だ。

 だが横転こそしなかったものの、横滑りし、街路樹に車が衝突した。


 車の中でさんざん揺さぶられ、気が飛びそうだった。


 バイクは掠めるように横を突っ走り、トレーラーを追いかける。

 オストロはハンドルに突っ伏しながら、静かに唸っている。


 バイクの彼女の発砲だろうか、破裂音と、それに続く衝突音がした。


 それとは別に、遠くでサイレンの音が聞こえるが、これは警察車両ではなく、消防車のようだ。

 一瞬どきっとしたが、消防隊ならまだいい。


 あたしはなんとか意識をつなぎ止め、起き上がるが、その時にはトレーラーも止められたらしく、その扉が開いていた。

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