53、遠野達裄は自信満々

「達裄さん。俺が死んだら世界をジュラ紀からループさせてやり直してください。次は上手くいきますから」

「俺にそんな能力ないよ」


半ば諦めムードの俺は達裄さんに世界のループをお願いしたが、願いは聞き届けられなかった。

しかし、ループしたところで明智秀頼が俺という人格を蘇らせる可能性は低いわけで同然のように原作ルートを辿るだろう。

救われないな、明智秀頼という男は……。


「それに1日あればどうにでもなるさ。なんたって俺がバックに付いていて負けるわけないからな。これは秀頼とアイリの戦いだろうけど、同時に俺とアイリの戦いでもあるのさ」

「うっ……」

「なんのダメージ受けたんだよ!?」


彼の漢らしい主人公オーラがぶっ刺さる。

現役リア充イケメン男に近付くだけで、闇属性の俺は干からびそうであった。


「時間もないから早速実戦だ」


お金で借りることが出来る体育館を用意していた達裄さんは、俺が来る間にセッティングを終えていたらしい。

その気遣いを見習いつつ、俺はマイ竹刀を取り出した。

織田との戦い以降、本格的に竹刀を購入したわけだがやはり自分の物は手によく馴染む。


「じゃあ、対戦相手は彼女だ。よろしく頼む」

「え……?」


達裄さんが『彼女』を呼び掛けると、体育館の奥から竹刀を持ってズカズカと歩いてくる。

あり得ない光景に、自然と目が大きく見開いていく。

証明に照らされた金髪が輝き、長髪が瞬く。

無機質な仮面から覗くラベンダー色の眼はまっすぐ俺を捉える。


「か、仮面の騎士!?なんでお前がここに!?」

「…………」


どう見ても彼女の正体はアイリーンなんとかさん、もとい仮面の騎士本人であった。


「一体何しに!?」

「いや、違うよお兄ちゃん」

「おにいちゃん…………?ん?」

「仮面さんじゃないよ。私だよ私。星子だよ」

「は?」

「くふふふふふ……」


達裄さんが腹を抱えて大爆笑をしていた。

ま、まさかこれ『キャラメイク』のギフトを使用した星子なのでは?という真実に辿り着く。

そして、今日の日中に星子が俺のクラスを覗いていたのを思い出す。

兄をシカトした兄離れではなく、わざわざ顔を知らなかった仮面の騎士の偵察をしていたのだと点が線のように繋がっていく。


「星子ちゃんのギフトはね、人に化けると運動神経やスペックも完コピ出来るように進化したんだって」

「…………」


星子のギフト、やばくない?

その内、『ギフト所持者に変身するとギフトまで使えるようになったの!』とか言われるかもしれないと戦々恐々としている。


「ただ、仮面の中身がわからないからイメージが弱いけど……」

「じゃあ仮面取ってみて」

「ババーン!」

「うぎゃゃゃゃあ!?のっぺらぼうだぁぁぁ!?」


仮面を被っていた時には確かにあった目玉が消えていた。

それに鼻、口、眉毛など顔にあるパーツが消失してしまいアイリーンなんとかさんの肌の色だけが顔一色に染まっていた。


「スタチャスマイル☆」

「声は可愛いけど!口ないのにどこから発音してるの?」

「さぁ……」


相づちを打ちながら仮面をまう星子。

まだまだ発展途上な星彼女のギフトはわからないことだらけである。

まだ伸び代があるというのだから、星子のギフトは知り合いの中でも1番の壊れスペックを持っていることは想像に難しくない。


「はいはい。兄妹同士のイチャイチャはそこまでにして!」

「そ、そんな……。イチャイチャなんて……」

「い、イチャイチャなんてしてませんよ……」

「そういうベタなのは求めてないのよ。カメラまわってないでしょ?」


達裄さんが手を叩きながら遊ぶのは終わりの合図を送る。

珍しく真面目な達裄さんの声に、俺も気を引き締める。

星子も律儀に竹刀を向けて様になった構えを見せる。


「じゃあ、感覚を掴め秀頼。今日の星子ちゃんの打ち合いで何か対策を見付けるんだ」

「わ、わかりました!」

「行きますよお兄ちゃん!」

「殺す気で剣を振ってこいっ!」


お互い同時に剣が振るわれた。

バンッという激しい音を立てながら建物内に反響する。


「ッ……!?」


腕に痺れるような電流が走る。

織田のような雑魚には起きず、強敵と打ち合った時のみに走るこの痛みが俺の脳を覚醒させる。


「なんでお兄ちゃんがこんな修行が必要なのかはわかりませんが、絶対に勝ってくださいね。メェェェン!」


星子の竹刀が脳ミソを叩き割るような一撃を放ってきた。







─────







そんなわけで、1日のみの修行も終えてヘトヘトで帰宅した俺はアリアのストッキングの匂いをかぐ気力もないまま眠りに付く。

次の日の授業は、催眠授業を取り入れ、眠りながら授業を頭に叩き込む。

残念なことにノートが真っ白なので、明日にでも山本のノートを丸写しする必要がありそうだ。

午前中の授業中のほとんどを睡眠に費やし、午後からは覚醒に慣れさせるように目を開けていた。

部活もサボる宣言をして、いざ武道館に足を踏み入れた。

恐る恐ると足を踏み入れると、アイリーンなんとかさんとアリアは待ち構えるように立っていた。

決闘の場の真ん中には審判のようにして立っている悠久の姿があった。


「来たわね。明智秀頼」

「よくもお前は俺の前に姿を現せたなこの野郎!」

「え?え?え?な、なに?」

「まずは前座、俺が悠久をボコボコにする」

「な、なんでぇぇぇ!?」

「お尻ペンペンで勘弁してやる」


まず真っ先に苛立ちのストレスを爆発させるように悠久の身体を取り、柔道の固め技をする要領で床に寝かし付ける。

昨日の修行で身に付けた瞬発力は冴えまくっていた。


「ど、どうしてぇぇぇ!」

「お前がギフトの情報をアイリーンなんとかさんに横流ししたのはわかっている」

「アイリーン・ファン・レーストだ」

「だってぇぇ、家族を人質にされたんだもぉん……。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいぃぃぃ……」

「そっか、家族は大事だな。そういえば悠久の妹の絵鈴さんに会ったことあったな」

「ぅぅぅ……。ごめんなさい……」


仲が悪い姉妹仲らしいが、人質にされても家族は売らないらしい。


「そっか。それは大変だ」

「わかってくれた!?」

「でも、それはそれとしてお前は毎回俺が決闘に不利になることしかしねーな。このやろ、このやろ!」

「あー!いだい、いだい、いだいぃぃぃ……」

「お尻ペンペンしないだけ温情。さらば、学園長」

「ちーん、死にました……」


彼女の頭を拳でグリグリして脳内を揺らした。

ストレス発散という名のデモンストレーションである身体ほぐしも終わり、アイリーンなんとかさんに向き合った。


「ほう、どうやらただのマゾと思っていたがサディストもいける口らしい」

「そもそもこの身体の持ち主おれはサディストなんだよ!」


アイリーンなんとかさんとバチバチににらみ合う。

決闘の開幕はもうすぐそこだった。


「ほら、起きてください」とアリアは武道館の中心で目を回した悠久を健気に起こす手伝いをしていた。

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