4、十文字タケルは父を語る
昼休み、千姫に呼ばれた通りに部室に向かう。
そのまま部室に入ると「やっ、ヨリ君」と声を掛けてきた千姫。
「わざわざ悪いな、秀頼」とちょっと気まずそうなタケルが、なんか持っていた。
よーく目を凝らすと、なんでそんなものを?と言いたくなるものを片手にスタンバイしていた。
「……お前、何持ってんの?」
「見りゃわかんだろ?」
「見てわかるから戸惑ってんだよ。なんでビデオカメラ持ってんだよ!?」
「これは親父が俺と理沙が小学校を卒業する前に買ったビデオカメラなんだ」
「別にビデオカメラの購入した経緯なんか聞いてねーからな!?お前は天然か!」
あと、何気に久し振りにタケルから親のことが語られた気がする。
原作でもろくに名前が上がらないから完全疎遠なのかと思えばそうでもないらしい。
パッと見た感じ10万くらいしそうなビデオカメラである。
意外に金持ちだよね、十文字家。
「では、これよりタケルちゃんがカメラマンで、ヨリ君にはインタビューを受けてもらいます」
「…………なんで?」
「いつか、ヨリ君がジャパンで有名になったらこのインタビュー動画は貴重な映像になると思うからね」
「ジャパンで有名になるつもりなんか一切ないんだけど」
そう抗議しても「いや、なる」と千姫は自信満々だった。
「だってヨリ君はイケメンだし」
「え?マジで?」
千姫基準では俺はイケメンな部類らしい。
素っ気なくされまくった今日の俺は、千姫の好感度が爆上がりである。
「あたしが芸能プロダクションを立ち上げたら真っ先にスカウトしてあげる」
「因みに君の将来の夢は?」
「可愛いメイド☆」
「スタチャスマイルで答えるなよ」
スタチャと同じポージングを決める。
そういえば、まだ千姫にスタチャを紹介してなかったなぁ……、と変なことを思い出した。
「まあまあ。座って、座って」
「お前って神経図太いよね。よくわからん撮影を無料で引き受けてくれる俺優しすぎないか?」
「俺だってカメラマン代もらってないんだよ」
ただ、タケルの場合は理沙の利益になるならなんでも無料で引き受けるんだろうね。
「さて、ヨリ君にはインタビューを偽らないで答えて欲しい」
「はぁ……」
「もし、テキトーなことばかりほざいていると『可愛くなっちゃえ』で頼子に戻します」
「はぁ!?……ってか、頼子が元の姿みてぇに言うなよ!今が元の姿なんだよ!あと、そのギフト名はどっから来たんだよ!?」
「なんか相手をクッキーとかチョコにする変身ビームで地球を攻撃するラスボスのマンガがあってね」
「あぁ!ド●ゴンボールね!」
既知感があると思ったが、やっぱりあれかよ。
「ブウが可愛いとか言っちゃうタイプの女子か……」
「はぁ!?なわけねーじゃん。あたしは17号と18号の姉弟推しよ」
「ファッ!?」
千姫が普通の感性を見せると驚愕する。
「失礼しちゃう」と言いながら千姫は俺の向かいに座った。
「それでは何個か質問があるので正直に答えてくださいね」
そう切り出し、千姫は妖しく笑う。
その姿を淡々とタケルが撮影をするのであった。
「OK!今日はありがとうございますヨリ君!タケルちゃん、撮影出来てる?」
「あぁ、バッチリだ。きちんと再生すると秀頼の声がする」
「そりゃあね」
昼休みをフル活用して、こんなインタビュー動画に価値なんか何も生まれないと思うのだが、千姫とタケルは嬉しそうである。
「でも、やっぱりヨリ君は面白いよね。天然ってやつ?」
「誰が天然なんだよ……」
むしろタケルが天然だって。
本当にありのままインタビューに答えたのに、天然って感想はないだろう。
「じゃあ、タケルちゃんからもヨリ君に一言!」
「天然だよ」
「だから!なんでだよ!?」
「いや、それはインタビューに関係なく昔から……」
「昔から!?」
最近、なんか色んな人に舐められている気がする。
鬼畜なクズゲス親友枠の明智秀頼が、弄られキャラなんて原作では考えられないことだ……。
「じゃあねぇ!ヨリ君にタケルちゃんも!」
「あぁ」
「じゃあまた後でな」
「ん?」
タケルと一緒に千姫を見送ったのだが、タケルのやつ後からも彼女に会うのか?
なんのために?
やっぱり付き合ってる?
「どうした秀頼?」
「いや、『また後でな』って後から千姫に会うのか?」
「…………まぁ。多分……」
「誤魔化し下手かよ」
やっぱりタケルはタケル。
天然度は俺より上だ。
無能主人公だったことを思い出したのだった。
†
秀頼もタケルもお互いが『自分よりあっちの方が天然でドジ』って思い合っています。
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