15、スタヴァの姉ちゃんは知る

千姫と別れて、電車に揺られながら最寄り駅にたどり着く。

『よっしゃ!行くか!』と決心しながら、身体を伸ばして足を喫茶店まで伸ばそうとした時であった。


「あ!明智さん!こんにちはー!」

「っと!?あ、スタヴァの姉ちゃんだ。こんちわっす」


見覚えのある姿と、聞き覚えのある声に立ち止まるとスタヴァで働いている姉ちゃんを見掛けた。

彼女の向かう先は、スタヴァ方面。

今からバイトなのだろうと察した。


「あ!?もしかして、今からスタヴァですか!?」


キラッキラした目でスタヴァ方面に視線を向ける姉ちゃん。

暇なら用事なんかなくてもスタヴァに寄りたいところである。

しかし、誕生日で祝ってもらう側がブッチするのは最悪だろう。

コーヒー一杯くらいなら全然入るが、電車の中でも『寄り道せず、早く来いよ』と煽られている。

『しねーよ』と送った以上、寄り道は無しである。


「ご、ごめんね……。今日、俺誕生日でさ」

「たんじょうび…………。え!?誕生日!?」

「友達らが祝ってくれるからちょっと今日急ぎなんだよね」

「そ、そんな……。……不覚過ぎる」

「あ、電話きた」


スマホが鳴り響いた。

そのディスプレイから出た名前に驚愕する。


『浅井千姫』?

なんで?

どうしたんだ?


通話ボタンを押そうとした時だ。

スマホの画面が黒一色に変わる。


「明智さん?顔が真面目ですよ?」

「え?いつも真面目顔だけど?」

「いや、さっきの表情はそういういつもの顔じゃなくて真剣な……。というか、誰から電車来たんですか?もしかしてかのじ」

「あ、また電話きた」


かけ直してきたのか、次はスマホのディスプレイが光った瞬間に通話ボタンをタップする。

「もしもし?どうした?」とスマホの持つ主に声をかけた。


千姫……。

なんか、今日のお前変だぞ?

部活が一緒っていう社交辞令から連絡先を交換しただけで、『絶対ヨリ君に電話することなんかないわー』って生意気言ってた女が俺に電話するなんて。


秀頼サディストの忠告もある。

俺はうるさく鳴り響く鼓動を聞こえないか心配しながら、電話の先の言葉を待った。













『電車着いたよな?』

「電車?あ、タケル?」

『そうだよ、タケルだよ。お前のことだから駅前で知り合いに会って雑談して1時間潰すとかよくあるからよ。今日くらい直行で来いよ』

「あはははは……。1時間は盛り過ぎだよ」

『GW前、『知り合いと会った』とか抜かして1時間半会話してたの忘れてねーからな』

「あはははは……。あったかもね、そんなの……」


ちょっと鹿野とばったり出くわしたら会話が弾んだことをまだ根に持っているらしい。


「す、すぐ行く!今駅だからあと10分くらいよ!またな!」

『絶対10分な』


電話を切り、時間を見る。

よし、走れば5分程度。

間に合う、間に合う。


「ご、ごめんねスタヴァの姉ちゃん。この埋め合わせは今度ね」

「今の電話って明智さんとよく店来る男友達だよね?」

「あぁ、タケル君よ。タケル君」


タケルがスタヴァの姉ちゃんが彼氏と電車乗ってたと報告してきた通り、2人は一応は面識ある。


(明智さんの誕生日を知らなかったなんて凡ミスをしてしまった……。一生の不覚……。ただ、男同士の誕生パーティーならまだ有りだよね。女の子とロマンチックな誕生パーティーは無しとの判断で……)

「スタヴァの姉ちゃん?」

「そっか、残念……。なら、今度は私が明智さんに誕生日祝ってあげる」

「マジで!?」


そもそも俺って、スタヴァの姉ちゃんから誕生日を祝われる仲なのだろうか?


「なら今度、俺もスタヴァの姉ちゃんの誕生日祝うよ。誕生日いつ?」

「10月31日」

「ハロウィンなんだね。覚えておくよ」


スタヴァの姉ちゃんの本名より先に誕生日を知ったのであった。


「ところで私の名前なんだけど」

「ん?あ、ラインのやつって本当の名前?」

「それそれ。本当の名前」

「平仮名しか無いんだけど、本名全部平仮名?」

「本名は全部漢字だよ」

「へー、そうなんだ」

「そろそろ、名前で呼んでくれても」

「あ、また電話きたよ」

「ごめん、ごめん。明智さんを引き止めちゃダメだね!男友達との誕生日パーティー楽しんできてね!」

「うん、じゃーねー」


スタヴァの姉ちゃんがスタヴァ方面に歩いて行った。

まったく、今日は電話ばっかりね。

喫茶店方面を歩きながら通話する。


『あ、もしもし?明智君!』

「どうした理沙?」

『ちゃんと喫茶店に向かってますよね?』

「向かってるよ!?どんだけ疑り深い兄妹なんだよ!?」


理沙にも念を押されて、スピードアップして喫茶店に向かう。

周りから会話が長い人とか思われてそうで嫌だなと、この時ばかりは反省していた。

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