2、近城悠久

遠出の初デートの予定を決めて、それからすぐに当日を迎える。

一応、泊まり掛けの予定であるが全員高校。

当然、未成年者だ。

俺と円の精神年齢は成人しているくらいだが、この世界では通じない。


そこで、最低1人は保護者が必要になった。

おばさん、マスター、どっかのシスコンくらいしか選択肢がない俺であったが、メンバーは他にも12人いる。

すると、最低でも1人は『大人を捕まえられる』と豪語した。


見事それを実現させたのは、『悲しみの連鎖を断ち切り』シリーズのメインヒロインのヨルであった。

その彼女が連れて来た大人を見て、俺は『あんたかい!』と突っ込みたくなった。








「ヨルちゃんに呼ばれ、現れました。壮大な女、近城悠久よ!よろしくね!」

「学園長だ。全員知ってるだろうけど一応な」

「因みに文芸部の顧問をしているわ」

「…………え?」


え?

文芸部?

もしかしなくてもそれ……。


「え?悠久ってウチらの部活顧問なの?」

「悠・久・先生でしょぉぉ」

「お、押し付けは悪いってマスターが言ってた」

「誰!?誰なの!?マスター誰っ!?」


咲夜は本人の前で呼び捨てにして悠久に注意を受けていた。

俺も達裄さんの前で悠久と呼んでしまった手前、咲夜の二の舞にならないように注意しなくては。


「え?遥香は知ってました?」

「え?ボクは当然知ってますよ。部室提供したのも近城先生ですから」

「はぇー……」


絵美が気の抜けた声を上げた。

逆に言うとこのメンバーは、三島以外顧問を知らなかったことになる。


「そして、あなたが明智秀頼君ね」

「は、はぁ……。決闘の時はお世話になりました……」


悠久が俺を認識しているらしく、俺の前に立ちはだかる。

挨拶代わりに頭を下げると、「ふーん」と品定めしているような目と声でじろじろ視線を感じた。


「過去一驚かされた決闘だったわ。あなた、色々と問題児ね」

「う……」

「それに達裄さんが目を付けているという……。う、羨まし過ぎる……」

「そこに嫉妬されても困るよ……」


達裄さんの結婚を邪魔している女の1人なのが、今のでよーくわかったよ。

そのちょっと離れた位置でゆりかとヨルが会話している姿があった。


「一応あたしの保護者だ。親戚みてぇな存在だ」

「通りでヨルみたいに滅茶苦茶な人なのだな。我くらいになるとそういうのがわかる。クフフフフ」

「おい、ゆりか?バカにしたか?今あたしをバカにしたか?」

「ゆりかと学園長が似ているとしか言ってないが?」

「それがバカにしているってんだよ!待てゆりかー!」

「ふんっ!追いかけっこなら負けぬ。シュッ!」


瞬間移動をする仕草をしながら必死に走り、会話していた理沙と永遠ちゃんの間をすり抜けながらゆりかは移動する。

「にゃろぉ!」と、負けず嫌いに火が付いたヨルはゆりかを追いかけはじめた。


「ゆりかさん、ヨルさん!今から新幹線乗るんだから大人しくしていてください!」

「む?割り込むか美鈴?」

「良いから!大人しく!」

「…………はい」


しゅんと大人しくなったゆりかとヨルが美鈴と美月のところで制止した。

常に賑やかで元気を貰える。

こういう姿を眺めているだけで、無条件に好きだなって思ってしまう自分がダメダメだ。


「秀頼きゅぅん!隣に座ろ!」

「う、うん」

「ちょっとずるいですよ絵美さん!そんなのみんな座りたいじゃないですか!」

「お兄ちゃん!」

「せ、席順はランダムだ。新幹線のチケットはあるんだから秀頼の隣になれるのは1人だけだぞ!?」

「お?ツキパイ、仕切りだしたね」


新幹線チケットを取った美月が、トランプのババ抜きみたいに構えて並べる。

美月は余りもの。

全員が一斉にチケットを手に取り、引いたのだった……。












「秀頼君の隣ゲットだよ」

「あ、あぁ……」


窓際に絵美。

その隣が俺になった。

本当に強いなこの子。

悠久が隣にならなくて良かったと、項垂れたヨルを見ながら彼女が可哀想になった。


「ふふっ。2人きりなんて久しぶりだね」

「そうだな。中々絵美と2人になれなかったからなぁ」

『後ろにウチらいるの忘れるな』

『明智君の後ろは津軽円でーす』


前途多難な一泊旅行だと思いながら、お茶を飲んで喉を潤したのであった。

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