19、黒幕概念の忠告

自信満々に円と美鈴に『明智頼子、サヨナラの時間よ』と発言しておいて、結局頼子姿のまま教室に向かう恥ずかしさを考えると、自然と歩くスピードも遅くなる。

短い歩幅で歩いていた時、かなり久し振りにとある女子生徒を発見した。


「あ、概念さん!」

「ん?」


すれ違った彼女の名前を呼ぶと、エニア状態ではない概念さんがこちらを振り返ってくる。


「クハッ!久しいのぅ。その気配、明智秀よ…………いやお前誰!?」

「なんでだよ!?てめぇが配ったギフトのせいだろうが!」


明智頼子の姿を見てガチ驚愕といった姿を見せてくる変な神。

じろじろと顔、胸、脚と上から順番に興味深そうに確認していた。

しれっと概念さんがギフトを配っている正体だとカミングアウトしたが、周囲には誰にもいないのでセーフである。


「に、人間って面白っ……。グッ……。…………ぷっ」

「めっちゃ笑い堪えてるやん」

「アハハハハハハ」

「しかも普通に笑ってるし」


いつもみたいに芝居がかった『クハッ』って笑うアイデンティティを捨てるなよ……。

完全に素で笑っていやがる……。


「あー、面白!これだからギフト配布はやめられんわい。SSRじゃ」

「ガチャ感覚でギフトを配るお前は本当に邪神だよ」

「クハッ、神は神だからな。邪神とも死神とも疫神とも禍神とも女神とも揶揄されようとこれがエニアが神と讃えられるも同義よ」

「お前を絶対女神とは呼ばねぇから」


それ以外、大体当てはまっている。


「こっ、……これがゴーストキングを追い詰めた男の末路とか草。クハッ……480年振りにツボに入った……」

「無駄に壮大な笑いのツボだな……」

「じゃあ、昼休み終わるからまたな」

「おう、またね!」


さて、次のジャパン史の授業が始まるし教室に戻ろうとしたが『あれ?』と何かおかしいことに気付き、概念さんの肩を掴み引き止める。


「な、なんじゃ!?」

「いや、直せよ。何しれっと教室に戻ろうとしてんだよ」

「……いや、ウチ関係ないし。そのギフト使った本人に直接クレームを出せ」

「また咲夜の真似してんな……」


一人称が神からウチになる概念さん。

その態度から直す気ゼロなのをすぐに察した。


「というかどんなギフトじゃこれ?」

「なんか『可愛くなっちゃえ!』って言われた」

「あー、あれか。…………あいつのギフトにこんな隠された効果があったなんて……」

「いや、お前も初知りかよ」


「へぇ、知らなかった……」とか「何これ、ウケるー」とか言いながら髪を引っ張ったり、胸を触ったり、スカートをめくりパンツを触ったりとナチュラルセクハラを受ける。


「というか、あいつ概念さんの知り合いなんだろ!?」

「ま、まぁ知り合いといえば知り合いじゃな……。…………まるで磁石みたいにひかれあうのかもしれんな」

「どういうことだよ?」

「…………」


概念さんがいつになく真面目な顔をして私と向き合ってくる。

鋭い目が私を射抜き、しゅんと一瞬だけ身体が動けなくなる。

その隙に彼女がぼそりと忠告をする。


「…………あまり彼女に干渉をしない方が良いぞ」

「え?」

「…………いや、なんでもない」


煮え切らない態度で何か言いたいことはたくさんあった。

しかし、その姿は瞬時に消え失せ黒幕概念の姿は影も形もなくなった。

逃げられたか……。

どうやら自力であの女を見付けるしか元の姿に戻る方法はないようだ。


教室に向かおうとまた歩いていると、違うクラスである三島と美月が一緒に移動教室に向かう姿と出くわす。


「あ、明智さん。昼休みには元に戻る気満々で飛び出したと聞きましたが……」

「出来なかっんだよぉぉぉぉ!」


既に美鈴と円の情報が行き渡っていたらしく、2人が気まずい表情を浮かべている。

三島の言葉に逃げ出す様に教室に向かったら案の定、クラスメートからは弄られまくることになる。


「出来ないなら格好付けなければ良かったのに……」

「本当ね……」


理沙の言葉が胸に沁みるのであった。

なんの進展のない昼休みが終わり、本気で男に戻るミーティングに持ち越しになる。












次回、千姫への鍵を握るのはあの2人……。

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