9、十文字タケルは明かしたくない
タケルと山本の会話が気になって後ろ髪が引かれる思いをしながら美鈴の後を付いて行く。
廊下の端で人通りがほとんどない位置に陣取ると美鈴は俺に振り向く。
赤い顔をして、言いにくそうにもじもじしている。
こ、告白でもされるんじゃないかと過り、こっちも赤い顔になりそうになるのを『んなわけねーだろ』と心を落ち着かせて平静を装う。
軽く呼吸を整える。
「じ、実はですね……、本日美鈴はお姉様と放課後にお出かけに行くのですわ」
「うん」
「そ、それで……。秀頼様も一緒にお供してくださらないかと思って……。ぜ、全然美鈴と秀頼様の絡みがほとんど無いわけですし、付き合って欲しいなー、……なんて」
「良いよ」
「嫌なら無理には誘いま……、え!?良いんですかぁ!?本当に良いんですかぁ!?」
「良いよ」
美鈴が目をぱちくりしている。
断られる可能性の方が高く見積もっていたことを察した。
別に今日は達裄さんに会えたら会うくらいの用事しかなかったので暇しているしね。
「あ、あああああ……、あなたは神様ですか……!?」
「神様に会いたいなら違うクラスに行けば会えるけど」
やたら震えながら現実を受け入れられないようにオーバーリアクションを見せる。
こないだまでのぶすっとした表情でいつも孤独に教室で過ごすだけの彼女からは想像も付かない反応だ。
可愛いくておかしくて、ちょっと笑いそうになってしまう。
「ふ、ふふふっ。秀頼様はご冗談もお上手ですわ」
別に冗談でもなんでもないのだが、説明も面倒なので俺なりのジョークということにしておく。
「最近は美月との仲はどう?ギクシャクしてない?」
「ぎ、ギクシャクというのはありませんわ……。しかし、我に帰ると去年までの美鈴では考えれなくて……。おかしくて笑っちゃいますね。本当に、ほんっとうに秀頼様には感謝しかありません……」
「姉妹で少しすれ違ってただけだよ。俺はただ紋章を消したに過ぎない」
「……普通はそれが無理なんですが」
最近の美鈴は絵美や円などクラスメート共仲良くしている姿を目撃する。
果てはクラスの男子から『深森さん、あんなに可愛いとか盲点過ぎだろ』なんて意見もある。
俺も紋章が消えた美鈴がこんなに可愛いくて明るくてユニークな子なのは原作からは想像も付かなかった。
総じて原作にはルートすらないサブキャラの絵美と美鈴は、かなりかけ離れてしまった人物といえよう。
原作を知るゲームプレイヤーからは、ただの性格悪い悪役キャラクターとのギャップに驚くこと請け負いだ。
俺もこの状態から秀頼に転生したら同一人物なんて気付かない可能性すらある。
「ありがとうございます秀頼様!本日の放課後、学校の校門で待ち合わせしましょう!よろしくお願いいたします!」
「楽しみにしてるよ」
「はい!」
気持ちの良いはにかんだ笑顔が輝いていた。
彼女はもう1人で前に進める。
人に嫉妬をばら蒔く子じゃないのを感じ取りながら彼女と別れた。
今日の放課後の約束を噛み締めて教室へ戻る。
タケルと山本はまだ会話が続いていて、2人に歩み寄る。
「なるほどなぁ……。本当に辛いな、お前は」
「あんまり言い振らすなよ」
「そして業が深い」
「はぁ……。そうなんだよなぁ……」
しかし、どうやらタケルの好きな女暴露大会は終わってしまったらしい。
「お待たせ」と声を掛けると2人共びくっとする。
「タケルの好きな女俺にも教えてくれよ」
「はいはい。明智先生は退場の時間ですよー」
「はぇ?」
山本からズルズルと制服を引っ張られる。
わけがわからずタケルからどんどん遠ざかる。
「明智には教えたくないんだとよ」
「え?なんで?」
「そういう察し能力無いよね君……」
頑なに山本は教えるつもりもなく、タケルも口を閉ざしている。
意味がわからずハブられ虐めが横行していた……。
「ヒントだけ!ヒント!同じクラス!?」
「さぁ?どうでしょう?ただ、好きな男女どっちも同じなんだってよ」
「意味わかんねぇー!?なんかの比喩!?」
「ただの事実」
「全然わかんねぇ……」
「本当に察し能力ないよね。君は少し自惚れとか覚えるべきだよ」
山本からよくわからない話を愚痴愚痴とされる。
なぜそんなに隠すのかわからない。
「十文字がお前に言いたくない理由は、自分の胸に聞いてみたら?」
「わ、わかった」
「ホームルームはじまるからじゃーな」
山本の言葉を思いだす。
自分の胸に聞いてみる……。
…………。
…………あ。
そういや俺タケルに好きな女が誰か教えたことねーや。
それなのにタケルの好きな女だけ聞き出そうとするのイーブンじゃねぇわ……。
山本は長谷川雛乃と付き合っていると知っているわけで……。
だからか……。
俺の好きな女を明かさないからタケルも明かさないのか……。
俺が好きな女をタケルに明かす時があれば、タケルも明かしてくれるに違いない。
「ねぇねぇ、明智氏。頼子氏に戻らないの?」
「頼子は死んだよ」
「無慈悲でござる!無慈悲でござる!」
「騒ぐなよ……」
隣の席の白田をあしらいつつ、机で頬杖を付く。
タケルの好きな女。
美鈴との約束。
朝の出来事を考えていると朝のホームルームを告げるチャイムの音が学校中に響き渡った……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます