34、明智秀頼は冷たくされる

谷川親子と雑談していた午前中も終わり、午後になりブラブラと買い物に変わる。

そろそろ夏物の服を新調したりしたいところである。

10分程度、電車に揺られて街中に出てくる。

今日はいつもよく行くコースを歩くか、たまには違うコースを歩くか悩む。

どっちでも良いんだけど、いざ二択を突き付けられると困るものだ。


「ヘイシリ!いつものコースと違うコースどっちがオススメ?」

『久し振りに呼び出して謝罪もなく私に頼ろうとするマスターなんか嫌いです!』

「…………」


自分のスマホのシリに嫌われ、ポケットに閉まった。

シリの暴言は聞かなかったことにして、脳内シリに語りかけることにする。


(好きにしやがれ)

「…………」


中の人も冷たかった。

二択を選んですらくれない人たちはほっといて、いつも見て回らないコースに向かうことにした。

なんなら行ったことのないメンズの服屋に入店する。

「いらっしゃいませー」と、店員さんの声がする。

メンズの店ではあるが、ちらほら女性の人影がある。

カップルで入店とか、異性にプレゼントとか色んな人がいるだろうしね。

薄着でなんか良さそうな服がないかぐるっと見てみようと、はじめて来た店を緊張しながら歩きまわる。


「…………」


マネキンに展示された商品の値段を見て、高い店じゃないことを確認しておく。

達裄さんの元でアルバイトしているが、まだまだ財布に余裕はない。

支払える最高額はもう決めてあるので、後はオーバーしないように決めなくてはいけない。


「やっぱり白より黒かな……」


ギャルゲーの悪役の竿役らしくやや肌が黒いので黒い方が日焼けが目立ちにくいのだ。

家に引きこもっても、ビジュアルが原作秀頼になる以上、そこは体質として割り切るしかない。

合わせやすい服がないのかじっくり選んでいた時であった。


『うん!この服ならあの人に似合いそう!あぁ、良い!良いなぁ……』


最近、たまに話すようになったような女の子の声がする。

『良い!良い!』と頷きながら、海のような青い髪を揺らしてその少女は目を光らせていた。

島咲さんに彼氏でもいる?と、疑問が降って沸いた。

しかし、よくよく考えると鹿野とか、広末を振った男とか結構モテるヒロインなのを思い出した。

原作の展開から少し歴史が歪んで、島咲碧が知らない男と結ばれるなんていうバタフライエフェクトが発生したのかもしれない。


(急に『バタフライエフェクト』なんて単語が出るから驚いたじゃねーかよ)


横文字NGという中の人の設定をはじめて知ったが、特に突っ込みもせずに島咲さんを眺めていた。


『やっぱり黒とか紺とか暗い色だよね。あぁ!着てもらいたい!着てもらいたい!』


彼氏の服装を想像しているのか、赤い顔をしながら服を眺めている。

島咲さんの服のチョイスが俺好みなのもあって、あの服買おうかな?なんて気持ちが沸いてくる。

でも、知り合いに彼氏の服を選んでいるところを目撃されるのは俺が気まずい……。

『一緒に彼氏の服選んでください』とか言われたらだっせぇ服を選ぶくらいにはリア充は嫌いである。

店を1周してから島咲さんが消えてからこの周辺で服探しをしようとした時だった。


「あ、明智さん!?」

「こ、こんにちは……」


はしゃいでいた島咲さんとガッツリ目が合った。

かああ……、と更に彼女は顔を赤くして「ミテタンデスカ……」と片言で聞いてくるので、「ミテシマイマシタ」と片言で返事をすると、「はう……」と呻き倒れそうになる島咲さんを転ばないようにキャッチする。


「明智さん、素敵……。ありがとうございます」

「お、驚かせたみたいでごめんね」

「ダイジョウブデス」

「ソウデスカ」


腰が抜けた島咲さんが自力で立つのを待つと、ゆっくりと店内の床に立ち上がる。

売り物の服も床に当たらなくてセーフである。


「もしかして島咲さん」

「えっ!?」

「彼氏のプレゼント選び?」

「ちがっ、違います!か、かれっ……、彼氏なんかいませんからぁぁぁぁ!」

「そ、そうなの?」


誰かにプレゼントするような雰囲気だったんだけど?

兄や弟とかは居ない設定だった気はする。

父親のプレゼントにしては、服装が若すぎる。

腑に落ちない気持ちではあるが、自分の服をメンズで探しているのだろうか?


「そ、そのですね!かれっしはいないんですよ」

「お、おう」


『かれっし』と言うくらいには噛み噛みである。


「ただ、彼氏が居たらこんなもんかな……?みたいなシチュエーション」

「シチュエーション?」

「…………明智君に」

「俺に?」


全然理解出来なかったが、やっぱり見られてはダメなところを目撃してしまったのだけは察した。


「あわわわ……、えっと、えっと……!お願い!」


俺も謝ろうと口を開こうとした時だった。


「うわっ!?」

「あっ!?ご、ごめん!秀頼ちゃん!」

「み、ミドリちゃん?」

「あー、ごめんなさい。恥ずかしさでお姉ちゃん逃げちゃったみたいです」


突如、妹のミドリちゃんに入れ替わった。

なんの脈絡もなく、瞬きしたら島咲さんからミドリちゃんに早変わりしていた。

どうやら小学生の時よりギフトは進化して、自分の意思で姉と妹をシャッフル出来るようにコントロールが出来たのを確認した。


「えへへっ!秀頼ちゃんとデートみたいですね!」

「で、デート!?」


ミドリちゃんが上目遣いでこちらを見ている。

そんなチワワみたいな目で可愛く見られたら拒否出来ないじゃないか……。

意志薄弱な俺はミドリちゃんの例え話に頷いてしまっていた……。


「この服、黒と紺どっちが秀頼ちゃんに似合うでしょうか?」

「いや、あの……。島咲さんのシチュエーションで選んでいた服を俺に選ばせて良いの?」

「大丈夫!ミドリも島咲だから!」

「いや、確かにミドリちゃんも島咲かもしれないけど。そうじゃなくて……」

「もう、ノリ悪いよ秀頼ちゃん!」

「の、ノリの問題なのかな?」


ぐいぐいとミドリちゃんが詰めよりながら黒と紺の服を俺に突き付ける。

島咲さんの脳内シチュエーションしていた服を俺に選ばせるのがおかしな話。

ミドリちゃんは島咲さん本人とは違う考えで動くので本気で俺がこの二択を選んで良いものか悩ませるのであった。

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