51、佐々木絵美は何か言いたい

「どうにかしないと……」


アイリーンなんとかさんに完全敗北を叩き付けられた俺はソワソワしていた。

何かをやらなくてはならないが、何をしたら良いかわからない。

勉強が出来ない言い訳と同じ状況になったのだ。

アリアの裸に刻まれた刻印を目撃したことで、命を落とすなんて理不尽は受け入れがたい。

で、でも女のブラってああなってんだ。

意外と布薄い……。

水玉模様の布が頭から離れなかった。


「あ!明智さーん!みなさーん!」

「秀頼様ぁぁぁ!」

「遥香!それに美鈴も」

「ん?」


本日は部活休みの日なので、そのまま絵美たちと帰ろうとしていると三島と美鈴がバタバタと廊下を早歩きで近付いて来る。

何人かの恋人が集まっている中、島咲碧とミドリの話題を出そうかと悩んだ。

しかし、辺りを見回すと永遠ちゃんや美月などが不在な状況。

どうせ話を切り出すなら全員がいた時であろう。

秘密ばっかりが増えて、自分の愚かさに頭が痛くなってくる。


「なんか学校中が決闘でまた盛り上がっているみたいですね」

「決闘?」

「そんな噂があったのか」

「知らなかったですか?」


三島と美鈴はそんな噂をこちらに持ち込んできた。


「詳細も対戦カードも不明みたいです。だからボクは、また明智さんが巻き込まれたんじゃないかって不安だったんです!」

「美鈴も秀頼様を思い浮かべてしまって……」

「確かに。あんな激戦を繰り広げてまだ半年。もう次の決闘なんてなったら不安だな」

「…………」


アリアとアイリーンなんとかさんは、アリアの刻印の話題を広めないために、どうにかしてでも決闘の観客への導入はやめて欲しいだろう。

決闘をすること事態をなるべく秘密裏にしたいはずだ。

そうなると2人からは決闘の存在を明かすにはリスクしかない。

つまり、噂が広まったのは悠久たちの教員側。

今回は、下手に決闘の詳細は口に出さないが正解だ。


「流石に今回は決闘なんかに関わっちゃいないよ。誰だろうなぁ……」

「そっか。良かった……」

「美鈴も安心しました」

「まったく。決闘イコール明智君なわけないでしょ」


う……。

円の信頼を裏切る形になり、良心が痛い……。

タケルやヨルがどんな対戦カードになるかなんて予想屋まがいの推理を披露している。

なんで毎回俺が当事者なんだろう……。

俺もエキストラでいたい……。


「…………」

「ん?どうした絵美?」

「…………いや、別に」


絵美だけは俺をじーっと見て、プイとふくれたような表情を向ける。

何か言いたげな目でじっと俺を見つめている。

…………まさか、嘘を見破られてる?


「絵美ちゃん?」

「プイ!」

「…………」

「じーっ」

「絵美ちゃん?」

「プイ!」

「…………」


絵美が名前を呼ぶと頬を膨らませて目を反らしてしまう。

可愛いし、面白いけど絶対バレてる!

絵美と2人っきりになったら洗いざらい説明を求められることを覚悟してしまった。

三島たちだけが、平和そうに雑談している声が今の自分には遠い出来事になっていた。







─────








自宅に帰宅すると、大慌てでパソコンの前に向き合う。

悩む時間は無駄。

悩んで答えが出ないなら、他人の意見が大事だ。

そう思い至った俺は愛用サイトであるヤヒュー知恵袋にアクセスした。


リアル本能寺

『近い内に自分よりも圧倒的に強い相手と戦い合うことになりました。負けると殺されます。こうなった時の対処法を教えてください』


カタカタとキーボードを叩きながら質問を投下する。

頼む、世界中のみんな!

再び俺に50億人以上の脳ミソを俺に貸してくれ!

そんな死ぬ気になって祈っていると1通の返信が帰って来た。


サウザンドプリンセス

『リアル本能寺氏お久し振りです。あたしの意見としては、可愛い人にはどんな相手も油断すると思います。なので、可愛いを磨くべきです!可愛いは正義!可愛くなっちゃえ!』


「な、なるほど!」


サウザンドプリンセスさんの意見は目から鱗であった。

確かにライオンが対戦相手なら警戒するが、ウサギが相手なら油断する。

やはりヤヒュー知恵袋は最高だ。

よくヤヒュー知恵袋上でやり取りしているサウザンドプリンセスさんは斬新な意見で予想を越えてくる。

決戦当日に、浅井千姫に『可愛くなっちゃえ!』のギフトを頼んで頼子に変身してから決闘に望む案もありかもしれない。


「ん?『可愛くなっちゃえ!』?あれ?もしかして……」


サウザンドプリンセスさんの書き込みをよく見返すと『可愛くなっちゃえ!』の文字がある。

ま、まさか……。


「浅井千姫と似たセンスなのかもな」


是非、いつか千姫とサウザンドプリンセスさんを会わせて会話をさせてみたいと思ったのであった。

きっと盛り上がるだろう。

とか願望を思考していると、新しい書き込みがある。


下梅ゆかり

『我はやはり王道に修行して地道に鍛えるのが最強の近道と断言します。我も昔は早寝早起きをしながら貪欲に強くなる努力を惜しみませんでした。リアル本能寺さんも頑張ってください!応援しています!』


俺と思考が似ている脳筋な意見である。

この『貪欲に強くなる努力』というワードが個人的にぶっ刺さる。


サーヤ

『妾は下梅ゆかりさんの意見である。筋肉はすべてを解決する。身体を鍛えて、鍛えまくってください。あなたのラッキーアイテムは占いに使われる水晶です』


なんかただの筋肉フェチな意見が書き込まれた。

サーヤ、筋肉フェチ、占いと知り合いにそんな人物がいた気がする。


「いや、サーヤの名前のインパクト!偶然ってすげぇ!」


俺の知り合いの1人でもある佐山の50億分の1人よりも、50億分の49億9999万9999人の可能性の方が高いわけでこのサーヤさんは偶然であろう。

まぁ、サーヤなんてアダナを付けるくらいだ。

かなりセンスも似ていると思われる。

とか言っている間にガンガン書き込みがされていく。


ビューティフルムーン姉

『無闇に力を振るうよりも、わたくしはブラフや精神攻撃など、小技を磨く方が強さをカバーできると思う』


なるほどな。

身体だけではなく、言葉も鍛える方法もあるのか。

ブラフが一切聞かなかっただけに、これも魅力的だ。


スターチャイルド本人

『私は自分を見出だしてくれた恩人から『自分を信じろ!』という言葉をもらいました。リアル本能寺さんにも同じ言葉を送ります!良ければ滅茶苦茶強い兄も紹介します!ファイトです!』


いや、名前のインパクトのせいで内容が頭に入らないって!

それよりもスターチャイルド本人が気になって仕方ない。

スタチャ本人が10分前に『ヤヒュー知恵袋はまってます(*^^*)今ももしかしたらあなたの質問に答えているかも(゜ロ゜;ノ)ノ』とツイートしていたからってこんな露骨なことある!?

なりすましってこわっ……!?

しかも滅茶苦茶強い兄ってどんな嘘だよ。

ここだけで偽物感がやべぇ。


今日は全体的に知り合いと似ている人の書き込みが多いようだ。

まだ新しい書き込みが追加される。


キャッスルリバーサウザンドサマー

『殺されるのは悲しいです(TT)私もたまに自分が殺される悪夢を見てしまいます……。私は強くないので具体的なアドバイスは言えませんが絶対に生きてください』


かなり暖かい言葉が書き込まれて、心が落ち着くね。

こんな聖人アドバイスをしてくる子とリアルで知り合ったら一緒にスタヴァデートでもしちゃうかもね。


「でも、そろそろベストアンサーを決めなくては」


全部の書き込みが嬉しいなぁ。

でも、今回のベストアンサーはこれかな。






笹鬼エミ

『これまでのアドバイス全部試してみたら良いのではないでしょうか?

結局、人の強さは遺伝んんんんんんんんん!』


至極ごもっともであった正論を述べた笹鬼エミさんをベストアンサーにした。


「よし、決闘がんばるぞ!」


ヤヒュー知恵袋のおかげでやるべき指針を見付けたのであった。

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