79、十文字タケルの熱意
『あへっ!流石人間様!出来る男は違うねっ!』
「手のひらくるっくるじゃねーか……」
俺が引き取ることを決めると、露骨に態度を変える洗濯を司る神。
そもそも洗濯を司る神ってなんやねん。
掃除とか清掃じゃいけなかったのか?と突っ込みを入れたくもなる。
もし神全員に『●●を司る神』の異名が入るならエニアはなにを司るのか気になるところではある。
『人生とは選択の連続だ。人は誰だって常に選択を強いられる』
「確かになー。理沙も毎日洗濯してるよ」
『これ、格好付ける時使って良いぞ!神の許しを与える!』
「格好付ける時はそんな当たり前の言葉使わないよ」
何か格言的なものをタケルたちに紹介しているが不評のようであった。
ウチでもおばさんが毎日洗濯を頑張っている。
『とりあえず名前!名前を紹介しろ!』
「上からだなぁ。俺が秀頼。こっちから山本、タケル、ヨル、絵美、アリアの順番」
「俺だけ名字じゃん!」
「山本じゃなくて大悟!はい、全員ぶん!」
『ヒデヨリ、ヤマモト、タケル、ヨル、エミ、アリア……。覚えた!』
自称神のぬいぐるみが1人1人指しながら確認し、記憶出来たようだ。
山本が唯一「だから俺の名前は山本じゃねぇよ!」と反論している。
実は山本も名前で呼ばれたい願望でもあるのかと勘ぐりたくなる。
「よし、次はおめえだ。洗濯神。てめえの名は?」
『あへっ。それが長年封印されていたせいで自分の名前を思い出せない……』
「なんだよ、おじいちゃんかよ」
『もしかしたらオレは神の位を剥奪されて名が消されただけかもしれないがな』
「絶対前者のおじいちゃん案件でしょ」
ヨルのおじいちゃん呼ばわりだが、この場にいる全員がそちらに納得していた。
神の位が剥奪されて云々は名前を忘れた言い訳にしか聞こえない悲しき事実……。
『あへっ。オレには名前がない。オレを引き取ることを公言したヒデヨリ。お前に神であるオレの名前を与える権利をやろう。素晴らしい名前を頼むよ』
「は?俺?」
『そうだ』
なんだこの感じ……?
まるで捕まえたポ●モンにニックネームを付けるかのような微妙なワクワク感がなきにしもあらず……といった心境にさせられる。
「じゃあサンド」
『おい!砂から見付けたからと言ってテキトー過ぎんだろ!?もっとじっくりこってり考えろ!』
「じゃあパンを付けて……パンサンド?」
『サンドイッチみたいな名前やめろ!?神だぞ神!?選択を司る尊き神だぞ!?』
「自分で尊きとか言わんほうが良いぞ」
自分で俺に名前を付ける権利を与えながらその実文句のオンパレード。
面倒だ……。
もうなんでも良いやと5秒ほど黙り込み思案していく。
「じゃあサンドラでどうだ?」
『どうしてもサンドは付けたいんだな』
「そこは譲れない」
砂から出てきた珍ぬいぐるみ・サンドラ。
よく合うと我ながら惚れ惚れする。
『じゃあサンドラだ。オレはサンドラ、よろしく頼むぞ相棒』
「お呼びだ山本」
「流れ的にお前だろ!?人をぬいぐるみの相棒にするなよ!?」
『みんなしてぬいぐるみぬいぐるみとバカにして!オレが神の姿に戻りし時、全員が平伏するだろう!』
「あそ」
『すっげぇどうでも良さそう……』
別にこんなぬいぐるみのパチモン神じゃなく、ギフトを配る本物の神様相手に平伏してないわけだしサンドラがどうなろうがそんな事態は起きない確信がある。
「本当に大丈夫か明智?ぬいぐるみの化け物なんか拾って?」
「なんかあったら箱に封印するよ」
『ぐっ!?すでにオレの弱点を見破りやがって……!』
「悪さすると平気で始末するからな」
タケルに手を伸ばすと察したようにライターを手渡す。
わざとらしくシュボと音を立てて火を付け、それをぬいぐるみの前に突き付ける。
「俺の部屋にガソリンがある。そのガソリンに引火させて始末する」
『わ、わかりましたよぉ……。悪さなんかしませんよぉ……。あへぇ……』
ちょっとだけオリジナルの秀頼を意識した演技をして、見えない首輪を付けておく。
生殺与奪の権利はこちらにあることを見せしめする。
「でも秀頼君。サンドラを拾ったけどおばさんになんて説明するの?」
「猫」
「猫じゃないよね!?気付くよ!?」
「大丈夫だよ、とりあえず猫拾ったとか言えばなんとかなんだろ」
とりあえず世話とかは俺が引き受けておこう。
極力おばさんにはなんにもさせない方向で説得するしかない。
「エサ代とか大丈夫?」
「ぬいぐるみだしエサとかないだろ」
「確かに……」
『あへっ!?なんか食べたいよ!?ぬいぐるみ差別やめろよ!?』
食べるのかよ……。
消化器官とかどうなっているのか、非常に気になるサンドラのぬいぐるみの中身である。
「あ!ところでさ、そろそろ課題終わりの時間だよ?」
アリアが腕に付けた高級そうな時計を目にして呟くと全員がハッとする。
「そうだ!まだティラノ掘ってねぇ!」
「土器だよ土器!あたしの縄文土器!?」
「本気だったんだこの2人……」
タケルとヨルは急いで地層を掘る作業に戻るも、残り10分もなく終了時間目前である。
課題のことを知らないサンドラがポカーンとしていた。
結局このまま変な箱を見付けた以上の成果はなく、地層を掘る課題は終了したのだった。
「ティラノ……」
「縄文土器……」
「その熱意すごいね……」
タケルとヨルが悲しそうな顔をしたまま、全員集合に巻き込まれていくのであった……。
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