13、浅井千姫はよそよそしい

結局、彼女たち全員に『達裄さんのお礼はどこで買った方が良いか?』というアンケートを取ったら、多数決でスターヴァックスに決定した。

そんなわけで、方向が俺だけ違うのでみんなとは別れて帰ることになる。


タケルと理沙は結局こちらには戻らず、相変わらず乙葉に溺愛しているようだ。

たまにはそんなボッチを楽しむ日も乙なもんだ。

ギャルゲーを部屋に閉じ籠って延々とプレイすり感覚と同じである。




「お?」


昇降口に辿り着くと、浅井千姫が1人で帰宅しようと靴を履き替えているところであった。


「おーい、ちひろー」

「っ!?あ……よ、ヨリ君……」

「今帰りか?」

「う、うん……」


なんか千姫と会話するのも久し振りだ。

春休みが挟んだことも原因だが、1ヶ月ぶりくらいに声を聞いた気がする。


「どうだった、お前のクラス?」

「あっ、う、うん……」


千姫のクラスは概念さんや咲夜やゆりか、鹿野とかと同じクラスだった筈だ。

他にも数名知っている奴がいるクラスだ。

一応、話をする種を撒く。


「た、楽しくなりそうなクラスだったよ」

「そっか。千姫が楽しいクラスって思えるなら良いクラスなんだな」

「ヨリ君……。…………本当は、君と……」

「ん?どうした?」

「ごめんっ!また、今度!ゆりちんとヨルちゃんと待ち合わせしてるから!」

「……、またな」


千姫は俺に顔を合わせることなく、走って逃げていく。

タケルたちと変わらない関係もあれば、変わる関係もある。

特に千姫は俺に対して距離を置くようになった。

第一、ゆりかとヨルはとうに帰った。

嘘だとわかっていたけど、踏み込めなかった。


俺に彼女が出来た瞬間から、あんな風にかわされる。


俺をみんなとくっ付けるように動いていたらしい千姫なのに、俺がみんなと付き合った瞬間から、態度がガラリと変わった。




(違う。変わったのは、お前と変な会話をしていた後からだ)




ん?

助言のような指摘をされる。

それを思い返すと、確かに変な会話をしていたなと精細に過去が浮かんでくる。





『あれ?なんであたし、学生寮なんか入ってるんだ?』

『いつから学生寮に住んでんだろ?』

『あれ?なんであたし、ギフトアカデミーなんか通ってんだろ?』




確かに、あれから変な兆しはあった。

だが、ギクシャクするほどか?

むしろ、あの後に電話してきた時から何か変わってしまったかのような……。


(考え過ぎなんじゃねーの?あの可愛いの姉ちゃんにだって思春期みてぇなのが来たんだよ。今までがうるせぇくらいな女だったんだし、口を開かない方が残念な中身が出てこなくてモテるだろうし、そっとしておけ)


まぁ、確かに可愛い狂の千姫に限って何もないか。

スタチャとかの話をしたらコロッと復活するだろう。

なんなら沢村ヤマを紹介しても良いしな。


そのまま、俺も靴を履き替えながらスタヴァへと向かう。

今日は確か、スタヴァの姉ちゃんのシフトだったはずだし軽く雑談していくか。


ラインで何故か毎月送られてくるバイトのシフト表を頭に浮かべる。

別に俺はスタヴァのスタッフでもなんでもないんだけど、スタヴァの姉ちゃんとかスタヴァの姉ちゃんじゃない姉ちゃんとかのシフトを毎回暗記してしまう自分がいる。




「どんな手土産にすっかな?」


達裄さん以外にも、リーフチャイルドの葉子さんや、めぐりさんたちにもワッフルやケーキとか買った方が良いのだろうか?


(そんなに買ってると、来週発売のスタチャのアルバム買うお金無くなるぞ?)


そうなんだよなぁ……。

葉子さんのぶんを買っちゃうと、他の4人姉妹にも買わなきゃいけなくなる空気になるし……。

でも、スタチャのアルバムも買いたいし……。


(てか、妹に直接貰えよ)


それは違うじゃん!

俺はスタチャに貢ぎたいんだよ!


(大体の売上は事務所やCDショップに行くんだよ。直接お小遣いあげた方が貢いでることになるだろ)


はっ!?

確かに!


そういえば俺はなんでわざわざ毎回CDショップや本屋に足を運んでいたのか。

スタチャグッズが出たら買うが日課になっていて、肥えるのは販売店と事務所だ!

俺がCDを1、2枚買ったところで、スタチャの給料はそんなに変わらないはずだ……。


それなら星子に直接現金を渡した方が懐に入る!(税金がどうなるかは知らないが)


(頭が良いんだか、悪いんだかわかんねーなお前)


う、うるせぇよ!


それなら達裄さんだけのお礼を買って、残った財布の中身は直接星子にお金を渡し、変わりにCDを貰おう!


踏ん切りが着いた頃にスタヴァに到着した。

そのまま、入店しようとした時だった。

帰ろうとしたお客さんと自動ドアでぶつかりそうになる。


「おっと、ごめんなさい」

「こちらこそ申し訳ありません……。あっ、明智君!」

「楓さん!こんにちは!偶然ですね!」

「偶然じゃなくて運命なんじゃない?」

「え、えぇっ!?は、恥ずかしいな……」


13人目の彼女である一ノ瀬楓さんとスタヴァの入り口前でばったりと出くわした。

学校が違うから、中々対面する時間が取れないから、かなり嬉しい再会だ。


「ブレザー秀頼はじめて見たなぁ」

「ブレザー秀頼って……」


なんか異名みたいでダサイ……。


「明智君、身長が高いから忘れちゃうけど、まだ高校生なんだもんね。モテるでしょ、君?」

「え?普通ですよ、普通」

「明智君の価値観のモテ度普通は10人以上付き合うくらいが常識なの?」

「いや、そんなんじゃないけど。彼女たち以外だと全然モテてないっすよ」

「人気者って聞いてるけどね」

「スタチャやリーチャ(リーフチャイルドのこと)の方が人気ですよ」

「比べる対象がおかしくない?」

「からかわないでくださいよ!」


年上の楓さんには、弄られやすい。

多分、彼女はSだと思われる。













浅井千姫に何が起きたの?



第14章 決断

第430部分 14、浅井千姫の変化

第431部分 15、スタヴァの姉ちゃんは知る

第435部分 19、繰り返す悲劇


この辺りを参照。

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