47、島咲碧のパワーワード
「おはっ……、おはようございます明智さん」
「うん、おはよう島咲さん。スカート、良く似合ってるよ」
「あぅぅ……。ありがとうございます……」
かぁぁと赤面しながら、ペコペコと2回連続で頭を下げ始める島咲さん。
野郎共の恥晒し飲み会が明けた次の日、突然の島咲さんからのお出かけの誘いに私服で駅に集まった。
彼女は全体的に暗めの服で着飾り、ブレザー姿より大人っぽい雰囲気を醸し出していた。
美しい青い髪を弄ったのか、サイド三つ編みにしており、普段よりも柔らかく見える。
「そ、そういう明智さんは私が買った服を着てくれてありがとうございます!似合い過ぎて拝みます!」
「いや、拝むまでしなくても……」
彼女から買ってもらった紺色の服を気に入っていた。
今日も島咲さんと会うということで迷わずこの服をチョイスした。
昨日の飲み会で『女の子に買ってもらった身に付ける物は基本装備が普通だ。逆に、プレゼントしてもらった子以外ではその姿はNGだ』という達裄さんのアドバイスを早速実践する形となった。
俺、タケル、山本で『うおおおお!』と叫びながら『モテモ
「南無南無……。神はここにいるなり」
「神はこんなところにいないよ……」
手を揃えながら、歓喜しているのか涙を流している。
島咲さんって原作でこんなキャラだっけかな?
共通ルートでは大人しい性格でタケルに声を掛けられ関わっていくことになり、個別ルートではミドリちゃんを失い燃え尽き症候群に発症するヒロインである。
こんな仏教信者のような描写、無かった気がする……。
「とりあえず、歩こうか」
「は、はい!」
「行きたいところのリクエストあるかい?」
「明智さんと……ゆ、ゆっくりお話したいです」
「そっか。ならスタヴァで良い?」
「スタヴァ大好きです!」
目をキラキラに輝かせた島咲さんは5回連続で頷きだした。
その仕草から幻覚の尻尾が見えた。
なんか犬みたいで可愛いな。
「手、手、手を……」
「ん?」
「あぅ……。そ、その……手を繋いで欲しいです。おこがましいのですけど」
「俺の手で良ければ。おこがましいとか、俺が思うことだよ」
「あ……。ありがとうございます!」
むしろ昨日弄られまくった化け物マニアックマゾ聖人でごめんなさいという後ろめたさがある。
周りから『ゴミクズ』とか思われていないのか、緊張する。
「歓喜で爆発する……」
「え?」
「す、すいません!?思っていたことがそのまま口に出ちゃってました!」
「そ、そう」
『歓喜で爆発する』と、いうパワーワードに混乱してしまっていた。
お互い変に意識してしまい、口を開くも会話が続かなかった。
こっちから「広末と最近仲良い?」と適当な話を何個か振っても上の空で「あ、はい……」としか呟かず、緊張が伝わってきた。
「緊張するなら手を離す?」と提案をすると、それだけは「離しません!」と力強い否定が帰ってくる。
そんなやり取りをしつつ、人と車がまばらに行き来するルートの道を歩いていると行きつけのスタヴァにたどり着いた。
「このスタヴァよく来る?」
「ここは初めてです。家近くにある……、3駅離れたところにある店舗のはよく行きます」
「あっちのスタヴァは行ったことないかも」
「じゃあ、今度は島咲さんの家から近いスタヴァに一緒に行こうか」
「は、はい!」
もしかしたら島咲さんと三島の中学とか同じなのかもしれないなー、なんて考えながらスタヴァの中に入っていく。
中は人の雑多音で溢れていたが、レジにはタイミング良く人が並んでいなくてすぐに店員さんの前に立った。
「いらっしゃいませ、明智氏!」
「こんにちは」
「はっ!?これデート的な!?」
「ま、まぁ。そんな感じ。スタヴァの新人ちゃんは仕事慣れた?」
「はい!千夏さんにびしばししごかれてますので!」
やる気に満ち溢れたスタヴァの新人ちゃんがレジ担当に抜擢されていた。
スタヴァの姉ちゃんじゃない姉ちゃんじゃない姉ちゃんじゃない姉ちゃんがバイトを辞めてしまい、その後釜が彼女であった。
スタヴァの新人ちゃんは4月になってからスタヴァでバイトを始めた学生である。
本日は、残念ながら推しであるスタヴァの姉ちゃんはシフトには入っていないようだ。
「ち、千夏さんって誰でしたっけ?」
「名字が城川さんっす!城川千夏さんっすよ、明智氏!」
「なるほど?」
「特徴としては、胸にえっちい黒子がある人っす」
「?」
俺もスタヴァの店員さん全員と面識あるわけじゃないからな……。
誰だかわからない……。
『悲しみの連鎖を断ち切り』のファイナルシーズンで城川千秋というヒロインが現れるが、残念ながら一字違いの城川千夏さんは誰なのかピンと来なかった。
因みに、城川千秋はいつぞやでマスターの喫茶店で出会った子である。
「あ、明智さん……」
「あぁ、ごめんごめん。注文だったね」
頬を膨らませた島咲さんに服の裾をちょいちょいと引っ張られたのでメニュー表に目を向ける。
ほっとかれてちょっとキレたらしい。
「俺はエスプレッソで」
「私はキャラメルマキアート」
「エスプレッソとキャラメルマキアート注文入りましたー!」
スタヴァの新人ちゃんがテキパキと指示して、店員さんに作らせていた。
スタヴァの姉ちゃんの新人時代よりも、接客は舐めてるが手慣れてる感はある。
初々しいスタヴァの姉ちゃんがコーヒーを溢したのは、微笑ましい思い出である。
それからすぐに飲み物を受け取り、「ごゆっくりー!」と新人ちゃんの明るい声が響いた。
窓際の明るい席が島咲が指名したので、そこの椅子に座った。
「そういや、文芸部入部を考えているってタケルから聞いたよ島咲さん」
「そ、そうですね」
「島咲さんなら部活歓迎だよ。まぁ、身内でだらっと会話しているくらいのゆるーい部活だからさ」
「厳しくないなら良かったです」
「週に2回くらいしか部活ないしね」
部活の話題になると、ちょっと楽しそうになった。
しかも話をしてみると、本当に三島遥香とは中学が同じらしく友達だったようだ。
「仲良くしていこうよ」と俺も本音で彼女に語り掛けた。
「仲良く……」
「どうしたの?」
「ち、ちょっと聞いて欲しい変な話があって」
「聞いて欲しい変な話?」
本日2度目のパワーワードに、口でリピートしていた。
しかし、彼女はどうやら本気らしい。
「夢……、を見たんです」
「夢?」
「私はミドリとずっと仲良しでいたいのに……。それが離ればなれになってしまう残酷な夢。全然内容は覚えてないんですけど、いとも簡単に姉妹の絆が消える夢です」
「……」
姉妹の絆が消える夢?
そんな五月雨茜のギフトみたいな……。
待て。
これはもしかして原作の夢?
俺や絵美を時々苦しめる
どこかで原作とこの世界は繋がっているのか?
偶然なのか、必然なのか。
島咲碧とミドリの原作描写と同じとしか言いようがない。
「大丈夫。気にしないでいいよ」
「明智さん……?」
「そんな夢。俺が実現させない」
だから、俺がそんな不幸の連鎖を繰り返させない。
絶対に。
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