5、津軽円は忘れてる
「やったぁ、秀頼君と同じクラスぅ」
「イエーイ」
「あはは……。お手柔らかに頼むよ」
絵美と円の2人ははしゃぎながら廊下を歩く。その後ろにタケルとヨルが雑談しながら後ろをついてくる。
「そういえば、悠久情報なんだが転校生が来るって言ってたぜ」
何がどんな流れでそうなったのかはわからないが、ヨルのその呟きに絵美と円の意識はヨルに向く。
「そうなの!?転校生!?」
「あぁ。あたしが何組かは教えてくれなかったが、あたしと同じクラスに転校生が入るからよろしくってラインが来たんだよ」
「なら、私は男が来て欲しいな」
「そうなの?」
円は自分に言い聞かせるように「男だな」と頷いている。
「だって、女の子が転校してきて明智君と付き合ったら嫌だしぃ」
「確かに」
「言われりゃあ、確かに。倍率が高くなるだけだからな」
「倍率とか言われるお前の恋愛なんなの?」
「触れるな……」
タケルのパチンコとか競馬と同じに思われることは、甚だしい。
賭けことみたいに言わないで欲しい。
「…………?どうしたの明智君?じっと見て?」
「いや、別に……」
因みにその転校生は女だよ。
これ、原作知っている円なら知らないはずないだろうに……。
もはや、完全に円の中に『悲しみの連鎖を断ち切』の出来事は忘却してしまっているらしい。
「クラス着いたわね」
「出席番号順の席順だからみんなバラバラになるな」
「俺の出席番号の前は佐々木みたいだったがな」
「というか、従姉と同じクラスとか結構気まずいんだけど」
絵美は詠美と同じクラスになったことにちょっとテンションが下がっていたのである。
嫌っているわけではなく、詠美に振り回されるらしい。
「じゃあなー」
「またなー」
教室の中に入り、黒板に示された自分の席に向かう。
相変わらず明智秀頼の出席番号は1番。
もっとさぁ、相原とか会田とか秋田とかそういう名字の奴いねーの?
せめて、5番くらいの出席番号になりたい……。
上松ゆりかくらいの名前になりたい……。
なんでも1番というのはストレスである。
『今日は6月1日だから出席番号1番の人、答えを言ってみよう!』みたいな指名。
あれ嫌いだわぁ……。
平等そうに見える指名制だが、カレンダーの日付はマックス31日。
出席番号32番以降はカレンダーの日付で指名されることがないというチート持ちである。
31日の次の1日は1番に戻るガバガバシステム狂ってるわぁ……。
32番に繰り上がらないのはどう考えてもおかしい。
その点、山本の出席番号は大体最後の方。
まず日付指名制で除外される対象になる。
「よっ、また同じクラスだな明智先生」
「ちょうど今、俺はお前のことを考えていた」
「……え?何が?」
山本が朝の挨拶として、廊下側の1番前の席に座っていた俺に声をかけてきた。
「山本、お前の出席番号は?」
「今年は39番。ヨルさんと同じクラスだとラストにならなくて助かるわぁ」
「卑怯者!」
「…………ん?」
「やっぱり32番以降じゃないか!ズルい!ズル過ぎる!」
「何がズルいのかはよくわからないが、話を聞こうじゃないか」
山本はとりあえず空いていた俺の後ろの席に座りながら俺の話をガッツリと聞く体勢になる。
「授業中、今日は8月31日だから31番の人が指名されるやつあるじゃん」
「あるある」
「でも9月1日に32番じゃなくて1番に戻るのおかしくね?」
「あー、まーなー」
「これは出席番号差別だと思うんだよ。別名出席番号依怙贔屓」
「いきなりパワーワードが生まれたな」
「『そこ、リセットすんなよ』って35年以上思ってる」
「お前16じゃん。なんで10年増えるんだよ」
そりゃあ、10年長く学生やってるから。
「子供には虐めやめろ、差別やめろとか言うわりに、大人は子供虐めと差別をしてると思うんだよ。出席番号差別反対!」
「今のお前はロジハラだよ。ロジハラ反対!」
「マジか、これロジハラって言うのか!?すまん、山本!」
「いや、別に謝罪は要らないよ。いつもの雑談にガチ謝罪すんなよ」
「す、すまん」
「だから謝んなって」
「す、すまん」
「無限ループっすか?」
謝罪ループになり、口を閉じる。
やばい、沼にはまりかけたわ。
「いやいや、でも出席番号は最後でも嫌だよ?」
「そうなん?」
「注射とかの苦しみを最後まで待たされるあの恐怖よ……」
「まぁ、俺はしょっぱなだから踏ん切り付いてないのに刺されるけど」
「クラスの自己紹介とか最後らへんみんな飽きて聞いてないし」
「俺はクラスの暖まってない空気をどうにかしなくてはならないんだよ」
「…………」
「…………」
「真ん中らへん良いな!」
「タケルズルくね!?」
俺と山本の友情が深まったホームルーム前なのであった。
†
ロジハラとは?
ロジカルハラスメントのこと。
正論の言葉のパンチで相手を追い詰めること。
よく美月が被害に逢うあれ。
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