46、明智秀頼は未来を見る
「タケルと山本はなんか注文ある?」
「塩キャベツ欲しい」
「はいよー」
各々からの注文をもらい、店員さんに伝えていく。
こういうのはチームプレーである。
「君が秀頼君か。達裄君から話は聞いているよ」と居酒屋の店員さんにまで俺の噂は広がっていたらしく、頭を下げた。
最近はなんか同世代よりも上の知り合いから声を掛けられることも多くて、慣れてきている自分がいる。
「マスターってどんなアーティスト好きよ?」
「世代で言うならそりゃあサザンとか安室ちゃんとか」
「良い趣味じゃん!てか、バリバリ今も人気じゃん!」
ケラケラと2人して笑いながらアーティストトークまでして盛り上がっている。
意外と40代手前のマスターの曲の趣味に親近感が沸いてしまうのは、前世の記憶があるからかもしれない。
「アニメなら球を7個揃える作品とか」
「マスターよぉ!それは今小学生まで人気あんだよ」
「マジで!?すげぇ!小学生がうさぎ団とかチャパ王とか知ってるの!?」
「知らないんじゃねーかな。人気あんのは破壊神とか」
「わかんねー!」
アニメの話題とかにまで盛り上がっていた。
確かに高校生のタケルたちもそのアニメの存在は知っているくらいにはメジャーである。
「え?マスター?うさぎ団ってなんだよ!?ロケットじゃねーの?」
「タケル君、マジで!?」
「原作読んだことない!?」
「…………」
タケルの発言にマスターと達裄さんがジェネレーションギャップにショックを受けていた。
因みに俺もおっさん組に混ざり衝撃を受けて、無言で大ダメージを受けていた。
「よし。傷を負うだけの話題はやめ!違う話題にしよ、秀頼君」
「いけっ、秀頼」
「俺に振るんすか!?」
「なんか、明智ってどこ行ってもそういう扱いよな」
「秀頼は愛されボーヤだから」
「だから違うっての」
年長2人に話を振られ、学生2人からはガヤを入れられる。
なんだ、この中間管理職のような板挟み状態は……。
「そういや、さっき咲夜から電話来たんだけど」
「そんなこと言ってたね」
「マスターが再婚したらコミュ障発揮して家を出て行くという話題で盛り上がったんだよ」
「盛り上がってるのそれ?」
「実際どうなんだよぉ!このこのー!常連客と出来てるんじゃないのぉ!?」
「いや、全然無いけど」
「あっ、そうすか……」
冷めた感じに否定される。
マスターも中年女性にはモテそうな顔付きしてると思うんだけどなぁ……。
「因みにマスターの顔の好みなら誰なんすか?」
山本の純粋な疑問に、マスターは考える素振りもなく即答する。
「そりゃあ、沢村ヤマでしょ」
『沢村ヤマ!?エッッッ!?』
「…………厨房にいる店員さん過剰に反応したな」
「藍はバイだからピンと来ちゃうんだ。そっとしておきなさい」
『僕を変なキャラにしないで!?』
付き合いの長いらしい達裄さんのからかいから、マジトーンの否定突っ込みが入る。
ゲホゲホと咳込む店員さんが水を注いでいるコトコトという音が聞こえてくる。
それを飲みながら『雑談を続けてください……』と悲痛な店員さんの声がする。
「駄目だよ、マスター。彼女は女の子なんすからAの付く女優の名前を出しちゃ」
「何故通じてしまうかの方が気になるんだけど達裄君……」
「そりゃあ、あいつも沢村ヤマの大ファンだから」
「女とAの付くビデオの会話してるんじゃないよ……」
もっともなお叱りを受ける達裄さんはシュンと小さくなる。
店員さんのメンタルが大丈夫かは気になるところである。
「じゃあ、沢村ヤマ好きのマスターは面食いだ!」
「うーん。なんか不本意……」
「ならば、マスターは女性のフェチはどういうところ?」
「そりゃあ、顔フェチに鎖骨フェチとかはあるかな」
「マスター、鎖骨フェチ!」
野郎4人共が沸き上がる!
咲夜の母親の顔を知らないので、咲夜からしか女性の好みを連想出来なかったが新しいマスター情報に拍手が起こる。
「わかるぜ、マスター。俺、目のやり場困ると鎖骨見るもん」
「いや、そんなん知らん……」
「でもさ、マスターの娘は鎖骨あんまりなくね?」
「残念ながらマスター好みには育たなかったか……」
「おいおい。タケルに山本は魅力に気付かないだろうが、咲夜はあんまりフェチに分類される魅力が薄いのが魅力なんだろうが。わかってないな」
「いや、秀頼君の娘の評価聞きたくなかったよ……。でも、確かにフェチをくすぐるような子じゃないんだよ。だから秀頼君、頼んだよ」
「何がなんでも俺に引き取らせる気か、この親父……」
咲夜のあんまりな評価であるが、俺だけは咲夜を見捨てない。
あれでもワガママで可愛いところがたくさんあるのだ。
「秀頼はどういうフェチあるよ?」
「いやぁ、腋っすね」
「お前はいつまで経ってもそれしか無いのか」
タケルがやれやれという態度で突っ込む。
「いや、でも最近はさ……。新しいフェチも開拓しててさ」
「あん?」
「脚も好きなんだよなー」
「秀頼の趣味がドンドンマゾ寄りになってる……」
「あと、絵美とか美月見てて、黒子フェチに気付いたんだ」
絵美の左目の目元にある黒子。
美月の口元にある黒子。
黒子が色っぽくて、ついつい目で追ってしまう時がある。
あとは、ゆりかや美鈴や遥香辺りが身体に黒子がある。
意識しちゃうと、黒子だけでドキッとしてしまう。
前世では一切興味がなかった黒子だけに、ちょっと人には言いづらい趣味である(言ってしまったが……)。
「明智がドンドンカミングアウトするぞ」
「黒子フェチは女を1人占めしたい欲が強いとかなんか読んだ気がする」
「誰だよ、こんな化け物マニアックマゾ聖人に育てた奴」
「マスターの姉」
「ぐっ、そうだった」
マスターがタケルの攻撃で、変なダメージを受けていた。
おばさんの教育の賜物である。
「因みに、聖人の字それで合ってる?」
「合ってる」
化け物マニアックマゾ星人だと思うのだが……。
星子と同じ星が欲しかった……。
「じゃあ、タケルに大悟。君らのフェチはなんだい?」
「良い顔で何聞いてんだよ」
「俺は胸っすね」
「俺は尻っすね」
「秀頼君の性癖知ってから聞くと凄い普通だね……」
「俺が異常者のように言いやがって」
胸も好きだし、尻も、腰も、指も好きだけどその辺はもう前世で卒業してしまった。
おもいっきり『胸!』と答えることが純情ボーイだったのは通算20年も前の話である。
コーラのおかわりを貰いながら、グラスの中身をぐっと飲み込む。
「じゃあ、山本の彼女って尻が素敵なのか?」
「は?し、尻かな?ど、どうだろ……?」
「大悟君、彼女いるんだ。僕見たことないや」
「俺もない」
山本の彼女の話題へと移り変わる。
長谷川雛乃という名前しか知らない謎に包まれた女である。
塩キャベツをかじりながら、『そういや、咲夜が長谷川雛乃を知ってるみたいな話を聞いたことあるな』と思い出した。
「す、素敵なのは笑顔っす」
「あ、これ胸も尻も残念なタイプ?」
「ノーコメント」
山本がタケルの問いに赤くしながら濁す。
わかりやすい山本の態度を弄りたくなるも、ぐっと堪えて、コーラで流し込む。
「達裄さんの彼女は確かゆりかとバッティングセンター行った時でに見たな。金髪のルアルアさんですよね?」
「あー、たまに金髪の身長低い子と一緒に買い物してるよね」
「そうなんすか?」
「絵美ちゃんタイプよね。意外と達裄君て小さい子が好きよね」
「小さい子好き。あとはからかいがいのあるマゾい子が好きよ」
「遠野さんも充分特殊じゃないっすか」
なお、達裄さんは照れる感情が一切なく真顔で焼き鳥を食べていた。
「店員さーん!達裄さんの彼女の話教えてくださーい!」
『ルアルアって呼ぶと怒るの!あと、よく達裄君の女性関係のだらしなさに泣かされてる!』
「何やってんすか」
「10人以上の女の子と付き合っている秀頼に例えるなら、1人に選んだとしてもみんかが中々諦めないという状況が10年近く続いているだけだよ」
「…………」
未来の俺を見ているようで、頭が痛くなった……。
『因みに僕も達裄君大好きで諦めてないよ!』
「俺も藍ちゃん好きだぞ。でも、本命はごめんね!」
「…………」
悠久みたいな人がたくさんいるんだろうな……、というのが伝わってしまった。
「よし、秀頼。お前が多重婚を認める世界に作り変えるために政治家になれ!それが達裄さんに返せる恩じゃないか!?」
「は?」
「え?俺、複数の女の子と結婚するの?」
『全員ハッピーエンド賛成!』
「店員さん、めっちゃ喜んでいる……」
カオスな野郎だけの飲み会は、無様な形になりながら進行していった。
恋愛対象を1人に絞らなくてはいけないことと同時に、どうやれば達裄さんみたいにならないように未練がましい関係を無くしていかなければならないのかを考えさせられる会になったのであった……。
「ひ、秀頼君……。娘を捨てないで……」
「そういうことはないから!絶対捨てないから!」
…………あれ?
俺の恋愛ってもしかして詰んでる……?
(ゲラゲラゲラ)と、中の人が大爆笑をしていたのが俺の中で虚しく反響した……。
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