ギャルゲーのヘイトを溜めるクズでゲスな親友役として転生してしまいました。そして主人公が無能すぎて役にたたない……。

番外編、コーヒーのような苦い人生

私の夢は自分のカフェを運営をすること。

夢を描きながら毎日、マーケティングやコーヒーの煎れ方などを学んでいた。

スターヴァックスみたいな大手チェーン店にならなくても良い。

お客さんが数人しか入れないような小さい店くらいでも……、と高望みはしていない。

大きければ大きいでも全然構わないのだけれど。

そして、色んな喫茶店やカフェなどを巡っては店の層やコーヒーの味を研究する。

コーヒー好きな私は微妙な味の違いなんか中校生くらいまではわからなかったけれど、高校を卒業するくらいにはなんとなくではあるが美味しいとか、美味しくないなどの違いがわかるようになった。

「コーヒーなんてどれも一緒。ジャパン人なのだもの、１番親しまれるのは紅茶よ」

「…………」

「遺伝子から、ジャパン人は紅茶が好きって決まってるのよ」

「サァァァァヤァァァァ！この西洋被れぇぇぇ！」

「ゆら……揺らさないでぇぇぇ！」

それで最近、私は高校からの友達の佐山ゆり子・通称サーヤと一緒に喫茶店を巡っていた。

何故か本名の佐山もゆり子も嫌いらしく、「エレガントじゃない偽名よ。真名はサーヤなのよ！」と胸を張るのでサーヤと呼ぶようになった。

親からは普通にゆり子って呼ばれていたけど……。

サーヤとは、高校１年の時から同じクラスだったけど昔は全然仲良くなかった。

昔のサーヤは、どこか人を見下していて特に女性にはいつも敵意や嫉妬の籠った目で見ていて苦手だった。

しかし、高校２年生で突然生活における記憶喪失になったらしく、それ以降は厨ニ病気味だけど普通の女の子になり仲良くなったという経緯がある。

それで私はコーヒー、サーヤは紅茶を目的で喫茶店巡りを一緒にする仲だ。

大学まで同じになるのは、本当にただの偶然。

学力が同じくらいだったからだ。

「でも凄いよ、サーヤ！まさか大学生で自分の店を開くなんて！」

「親から要らない建屋をもらっただけ。立地が悪すぎて全然人なんか来ないわ。まぁ、占いするだけだからなんの在庫も抱えてないから潰れることはないだろうけど……。家賃も全額支払い完了してるしね……」

私も自分の店を持ちたいけど、まだまだ先だなぁと途方にくれながらため息を吐く。

結構サーヤの家はお金持ちらしいけど、私たち家族は４人兄妹で金がない。

「でも、店を開くって大変よ。ねぇ、店長さん？」

「あはは……。まぁねぇ……。良いことばかりじゃないよ……」

『サンクチュアリ』という喫茶店の店長をしている人が、サーヤに話を振られて苦笑いをしていた。

確かにこの店も人がたくさん来ているって感じはしない。

けど、雰囲気やコーヒーの味、値段などがリーズナブルでついつい通ってしまう店だった。

「コーヒーの味だけでお客さんは来ないからねぇ……」

「占いの腕だけで客は来ないからなぁ……」

「ナチュラルに私の夢を壊そうとするのやめてもらって良いかな！？」

店の店長２人が自虐的な笑顔とひきつった笑顔が融合した表情で現実を突きつけてきた。

「現代に闇を抱えた若者が入りやすいようなコンセプトの元『暗黒真珠佐山』の名前にしたのに来るのは宝石を求めるババアばかり。ネット見ろっての！」

「じゃあ、店名から真珠を取れば？」

「『暗黒佐山』になっちゃう！」

「なっちゃえよ」

根本的にサーヤの店の名前が間違っている気がする。

「今度、この子ね駅前のスタヴァでバイトするんだって」

「へぇ。変な客に絡まれないようにね」

「店長さんのアドバイスが夢を壊す！」

いや、それは確かに勘弁である。

しかし、やはり大手のマニュアルは知っておき、将来の糧にしたい。

そういう潜入的なところもスタヴァを選んだ理由である。

「まぁ、本当に変な人に絡まれるなんて日常茶飯事だからさ……」

店長さんが突き付けるように言い放つ。

何か、私の心に釘を刺すように……。

「いら……いらっしゃいませ！」

スタヴァのマニュアルとかを数日叩き込まれ、はじめてレジに立つ。

源という、スタヴァに誘ってくれた先輩からフォローされながらではあるが……。

接客も思ったより緊張してしまう。

源先輩からも「リラックスして」と背中を優しく叩かれる。

夕方の時間になると学生が増えてくる。

慌てながら接客に勤しむ。

そして、２人組の男性がレジにやってきた。

「カプチーノ１つ。あと秀頼、お前何すんだよ」

「なんでも良いっての」

「お前、それで前にほうじ茶ラテ持ってきたら不味いって俺にぶっかけたじゃん。あん時私服びちゃびちゃになったんだからそれを防ぐためだろ！？なぁ、好きなの頼めよ。制服濡らさないためによ」

「面倒だなー。じゃあ、お前と同じやつで良いよ」

目付きが悪く、態度も大きいお客さんが来て心臓を掴まれたような緊張が走る。

いや、大丈夫……。

大丈夫と言い聞かせながら連れのお客さんにはカプチーノを渡す。

もう１人の怖いお客さんは少し離れた位置にいて安心できた。

そして出来上がったカプチーノを震えながら渡そうとした時だった。

「あ……」

びしゃ、とコーヒーの中身をぶちまけてしまった。

なんでよりによってこの怖そうなお客さんにやってしまったんだろうという後悔しか湧かない……。

「…………」

「あはは……。だ、大丈夫っすよ。な、秀頼？」

「も、申し訳ありませんでしたお客様！ただいま新しいものと交換致しますね！」

片割れの人が男の人を宥めているが、こちらを執拗に見ているのが視線から伝わってきた。

そして、連れの男を鬱陶しそうに引き剥がし私に近寄ってきた。

「お前よぉ、接客業向いてねーよ」

「……え？」

「ちょ、ちょっと！？秀頼！？何やってんだよお前！？」

「うるせぇ、てめえは黙ってろ」

掴んだ肩も引き剥がし、私にズカズカと悪態をつく。

「大学の学費のためとか、自分の店作りてぇとか夢があるのかもしれねぇけど俺には関係ねぇ。お前は何もできねぇ無能だ。店なんかやめちまえよ」

「も、申し訳あり……、ありま……」

どうして、いきなり私の夢を壊すようなことを言うの……。

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

私のミスです。

私が緊張して溢しました。

「なぁ？【今日、仕事やめろよ】。【そんでよぉ、夢も希望も失って車にでも轢かれて死んでしまえよバァカ】」

「ひっ……。ごめ、ごめんなさい……」

もう、仕事やめます。

そうしなければ、私は許してもらえないんだ……。

「秀頼！？そんなにしつこく言うことねぇだろうが！やり過ぎだっての！？」

「申し訳ありません」

「！？」

震えていたところに源先輩の声がして、一緒に頭を下げた。

「か、彼女は今日が初の接客でして……。手を滑らせてしまいました。強く言い聞かせます！こちらのミスですので……」

「ひ、秀頼！？お前、俺のコーヒー取って何を……」

「え……？」

源先輩と一緒に謝罪をしていると頭から濡れた感触が広がる。

鼻を付く匂いがコーヒーだと気付いたのは、垂れた液体が黒いのだと理解した後だった。

「わりぃ、手が滑った。あるよなー、そういうの。お互い様ってわけで許してやるよ」

「ば、馬鹿なんかよお前！？」

「じゃあねぇ、出来損ないのスタヴァの姉ちゃん」

そう言ってにっこりと笑い男が立ち去った。

それを必死に付き添いの男が追っていき、２人は去っていく。

「だ、大丈夫？ああいうやばいお客さん来るのなんか本当にあんまりないから。ね？忘れよう？」

「私、バイトやめます……。申し訳ありません、源先輩……」

「ちょ、ちょっと！？そ、そんなに落ち込まないで！ね、ちょっと！？」

気付いたら私は店から自宅に帰ろうとしていた。

私に店を作るなんて夢、無理だったんだ。

大学卒業したら、何しよう？

「……え？」

赤信号で止まらなくてはいけないのに、足が勝手に動く。

ちょ、ちょっと待って！？

こ、これじゃあ私死んじゃう……。

横に猛スピードで走る大型トラックが視界に入る。

「あ……」と漏らした時には既にトラックが私の身体をぐちゃぐちゃにしていた……。

『お、おい！？』

『きゅ、救急車だ！だ、誰か！？』

『じ、自殺したかったのか！？なんで飛び出したりしたんだ！？』

『なんだ？事故？』

『ちょ、ちょっと！？やばくない！？』

『写真撮れ！あのトラックの運転手人殺しだ！』

ざわざわとした騒ぎがどんどん耳から遠くなり、そのまま意識が失くなっていった……。

†

続く……。