9、津軽和の推理

「皆さん、よろしくお願いしますね!」


俺たち全員の自己紹介が終わると、灰原ノアが年下グループの俺たちに愛想よくはにかみながら頭を下げた。

めちゃ可愛い……。


「う……、ヒロインオーラが……」

「くっ……。絶対ウチとは同じ人間という種族だけど、神に愛されているに違いない……」


円と咲夜は陽キャラの光を浴びて変なダメージを受けていた。

賑やかな人たちだけど、円も咲夜も俺は大好きだよ。


「まぁ!地元同じなんですか!?」

「わたくしも学校に通うために地元から出てきたんです」

「学校近くのアイス屋とかご存知ですか?」

「イチゴのやつめっちゃ好き!なんか地元戻りたくなったなー」

「今度私たち4人で地元探険しましょうよ!」


牧原小鳥はどうやら地元が美月、美鈴、永遠ちゃんと同じところらしくジモティートークが始まっていた。

永遠ちゃんの地元とか、ファンとして聖地巡礼としてカメラ持って行きたい……。

お、俺も行きたいって言ったら連れて行ってくれるかな……?


「…………ところで、あの人はなんでお兄ちゃんを睨んでいるんですか?」

「さ、さぁ?」


視線には入れないようにしていたのに、星子の指摘で確信した。

一ノ瀬楓が俺を敵視して、不機嫌そうな顔をしている。


「私なら理由わかりますよ」

「本当か和!?教えてくれ!?」

「のーちゃん!」


ニュッと和が兄妹の会話に割り込んでくる。

人に好かれることはしてないが、嫌われることもしてないはずだ。

無意味にヘイトを溜めて、デッドエンドは勘弁して欲しいんだ!


「先輩がゴミクズだからです!」

「それが言いたいだけだろ!?」

「でも10人以上の女を一緒に連れていればそれはもうゴミクズ男ですよ」

「そ、それは確かにゴミクズだ」

「ただゴミクズ先輩がそこに存在するだけで、津軽和はこの程度の推理が可能です……。如何でしょうか、皆様方?」

「ぐぅ……。ロジックエラーだ!」

「一夫多妻制の世界に生まれなかった。それがあなたの過ちです」

「俺個人ではどうしようもねぇ!」


和に言葉でボッコボコに殴られた……。

本当にこの子は俺の彼女なの?と疑問を持つくらいに素っ気ない。

猫みたいな奴だ。


「別に良いじゃないですか!私が彼女なんすから、別の女から良く思われなくって!」

「の、和!?」

「そうですね!お兄ちゃんは他の女には嫌われているくらいがちょうど良いんです。万人に好かれなくて良いですから!」

「星子ちゃん!?」


両手から後輩2人が手を繋いでくる。

まぁ、確かに。

楓に嫌われていようが、正直どうでも良いか。


それよりも……。


「あ!入り口が見えてきたわよ」

「ぅぅ……。怖いよぉ……」


先頭グループにいる引率する悠久と怖がる三島の声がした。

『灰になる君へ』のゲームが始まってしまうことだ。


こうなったら、無理にギフト使って引き返すか。

よし、そうしよう!

『灰になる君へ』が始まらない!

それが最高のハッピーエンド!

ここを目指そう!


「なぁ、えっと……。【ここから】」

「何やってんじゃお前はぁ!?」

「いだいっ!?」

「ヨル先輩?」

「どうしたん?ヨルパイがそんなに荒ぶるなんて……?」


【ここから全員引き返せ】と『命令支配』のギフトを使用しようとした瞬間、ヨルがやってきて首に体重をかけてくる。

この場でのギフト使用は禁止らしい。


「自分は怖いからってそりゃあねぇぜ、明智先生よぉ!?」

「た、タケルみてぇな呼び方すんじゃねぇよ……」

「良いじゃねぇか!ホラーがダメな明智とかますます見てみたくなったぜ!あたしに抱き付いても良いんだぜ?けらけらけら」

「ちょっと良いか?星子に、和」


そう言って2人と繋いでいた手を離す。

俺のギフトの内容を知らない2人はヨルの行動が奇行に見えたらしく、ポカーンとしている。


「ヨル……」

「あー?なんだよビビりの明智先生?」

「ぎゅっ!」

「…………なっ!?」


姿勢を低くして、ぎゅっとヨルに抱き付く。

温かい体温。

ヨルの胸の感触。

ヨルのすべてがここに詰まっている。


「何やっとんじゃお前はー!?」

「まあまあ、ヨルパイ。ヨルパイが煽ったのが悪いんすよ。ヨルパイから誘ったんじゃないっすか!」

「ヨル先輩、意外にもお兄ちゃんにデレデレですね」

「くぅ!?屈辱だぁぁぁ!殺せぇ!」

「え?ヨルが望みなら我が殺してやろうか?」

「お前は呼んでねぇよ!殺すのに躊躇無さすぎない!?」


ゆりかも巻き込み5人でごちゃごちゃになった。

あれ?

なんか本来の目的を忘れたような……。









「何、あの男?何人もの女とイチャイチャしてバカみたい」

「も、もう楓ったら。気にしなくて良いじゃん。あのバカ男退学なったんだし」

「本当にああいう好き勝手に女漁る男イライラする」

「でも、みんな幸せそうじゃん。それに、私と楓に付きまとって奴は黙って何人もの女と遊んでたらしいけど、明智君はみんなわかってて恋人なってるんでしょ。こっちのが誠実じゃない?」

「ものは言い様ね……」


楓と小鳥がこそこそと遠い距離で何か喋っている。

…………えっと、何しようとしてたんだっけ?




「あ!入り口あったよ!さぁ、みんな肝だめしの時間だね!」


悠久が嬉しそうにバトルホテルの入り口の扉を開けた。

その中に何人かが入っていく。





…………あ!?

もう引き返せないじゃん!





こうして、『灰になる君へ』の本編がイレギュラーな形で幕を上げてしまったのであった……。

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