12、赤坂乙葉は本音がわかる

「赤坂さん、これから仲良くしていきましょうね!」

「はい、よろしくお願いいたします」


赤坂乙葉はそうやって、隣の席に座っている女性に頭を下げた。

個人的な初対面の挨拶をしただけだった。


すると、否応なしにそのギフトが発動する。





(なに、このロリ体型の子……?小学生?全然高校生に見えない……。なんか気持ち悪いなぁ……。悪い子じゃないとは思うけど、友達とは思われたくないなぁ……)




そのまま「じゃ、また明日ね!」と言いながら隣の席の子はそそくさと教室を出ていく。

本音さえ知らなければ、こんな嫌な思いはしないのに。


「…………」


知りたくない相手の本心の情報が、脳で再生される。

『嘘と真実を見抜く』ギフトは、当然のように発動し、赤坂乙葉の人間不振に重くのしかかる。


「はぁ……。タケルお兄ちゃんに会いたい……」


誰にも聞かれないような声で小さく呟く。

唯一、自分のギフトが発動しないタケルは彼女にとって居心地が良いものであった。

そんな当たり前すら、乙葉はギフトにより縛られているのだ。

ギフトに悩んでいると、彼女の近くから男2人の雑談が耳に入ってくる。




「お前、このクラスで誰か狙ってる子いる?」

(田中さんって言ったらこいつ殺しとこ)

「あー、そうだな……。津軽さんとかなんか俺好み」

(頼んだらやらせてくれそうだし、相手してくれねーかな?)

「おー、マジ?津軽さん狙い?」

(よっしゃ、競合してない!)

「今んとこはなー」

(津軽さんは2番目。本命は田中さん狙いだけど……。なんか恥ずかしいし、本命なんて口に出せねぇよ(*/□\*))






「…………」


あの2人の友情は大丈夫なのだろうか?と不安になる。

本音と建前が一緒にわかってしまい、人間の汚さ、醜さ、穢らわしさが全部わかる。


「せめて、調節が効けば……」


とにかく電車内や、教室など、人の集まるところは苦手なのだ。

入学式の会場は、ほとんど地獄だった。


PTA会長の挨拶で「新入生を歓迎します」と口にしながら(どうせギフト持ちは絶対入学するんだから歓迎も何もないっての)という本音。


新入生代表の挨拶で「切磋琢磨し合う仲間として頑張りましょう!」と口にしながら(俺よりお前全員格下なんだよ、バァカ!)という本音。


学園長先生の挨拶で「誠実な人間になってください」と口にしながら(達裄さんとセ●クスしたい)という本音。



全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、お見通しなのだ。



出席番号1番の赤坂乙葉は、明智秀頼が座っていた席と同じく出入口側の1番前の席に座っていた。

そこへ2人組が会話しながら出ていく。



「今からみんなのとこ行こう!ずっと高校生なるの楽しみだったんだよね!」

(ゴミクズ先輩を弄りまわして、調教したい。先輩が困った顔をしてると、なんかこう……昂るっ!)

「そうだね!行こ、行こっ!私も早くみんなに会いたいよ!」

(お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん)




「…………」


なんか凄い2人がクラスに居ると、驚愕しながらポカーンと口が開くのであった。


「はぁ……、鬱……」


頭が痛くなってきた。

こめかみ辺りを触りながら帰ろうと決心した時であった。


「大丈夫?」

(辛そうにしてる。大丈夫かな?)

「え?」


自分に声をかけられたんだと気付き、顔を上げると1人の少女が立っていた。


白髪で、頭に赤いカチューシャを付けた、やや小柄な子であった。

眠たそうな目をしているのが目を引き、ハイライトが薄く虚ろにも見える。

そして、空のような澄んだ水色の目と、炎のような朱い目のオッドアイが宝石のようにキレイで輝いているかのように見えた。


「うん、大丈夫。ありがとう、確か五月雨さんだよね?」

「うん。それより、五月雨は長いでしょ。茜で良い」

(あんまり五月雨って可愛くないし。茜って呼ばれたい)

「じゃ、じゃあ……茜ちゃん!」

「うん。よろしく乙葉ちゃん」

(小さくて可愛い……。モフモフしたい)


全部本音がわかるんだよなぁ、と思いつつ悪い気はしない。

茜となら上手くやっていけそうと思い、乙葉は彼女を信頼出来るかもしれないという位置へ置いた。









こうして、殺される側と殺す側の2人は邂逅する。

この時はまだ、新しい友情の芽を咲かせた日常の一時。

しかし、友情の花が咲く頃には──すべて血で染まる。















赤坂乙葉は結構前に秀頼とも出会っています。


第9章 連休の爆弾魔

14、明智秀頼は視界に入れない

15、赤坂乙葉

を参照。


今にして思うと、かなり原作のネタバレをしています。

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