19、無自覚の進行

「クハッ、クハッ、クハハハッ」


1時間程度の決闘を見届け、筋書き通りに織田の敗北と明智秀頼の勝利に満足したように黒幕概念は嘲笑っていた。


バリアとポルターガイストのギフトを組み合わせたコンボ攻撃を考えるとは雑魚にしては猿知恵を働かせたものだ。

いや、猿知恵ではなく、ゴリラ知恵か。


明智秀頼を一皮剥かせるという目的を達し、あとはゆっくりとこれからのことをメロンソーダでも飲みながらゆっくり考えようとこの場を後にしようとした時だった。


「ひっ!?」

「…………」


じーっと見ていた長身の男が、気配もなく概念の後ろに立っていた。

この男は確か、明智秀頼を鍛えているという……。


自分が簡単に背中を許していたという事実に恐怖の感情が甦る。

なんだ、なんなんだ……。

自分が神なのに、まるで神の座を奪われたかのようなそんな恐ろしい被害妄想すら浮かぶ。


「な、なんだお前は?クハッ!」

「…………この場で1番悪意があった子だから気になって」

「くは……?」


黒幕概念はゾッとする。

確かに悪意なんてものがあれば、自分が強い。

でも、何故それを察することができる?

怖い、怖い、怖い……。


「もしかして秀頼を虐めようとかそんな感じ?」

「くはは……。う、ウチはそんなん知らんなぁ……」

「あー、なるほどね」

「え?え?な、何がなるほどなんだ?」


Q&Aが成立しない会話。

何がなるほどなのか、概念には意味がわからなかった。


「だから、秀頼を虐めて虐めて虐めて虐めて虐めて……」

「っ!?」

「気を引きたいんでしょ」

「は?」


え?

なんの話?

責められているのかと思えば、責める気はなさそうで全然意味がわからなかった……。


「あいつのドMにも困ったもんだね。人間ちょっとSなくらいがちょうど良いよ」

「…………え?」

「君はだいぶドSだね。秀頼を落としたいなら口に出して告白しないと伝わんないよ。口に出さないのに、好きって察してなんてそんなの傲慢だろう?秀頼はMだからSな子大歓迎だよ」

「し、失礼する!」


黒幕概念はそう打ち切って離れる。

あの男はなんかヤバい!

なんかヤバい!

神としての本能が逃げるように告げている。

そのまま、彼女はこの体育館を後にした。


「先輩!何を高校生を虐めているんですか!行きますよっ!」

「わかった!わかったから!待てっての!」


仮面の騎士に急かされた時だった。


『勝者、明智秀頼!』


悠久のアナウンスが響き渡る。

既に3人が駆け付けた時には決闘は終わってしまっていた。


「まぁ、秀頼は負けるわけはないと思ってたけど……、ボロボロみたいだねぇ……」


意識が失ったような秀頼と、彼に抱き付かれた絵美と円。

それを引き剥がそうとする人影が集まっている。


「2人ばっかりズルい!ボクも明智さんにくっつきたいです!」

「そうだ!そうだ!絵美たちばかり抜け駆けじゃないか!ただでさえ、君たちは同じクラスなのに……」

「なら遥香もお姉様も、来年同じクラスになれれば良いじゃないですか」

「わ、わたくしにそんな権限はない!」


何やら倒れた秀頼に群がり一悶着が始まりかけていた。

悠久もどうしたら良いか慌てふためいている。


「あらあら?秀頼君が離してくれそうにありません!わたし、秀頼君に愛されてます」

「明智君が愛してくれるなら仕方ない。起きるまで待とうか」

「ズル過ぎですよ!2人共!」


秀頼に抱かれながらマウントを取る絵美と円に、理沙と永遠が反論している。

実際に秀頼の力が強すぎて引き剥がせないのだ。


「あ、修羅場だ!」


達裄が気絶した秀頼の状況を察したように言う。


「よし、このまま目が覚めるまで観察しようか!」

「って、助けましょうよ遠野さん!?」


達裄が助けるどころが悪ノリする。

仮面の騎士はわかりきった達裄の反応にため息を吐く。


「もう!私が行きます!」


詠美が助けに行こうとしない達裄と仮面の騎士から離れてずんずんと絵美たちの中へ行く。


「というか、詠美ちゃん。秀頼の知り合いなんだな。意外だ」

「…………私も明智秀頼のことは知っている」

「え!?アイリ知ってんの!?」

「3年くらい前か?私の刀を盗んだ泥棒を捕まえた奴だ。まぁ、それしか知らんがな。むしろ、達裄先輩の知り合いな方が驚いた。たまたま学校見学に来ただけだが面白いことと重なったものだな」


仮面の位置を調整しながら、ちろっと明智秀頼を盗み見る。

まさか、ここで会うことになるとは……と、秀頼には正体を知られたくない彼女であった。


「あー!達裄さんだぁ!たつゆきさん!あぁ……、達裄さんだぁ!」

「ゆ、悠久……」


悠久がメスの声を出しながら達裄に近付いて来る。

長い付き合いとはいえ、彼は悠久のこういう一面が苦手だった。


「達裄成分補充!」

「だからー、抱き付くなって!俺、彼女いるんだからやめろっての!」

「結婚してないならセーフです!毎回言ってるじゃないですか!」

「相変わらずモテモテですね、達裄先輩。早く結婚して身を固めないと本気で彼女さんに殺されますよ」

「む?女の人?また達裄さんの女ですか?」

「違うよ、アイリだよアイリ」


そうやって達裄が隣の仮面の騎士を紹介すると、悠久が「あー!」と気付いたように声を上げた。


「アイリちゃんね。妹のアリアちゃんの転校の件ね!大丈夫よ!」

「達裄先輩にベタベタしている姿を見ると、あなたが優秀なのを忘れます」

「ふふん。壮大な女だからね。優秀なのは当然」


鼻息を荒くして、胸に手を置く悠久。

(優秀とは言いたくねぇ……)と、達裄が嫌そうな顔をしていた。


「それに、アイリちゃんがもう1回高校生する件もバッチリ準備してるから」

「ブッ!あ、アイリ?お前、また高校生するのか?」

「ちょっ!?悠久先輩!?それはみんなに黙ってって言ったじゃないですか!?うわぁ、しかも1番知られたくない馬鹿に知られたぁ!」

「そっか……。まぁ、頑張れよ仮面の騎士」

「いきなり距離を置くのやめろ!ぶっ飛ばすぞ!」

「今すぐアイリーン・ファン・レーストが高校生するって音と瑠璃とめぐりの三つ子にラインしよっ」

「や、やめろ!?同い年が高校生してるとか笑われるだろうがっ!妹に真っ先に連絡するとか酷すぎるぞ先輩!?このサディスト!」


秀頼が気絶している間に、着々とセカンドの原作も始まりつつあるのであった……。

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