14、深森美鈴は支えたい

両替から帰ってきたら美月と美鈴が男2人に絡まれていた。

片方はヒロイン、もう片方はそのヒロインの妹。

どちらも美人であり、当然モテないわけがない。

男が放っておかないのも無理はない。


…………わかってはいるが、イラッとして不愉快な気分だ。

モヤモヤしたものを自覚しながら、深森姉妹の前に立ち、2人組の男に立つ。




「俺の連れに何の用事?」


睨み付けながら2人の男に威圧的に仲介する。

男らは俺の姿を見て、口をパクパクさせている。


「あぁ!?なんだよてめぇ!?」

「マジで喧嘩売る気か!?船正のツインボクサーとやりあったらマジでおめぇ入院すっぞ!」


そして2人同時に目があった。


「…………あ、あ、あ、明智先輩!?お、お疲れ様っす!」

「ま、マジで調子乗りました!まさか明智先輩の連れだったとは……。す、すんません」

「…………」


なんかゲーセン常連客の知り合いが居て、俺に頭を下げていた。


「え?ひ、秀頼の知り合いなのか……?」

「秀頼様の後輩なんですか……?」


至極当然な質問になんて答えようか考える。

凄く人に説明するのが面倒な人間関係だ。

船正のツインボクサーと名乗るだけあり、ガタイが良く怖い人相をしている。


「この人らは他校の2年生の先輩だよ」

他校の2年生の先輩としうえ!?」

「…………」


美鈴がかん高い驚愕の声を上げる。

美月は言葉を失ったのか唖然としている。


「船正ということは船正高校か……」


自分で整理するためなのか美月がボソッと呟く。

胸に手を当てて落ち着かせている。


「船正高校なんてありませんよお姉様……」

「え!?」

「この人らの名字が船山と正地なんだよ。そこから船正ツインボクサーの名前が広まったんだよ」

「…………」

「お姉様……。めっちゃ顔赤いですわね……」


まぁ、探せば船正高校とかありそうな気はする。


「すんません……」

「マジで船正高校出身じゃなくて申し訳ないっす。俺ら北木多高校っす」

「その謝罪は要らない……。不愉快だ……」


赤い顔の美月が手を広げて顔を隠していた。


「というか、なんで秀頼様を先輩呼びに……?」

「俺ら中学時代に柔道部の先輩に干されて行き場を無くしてグレていた時に明智先輩が『じゃあ違うスポーツしたら良いんじゃね?』って説教してくれて改心したっす」

「マジぱねぇっす!」


まぁ、同じ経験がある身としてほっとけなかったところはあった。

それに俺と違って怪我とかしたわけじゃなかったので、転向を勧めただけだ。

バドミントンから剣道に移りましたなんて部員も何人か見てきた経験からのアドバイスである。


「改心した割に結構美月たちに強引にナンパしてなかった?」

「申し訳ないっすぅ!明智先輩!」

「俺じゃなくて美月と美鈴に謝るべきでは?」

「マジすいませんでしたぁ!二度とあなたらにナンパなんかしません!」


強面な2人が深森姉妹に頭を下げる。

俺の知り合いじゃなかったらナンパして迷惑掛けるのか心配にはなるが、これに懲りてくれれば良いかなとは思う。


「す、凄く慕われているのだな……」

「失礼な話、明智先輩はなんか俺らよりずっと年上って気がするんすよね。十文字や山本はそんな気はしないんすけど」

「本当に失礼な話じゃねーか」


タケルや山本よりおっさんとか思われているのか?

なんかショック過ぎるんだが……。


「マジでなんつーか……。自分も同じ経験した被害者みたいな重みがあったっつーか」

「先公共やコーチより俺らに親身になってくれて……。救われたっす」

「あんまり余計な話しないで良いよ」


明らかに俺の人生と矛盾してしまうし。

美月・美鈴どころか前世の豊臣光秀を知る円以外、明智秀頼像から大きく離れてしまう。


「両替するっすか明智先輩!?」

「もうしたからいいよ」

「マジで慰謝料払うっす」

「カツアゲみたいになるから受け取らないよ!?」


面倒になり船正ツインボクサーの2人をあしらった。

するとまた頭を下げながら彼らはゲーセンから帰って行った。


「……秀頼様。なんか挫折した過去とかあるんですか?」

「…………ないよ。俺は普通のどこにでもいる学生だよ」

「秀頼……。ちょっと悲しい顔してないか?」

「全然?そんなことないよ」

「…………そうか」


俺の時間はずっと止まったままだ。

腕を壊されたあの時から、俺の心はずっと曇り空。

目を閉じて深呼吸をする。

切り替えろ……。

俺は豊臣光秀じゃない。

明智秀頼だ。


「ゴタゴタのせいで時間結構取っちゃいましたねお姉様」

「本当だな。残念ながらUFOキャッチャーをする時間は無さそうだ」

「うわっ、本当じゃん」


船正ツインボクサーと揉めてた時間が長くてそろそろ遅くなりそうであった。

「また次の機会で遊びましょう!」との美鈴の提案にて解散の流れになった。

不完全燃焼だが、別にゲーセン行く機会なんか山ほどある。

俺はは1人で駅に向かって歩きだしたのであった。






─────






「お姉様……。美鈴は秀頼様を支えられる人になりたいです」

「……そうだな。わたくしもそう思ったよ」


秀頼と別れた双子は家の夕食時に、ゲームセンターでの出来事を話していた。

美鈴の紋章のように、普段の秀頼からは見ることの出来ない闇がそこにあった気がしたのを2人は感じていた。


「あれは……、秀頼の隠していることなのかな?」

「助けてもらったのに、助けられない自分が嫌になります……」


秀頼に正攻法に聞いてもはぐらかされるだろう。

なんとなく、明智秀頼の地雷があそこに隠されているだろうことを双子は敏感に気付いていた。

たまに見える別人のような目。

あそこには、何があるのだろう?




答えの出ない2人は、まだ自分たちは秀頼のことを何も知らないのを痛感し、無力さに悔しさを覚えた。

秀頼が秀頼じゃなくなるような、そんな恐怖感が姉妹に駆け巡った……。

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