10、『灰になる君へ』

バトルホテル。

その凄惨なバトルロワイアルが行われた廃墟は未だに姿を残している。

そして、生者で入ってきた者を閉じ込める檻になる。

3人がホテル内に入った瞬間だった。

彼女らが外から入ってきた出入口が消滅したのだ。


「きゃっ!?と、閉じ込められたんだけど!?」

「ど、どうしよう楓ちゃん!?」

「はぁ?そんなわけない!そんなわけ……。よ、夜になって見えなくなっただけでしょ?ら、ライト……」


あらかじめ準備していたライトで出入口を照らす。

ガラス張りの壊れた自動ドアが開けっ放しになっていてところから入ったので、自由に出入りが可能なはずだ。


「な!?なにこれ!?コンクリ?あり得ない!あり得ないんだけど!?」


楓が一面ガラス張りだった場所に設置されたコンクリートの壁を触ると、ひんやりとした感触が広がる。

冷たい無機質なコンクリートの感触が広がる度に『これは現実』というのを思い知らされる。


「見て、なんか立て札が……!?」


小鳥がコンクリートとは真逆の方向に指を差す。

恐怖で足がすくむノアと、コンクリートの壁で呆然と向き合う楓は動けないと判断して小鳥は動き出す。


突然の出来事に驚いたが、小鳥の動揺は3人で1番小さかった。

ふんわりとしていて、どんくさいと思われやすい小鳥だが、行動力は高く、真っ先に小走りをしながら立て札に近寄る。





「『ここより先ジャパン国憲法が通用すると思うなよ……。此処、異世界なり』。な、なにこれ……?」

「違う!これ、文字が新し過ぎる!こんなのハッタリよ!」


小鳥に追い付いた楓が指摘すると、「あ……」と漏らす。

確かに、バトルホテル内の物はぐちゃぐちゃに壊されたり、錆びなどの劣化があるのに、立て札だけは妙に真新しい。

幽霊はいるかもしれないが、なんかおかしいと楓と小鳥は立て札とにらめっこをしていた。


そんな楓から10秒ほど遅れて「待ってよー」と、呑気な声を出したノアも現れて3人が揃う。


「とりあえずこれからどうしよう?」

「当然、脱出。まったく、どこの誰か知らないけどギフトでも使ってんじゃないの」

「だ、誰がこんな場所で私たちにギフトなんか使うの?」


愚痴に対し返事をしたノアの言葉にぐうの音も出ない指摘をされて怒りのやり場を失う楓。

そのまま彼女は、立て札の近くにあった置物によっかかる。


「ん?ノアちゃん?何によっかかってるの?」

「え?なんか銅像みたいなやつかな?」

「ち、違う銅像じゃない!こ、これっ……甲冑だ!」

「ひっ!?ほ、本当だ」

「えっ!?ちょ、ちょっと!?」

「ひぃぃっ!?か、楓ちゃん!?」

「え?何?」


小鳥が灯した明かりに、ノアと2人で小さい悲鳴を漏らす。

甲冑に驚いたからではない。

徐々に甲冑が動き出したからだ。


それに気付かない楓は、2人が何に驚いたのかと振り向いた時だった。




──ギラッ。




小鳥のライトが反射した。

そこに写るのは剣。

その剣が楓の目玉を抉る。


「ぐぇっ……!?」


楓の口から変な空気が漏れる。

そこから離れている2人は、楓の顔を貫通した剣に視線が止まらない。


「いだいっ!いだいっ!?ねぇ、ノア、小鳥?何これ?顔が……、顔が痛いんだけど……。何が起こって……」


血が止まらない……。

顔が痛いだけなのに、意識が朦朧としてくる。

ノアと小鳥が何か言っているのに、耳に入ってこない。

どこか遠くから叫んでいるような。


「や、やめてっ!?」


ノアが甲冑に呼び掛けた時だった。

楓の目玉を抉り、頭に貫通した剣がそのまま引き裂くように身体を分解する。


「…………」


びぃちゃぁ……。

不快な音をたてて、楓の死体が床にぶちまけられた。


「え……?」

「嘘?……な、なんで……?」


ノアと小鳥は信じられないものを目にする。

楓の身体が灰に変わり果てていく。

まるで、身体の底から焼かれていくように……。



傷心旅行で肝だめしに来たことを後悔する間もなく。

一ノ瀬楓は19歳の若さでこの世を去ったのであった。







『灰になる君へ』

プロローグ。








この世界は、終わると灰になる……。









END

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