番外編、明智秀頼は知る

今回は、原作の秀頼目線の話を公開します。












「カリギュラ効果ってわかるか絵美?」

「か、カリギュラ……?なんかのゲームですか?」

「あるけどな、そういう名前のゲーム。いや、全然ちげえよ」

「はぁ……」


俺は読んでいた心理学の本をずいっと絵美に近付ける。

彼女が「触っても?」と確認するので、「あぁ」と頷く。

何か言われるのかと警戒しているのか、動きが鈍いが今日は別にイライラしているわけじゃない。

絵美が本を取るのを悠長に待つ。

手に持ち、本へ視界を落とすが絵美は固まってしまう。

難しい言葉ばかりで、理解出来ていないというのが反応だけでわかる。

それくらいには、佐々木絵美という女のことはわかっている。


いや、多分この世界に生きるどの女よりも、佐々木絵美のことが1番理解出来ている。

本命の詠美以上に絵美のことを理解している、というのが気にくわないところであるが……。


「…………これとこれ漢字読めないです」

「『禁止きんし』と『現象げんしょう』」

「『きんしされていることほど、やってみたくなるげんしょー』?…………つまり」

「つまり?」

「…………わかんない!」

「あっそ」


絵美の察しの悪さにイラッとしつつ、心を落ち着かせる。

同学年はバカばっかりだから嫌になる。

タケルとか理沙ちゃんも、あいつらバカだからなー。

レベルを下げた会話をすることのストレスが溜まっていく。


「テレビで例えるなら『押すなよ、絶対押すなよ』と言われているのに熱いお湯の中に押し込んだり。アニメやドラマでは『夜に出歩いては行けない』と言われているのに、夜に外に出て事件に巻き込まれるとか。そこら中にあるのよ」

「へぇ」

「わかったか?」

「うん」

「なら良かった」


絵美がコクコクと頷き、ツインテールにした栗色の髪が揺れる。

なんかあの髪弄って遊びてぇという欲が生まれたが、今は我慢した。

そういうのは夜にゆっくりした時間にするもんだ。


「秀頼君もテレビ見るんだね!意外!」

「何に納得したんだよ。テレビ、そこあんだろ」

「テレビあった!」


本当に理解したのか、怪しいものである。


「人の世界でもあるだろう?『人を殺してはいけません』、『法律は守るべきものです』」

「先生も言ってますね」

「俺にとってはこういうのも全て『カリギュラ効果の対象の範囲になる』んだ」

「???」

「理解出来るように2人で大人になっていこうな絵美」

「…………はい」


絵美は一生俺から離れられない。

俺がギフトで縛っているから。

だから、俺はずっと絵美を離すことはない。

まだ俺と絵美は小学生だが、大人になってもこの関係は変わらないだろう。






「よし。それは良いとして、最近のお前は元気がないじゃないか?」

「っ!?あ、あの……」

「わかってるよ。わかってる。虐めを受けてるんだろ?誰にだい?言ってごらん」

「ひ」

「秀頼君じゃないよね?」

「はい。秀頼君じゃないです」

「そう」


俺のは、そういうプレイである。

愛があればプレイ。

愛がなければ虐め。

似ているようで、全然似ていない。

クソ叔父の虐待から教わったことを絵美に言う日が来ることになるとは思わなかったが。


「…………竹本信二」

「誰だいそれ?」


俺のクラスと絵美のクラスの人員は全員頭にインプットしてあるが、竹本なんていう生徒は記憶にすらかすらない。

元々、男には一切興味がないけど、名前も記憶してないとなると接点は皆無なようだ。


「円ちゃんが彼にバカにされてたりして……。わたしもついでみたいに色々される……」

「へぇ……」


『円ちゃん』とは面識はないが、おそらく絵美のクラスの『津軽円』という女子だろう。

顔も知らん女だが、絵美は最近仲が良いらしい。


「よし!じゃあ俺が絵美を守る騎士になるよ」

「本当?」

「あぁ。じゃあ、護られる姫様には色々と報酬を貰わないとな」

「ほうしゅー?」

「いつもみたいに夜の部屋でやっているようなことだよ」

「…………」

「あぁ!可愛いなぁ!絵美!」

「はい。ありがとうございます……」


変なスイッチが入り、絵美が愛おしくて、ぐっちゃぐちゃにしてやりたいという欲が沸いてくる。

大丈夫、変なことはしない。

絵美が大好きな気持ちが溢れてきて、彼女の服に手を伸ばしていた。






─────






「おーい、ひっでよりぃ!」

「あー、なんだタケルちゃんじゃねぇか」


スン……、となり無気力になった次の日。

教室でランドセルを片付け、図書室で借りたギフトの本を流し読みしているとタケルが邪魔してきた。

こいつは何かある度に俺のところに来る。


「タケルちゃん言うな!俺がタケルちゃんならお前は秀頼ちゃんだ!」

「きっしょ、くたばってろよ」

「言葉が強すぎない!?じゃあ、タケルちゃんって呼ばない?」

「わかったよ。タケルちゃんをタケルちゃんって呼ばないよ。これで良いだろタケルちゃん」

「そうだ、呼ぶなよ」

「大丈夫!約束は守るよ、タケルちゃん」

「呼んでる!呼んでる!タケルちゃん呼んでる!」


その前からも普通に呼んでるんだよなぁ……。

こいつは嫌いだが、弄ってると面白い男である。


「じゃあ、俺も秀頼ちゃんって呼ぶぞ!秀頼ちゃぁぁん」

「きっしょ、くたばってろよ」

「だから怒りが強いって……」

「わかった、タケルちゃんって呼ばないっての」

「うむ、許す」

「あ!あと、お前うざいから帰って良いよタケルちゃん」

「呼んでる!タケルちゃん呼んでる!秀頼ちゃん!呼ばないって約束じゃん」

「きっしょ、くたばってろよ」

「なんなんだよぉ!」

「タケルちゃんとの口喧嘩に負ける気はしないから」


ギフトの本の内容も、ほとんど同じ内容でつまんねぇな。

知りたいことがことごとく掲載されていない。

ギフトの発現条件不明、ギフトは進化するのか不明、ギフトは消えないのか不明、ギフトを配る者の正体不明。

この辺は全部自分で手探りで検証するしかないのか。


「くっそぉ、秀頼の奴!俺を虐めてぇ!」

「お?」


そういや絵美を虐めている奴をどうにかするんだったな。

激しい夜の記憶しか残っていなかっただけに、夕方の会話を朧気に思い出す。

誰だっけあいつ?

竹本……なんとかみたいな奴だ。


「おー、タケル」

「どうした秀頼?」

「竹本……シンジ?シンセイ?シント?シンタロウ?シンセイキ?みたいな名前のやつ。多分虐めしてる奴っぽいんだがわかる?」

「誰だよそれ?」

「あ、わかんねぇならいいや」


やっぱり無能は無能だった。

こっちの竹本とかいう奴も手探りで人探しするしかないようだ。

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