18、十文字タケルは引きずられる

明智秀頼改め、明智頼子の数学、物理、国語、ギフト情報と午前中の授業をこなしていき、昼休みになった。

ついに女性になり、24時間が過ぎようとしていた。


「よっ、山本。嘘っぽい本当or本当っぽい嘘を言い合ってダウトをしていくゲームしましょう!」

「よっしゃー!じゃあ最初は明智のターンだ」


なんかノリノリな山本と共に嘘っぽい本当or本当っぽい嘘を言い合ってダウトをしていくゲームをすることになった。

一切ルール説明もなく、そもそも提案者の私もルールを知らない謎ゲームが始まる。


「私、実は男なんです」

「はい、ダウト。お前生えてないじゃん。胸膨らんでるじゃん」

「異性に下ネタサイテー」

「いや、あんた男やん……」

「私を女扱いしたり、俺を男扱いしたり!なんなのあんた!?」

「逆ギレかよ!?てか、それしたかっただけのゲームやめろ!」

「エヘヘ」

「…………ちょっと可愛いな」


女になってもほとんど壁を感じない山本には感謝である。


「じゃあ次山本のターンね」

「俺の祖先は山本勘助なんだよね」

「え?…………戦国武将の?」

「そう。戦国武将の山本勘助」

「…………うわっ!?マジっぽいけど嘘っぽいし、嘘っぽいけどマジっぽいギリギリ責めすぎじゃね!?」

「さぁ?どっちでしょ?」


確かにイケメンだし山本勘助の子孫とか言われてもそれっぽい!

なんか前世でやってた時代劇で山本勘助を演じた俳優さんが山本っぽい雰囲気の人が居た気がするし、わかんねぇ!

わかんねぇよ……。


「ま、マジ?」

「嘘に決まってんだろ」

「あちゃー、外れたか……」

「本当の子孫は山本五十六でした」

「え?ま、マジ……?」

「さぁ?」


飄々としていて山本の表情から読み取れない。

言い出しっぺの私がまさか山本に翻弄されてしまうなんて……。


「頼子様!何呑気に雑談しているんですか!?そんな時間あるんですか!?」

「み、美鈴……」


山本が山本五十六の子孫なのか本気で悩んでいると美鈴が急かすようにこちらに駆け寄ってきた。

ぷんすかぷんすかと不真面目な私を叱りにきたようだ。


「ざ、雑談じゃなくてねゲームだよゲーム」

「ゲーム……ですか?」

「お?」


美鈴が気になったように『ゲーム』の単語に反応を示す。

叱りを反らすことが出来そうだと早口になりながら嘘っぽい本当or本当っぽい嘘を言い合ってダウトをしていくゲームをやっていることを説明すると「面白そうですわ!」と興味を持った。

孤独に耐え抜いてきた美鈴は、意外とこういうのに弱いらしい。


「では美鈴がいきます」


そう言うと、私と山本の視線を集めた美鈴はコホンとわざとらしく呟き、こちらに向き合った。


「将来、美鈴はトラックを開発させる会社を興しますわ!その名も『みすずのトラック』です!」

「ダウト」

「ダウト」


2人が同時に宣言をした。


「ふふっ。残念ながらお姉様や秀頼様がやれと言うなら創りますわ!だからある意味ダウトだし、ある意味ダウトではないのです!」

「絶対私は言いませんよ」

「まず『みすずのトラック』は絶対やめとけ」

「みすずのトラックー!ってCM打ちたいですね」

「それが言いたいだけじゃねーか」


美鈴の野望を山本と突っ込みながら聞き流す。

美月の天然さを考えると、もしかしたら深森家の性にも見えてくるから不思議だなぁとか比べてしまう。


「あらあら。面白いゲームしてるわね。次は私のターンね」

「深森さんに続いて津軽さんまで!?」


円がどこからか聞いていたのか無理矢理参戦してくる。

というか、私の次のターンいつ来るんだろう?という疑問と、早く私の番が来ないかな……というカラオケのうずうずが私にやって来る。


「さてさて。このミステリアス津軽さんな私はどんな話をしようかしら」

「ミステリアスを自称する女はミステリアスの欠片もありませんわ……」


至極全うな美鈴の指摘に、私も山本もうんうんと頷く。


「そんなミステリアスな私ですが、ミステリアスな正体は私が自分の前世を知っているからよ」

「はい、ダウト」

「ダウトですわ!」

「…………」


しれっと真実を語る円であるが、山本も美鈴もこの告白を嘘と断じてしまった。

確かにミステリアスもあった。

だが、円の正体が来栖さんと知った辺りから、既にミステリアスなレッテルが剥がれた。

…………そういえば来栖さんってポンコツだったな。


「でもそういうところが可愛いよ」

「え?私、可愛い?」

「うん。可愛いよ」

「そ、そうなんだ……」


嬉しそうにはにかむ円と来栖さんの姿が重なる。

2人っきりなら腕でも回してイチャイチャでもしたいくらいに可愛いな。


「おい、十文字!ほらお前のターンだ」

「な、なんで俺まで……」


ずっと気付いていたけど、こっちをチラチラ見ていたタケルの視線を山本も察していたらしくこちらに連れて来た。

……なんかタケルの奴、私が女になってから距離感が遠くて悲しい。

よそよそしいタケルがズルズル山本に引かれながら姿を現す。

「ルールわかっていますか?」と美鈴が尋ねると、「あぁ」とだけ返答し首を横に振るタケル。

「な、何にすっかなー……」と4人の視線を一身に集めた。


「…………お、俺の好きな奴。このクラスにいる」

「ダウト!」

「……」

「……」

「……」

「…………え?私だけ!?」


あれ?

タケルが異性に興味持ってるとこなんか見たことない私は自信満々であったが、山本も美鈴も円もダウトの宣言をしなくて私が戸惑う。


ギャルゲー主人公のタケルが既存キャラクターで気になる人を私が推理をするなら2人が可能性が高いと推理している。

美月の好感度を上げる選択肢をしていたことによる美月狙い。

また、ヒロインではないが初対面時に気になる素振りがあった星子。

この2択だと考えていて、違うクラスと反応をしていたのだが山本らは違う考えなのか……?

理沙、永遠ちゃん、もしくはメインヒロインであるヨルの3択と考えていたりするのかな?


「……た、タケル?」

「ごめん……。忘れてくれ秀頼……」

「頼子なんだけど……」

「頑張ったよ、十文字……」


山本がタケルを廊下に連れ出して消えていく。

なんか気を遣っている素振りにも見える。


「美鈴、私とあんたは女で良かったわね……」

「あー……。ノーコメントですわ」

「私、男に転生してたら自殺してたかも……」


いつになく美鈴と円が仲良しに見える。


「というか、明智君。昼休み、無駄にしないで早く男に戻る方法を探らないと」

「あぁ!既に作戦はあるわよ。確実に男に戻れる方法がね」

「な、なんですって……?」

「見込みでは98パーセントは確実な作戦があるのよね」


円の言葉に密かに考えていた作戦を実行する時が来たのだ。

むしろ、この作戦が1番の本命であった。


「犯人は事故現場に戻る法則よ」

「ま、まさか……!?頼子様!?」

「美鈴は気付いたようね。同じ時間、同じ場所に犯人は来るはずよ。だから私はこれから部室に行くわ」

「頼子様……」


ガラッとスライド式のドアを開けて、美鈴と円に背中を向ける。


「ふっ……。次会う時は異性に戻るわね……」

「明智君……」

「頼子様……」

「明智頼子、サヨナラの時間よ」


こうして宣言通り、明智頼子は戦場・文芸部の部室へと足を運ぶ。

無人だった部室に並ぶ椅子にドカッと座る。

明智秀頼を女にした犯人と対峙する瞬間だ。

さながら私は、巌流島で宮本武蔵を待つ佐々木小次郎の気分だ。

別に佐々木小次郎は佐々木絵美の先祖ではないと思うと考えながら待ち人を待つ。


「…………」











こうして、昼休み終了10分前になっても犯人の彼女は姿を見せず明智頼子のまますこすこと部室を出るのであった……。

私は佐々木小次郎なんかじゃなく、ただの農民ということを痛感した。












次回、久し振りに彼女が現れ……。

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