2、佐々木絵美は見られている

タイミング良く絵美と出くわす。

ご機嫌なのか鼻歌を歌っていた。

天気も晴れ晴れとしていて、テンションが高い。

「そんなにご機嫌でどうした?」と尋ねると、「お出かけ気分だったからタイミングばっちりで!」と興奮気味だ。

『ひっでっよりきゅぅぅん!』は中々ないレアな呼び方だ。


「おばさんなら家にいるよ」

「そうなんだ!秀頼君は?」

「出掛けるよ。あと、おばさんは家にいるよ」

「そうなんだ!じゃあわたしも付いてくー!」


絵美の冷たい手が俺の手を取る。

それから「どこ行くの?」と聞かれて、正直に『サンクチュアリ』と答えると、「なら行こう!」とそのまま手を引っ張られる。


「どうしたん?ご機嫌じゃん?メールカリしてて儲かった?」

「そもそもわたし、メールカリは購入専門なんだけど……。たまに変な暴投してくるのやめて欲しい……」

「あ、ごめん」

「どうせ治す気ないでしょうに」

「…………」


何もかも絵美にわかっていられてしまうのも複雑な気分だ。

達裄さんと普段から接していると、突拍子もない話の切り出し方が移る自分がいる。

憧れの人を真似する感覚である。


「エヘヘ。なんか秀頼君と会って一緒に歩くの久し振り……」

「そうか?毎日学校行く時一緒に歩くだろ?」

「こないだまで頼子だったし。学校とプライベートは全然違うよ」

「そ、そっか……」


嬉しそうにはにかみながら彼女は俺の手を引く。

電車に遅れないようにパタパタしながら歩く道より、タイムリミットもなくゆったりとしながら歩くこの感じは確かに違うかもしれない。

それに、隣に絵美がいてくれるのが嬉しい。

絵美が俺の心の救いだ。


ギフトが覚醒してからの長い付き合いだが、絵美が絵美で良かったな、なんて意味のわからないことを考えてしまう。

こんな可愛い絵美に対し、奴隷みたいに扱って殺していた秀頼の神経がまったくわからない。

『けっ!ごちそーさん』と嫌そうな秀頼の声が脳内に響いた気がした。


「今日はいつもとヘアゴムの色違うね。黄色とか珍しいね。初めて付けたんじゃない?」

「わ、わかる!?こないだ美鈴と買いに行ったんだ!美月と美鈴の髪色に似ているから気に入ってね」


絵美はピンクや水色のヘアゴムでツインテールにして結っているから目立つ。

初めて黄色のヘアゴムを見たと思ったらそんな事情だったらしい。


「なるほど。確かに深森姉妹の金髪を連想させる黄色だね。そのゴムのツインテールも似合ってるよ」

「あ、ありがとう秀頼君!」

「ふふっ。少し髪も伸びてきてなんか大人っぽくなったね。新鮮な気がするよ」


絵美は髪を切るとただでさえ幼く見えるのがもっと幼く見える。

しかし、髪を伸ばすと気持ち若干大人っぽく見える性質である。


「髪伸ばしてるのもわかる?」

「うん。こないだまでツインテールにしてても肩まで届いてなかったけど、今日は肩スレスレだしね」

「ちゃ、ちゃんと見てくれるんだ……」

「あ、前髪だけ切った?先週ずっと前髪鬱陶しそうに弄ってたけど、今日スッキリしてるね」

「せ、セルフだけどちょきって昨夜に切った……。変じゃない?」

「絵美の目が見やすくなって全然変じゃないよ」

「あ、ありがとう……」


手を握ったまま赤い顔になっていた絵美は俺から目を反らしながら頬を指1本でかいている。

照れているのか、単にじろじろ見られていると思われ恥ずかしいのかはわからないけど女の子って感じがして愛おしい。


髪をかき上げたりしながら、「変じゃないよね?」とボソッと呟く。

手鏡とかあったら十中八九覗き込むくらいには見た目を気にしているらしい。


「全然変じゃないよ。絵美のオシャレセンスって、自分の出来る範囲で最大限の努力をしているって伝わるから変って感じないんだよね」

「聞かれてるし……。恥ずかしい……」

「あ、……ごめん。聞こえた……。ごめんね、難聴じゃなくて……」

「なんの謝罪?」


難聴スキルはラブコメ主人公に必須なんだって前世のクラスメートの森が力説していたの記憶がある。


『難聴(笑)、とバカにされがちな難聴スキル。これはヒロインに告白させたいけど主人公とくっ付けさせたくはない作者の裏が隠れている。そして、告白した子は人気出る!そう、難聴は人気ヒロインを作るためには仕方ない手段なんだ!わかるか、豊臣!気持ちを言葉にしたいヒロインの気持ちがわかるか!?ヒロインの気持ちが理解出来た時、どんな物語の登場人物の気持ちすら理解出来るようになる』と格好付けていた森は理系だったので、国語系のテストで赤点に取ってしまい補習を受けることになりダサさを披露したのは一生忘れない。


「秀頼君って意外に人のことを見てるタイプ?」

「まぁ、多少は人の心を読んだり、観察したりなどの訓練はしてるけど……。絵美がたまに会話しているクラスメートの友近さんいるじゃん」

「友近さん、いますよ。それが何か?」


結構ズバズバ言ってきて、さばさばしているタイプの友近さんである。

絵美が名前で呼んでないし、さん付けな辺り本当に会話だけする友達ってらしい。

そういったところを察する力を身に付けているところだ。


「友近さん、クラスの東山君に片思いしてるっしょ」

「え?なんでわかるの?」

「少し女らしくなってんだよね。そして、ちょいちょい東山君に熱い視線を送っている」


因みにこないだすれ違い様に絵美と友近さんの会話が聞こえてきたが、コスメがどうこうネイルがどうこうとオシャレ談義を絵美が解説していた。

熱心にメモしていた友近さんも印象に残っていた。


「それらから導いた結果、友近さんの片思いが見えてくるわけだよワトソン君」

「え?わたしワトソンじゃないよ」

「知ってるよ」


つい最近達裄さんからは『最近の目まぐるしい技のキレには感心だね。カッターからブレードに昇進かな。ブレードのごとき鋭さを秀頼から感じるよ』と褒められている。

そう、ブレードの如く鋭い俺はもう鈍感とは呼ばせない。


「へぇ……。じゃあ、美月って好きな人いると思う?」

「友近さんから突然違うクラスである美月の話を振られても困るんだけど……。うーん、美月ってどうなんだろ?イマイチ男の影が見えないからなぁ……。よくわかんね」

「…………あ、そうなんだ」


美月の男の影とかそれこそ俺かタケルくらいしか出てこない。

案外、俺だったりして?、とちょっとだけ自惚れてみたりする。

彼女の優等生と天然な弄りやすさのギャップとかに好印象を抱いている。

美月に俺が好きとか言われたら断る理由がないし、舞い上がりながらOKとか普通に言ってしまいそうな気がする。

まぁ、あり得なくはないのかな……?













鈍感が治りつつある秀頼。

……なんだけど治ってる気がしない。

周りを凄く見すぎてて、逆に自分が見えてない。




因みに秀頼の前世の友達である森君は過去にも登場してます。

第10章 月と鈴

第317部分 番外編、ギャルゲーのような人生

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る