14、津軽円は復活する

「おっはよ!永遠に咲夜!」


次の日、津軽円は駅に向かって歩いているとちょうど信号待ちに引っ掛かっている2人と遭遇する。

「おはようございます円」と名前を出して丁寧に頭を下げる永遠。

それに続くように「おっす」と常にテンションが寝起きみたいな咲夜が反応を返す。


「今日は体調良さそうで何よりですね」

「ありがとう」

「恐らく円はSが酷かったとウチは睨んでいる」

「朝からSの話してんじゃないわよ。あと、決め付けるな!」

「…………否定はしないのか?」

「肯定もしてないもの」


円は「体調不良だったから!」と咲夜に念を押す。

いつもの2人だなと見慣れたやり取りに永遠はニコニコと笑っていた。

なんともいつもみたいな素敵な朝だと永遠は今日の晴れ晴れした空を見て思う。


「…………」


それと同時に、思い人の秀頼は昨日のまんまなんだろうなと、落ち込み気味になる。

何か手助けをしたいのだが、残念ながら永遠にはギフトを使う手段がない。

そしてこの場の2人もギフトは使えないのだ。


「私は元気になったけど、永遠があまり元気ないわね……」

「円も時期にわかりますよ。ね、咲夜?」

「うん。円がうるさくなるのが容易に想像が付くな」

「あんたは口開く度に私をディすらないと死ぬわけ?」


事情を知らない円は2人に引っかかるものがあるものの、駅を目指して歩いていく。

毎日みんなで待ち合わせをしている場所に着くと既に十文字兄妹が待っていたのであった。

「おはようございます」と理沙が頭を下げる。

いつもの朝ね、と復帰した円は身体を伸ばしながら呑気に考えていた。


「…………」


しかし、理沙の兄であるタケルが妙にそわそわしているのが目につく。

妹の理沙も、永遠と咲夜も気付いているだろうに見て見ぬ振りをする女性陣に円も異変に気付く。


そこで円は誰かに何かあったことを察する。

絵美、ゆりか、遥香、美月、美鈴、ヨルに何かあったとしてもタケルがこういった反応を見せるような人ではないと推理する。

タケルにこの顔をさせるのは秀頼しか居なさそうだなと真実にたどり着く。


「明智君に何かあった?」

「っ!?」

「…………」


理沙と咲夜が秀頼の名前を出した途端びくっと身体が動いた。

そしてタケルは顔を下に向けた。


「確定ね。十文字君の反応、バレバレよ」

「ば、バレバレか……」

「あのねぇ……、あんまり十文字君と絡みはなかったけど付き合いだけは長いのよ?大体わかるわよ」


永遠や咲夜よりタケルの付き合いの方が長い円である。

既にタケルと知り合い5年以上が経過していた。


「じゃあ、ここで円にクイズです」

「唐突ね」


咲夜が円へ挑戦状を叩き付ける。


「昨日、秀頼に何が起きたでしょう?4択の内、正解の1つ以外、全部嘘です」

「なるほど、クイズ……というわけね!」

「たった今、ウチがクイズって言ったばかりじゃないか……」


咲夜が円をからかうとか関係なく、天然ボケな来栖由美な面を覗かせたところを突っ込んでしまう。


「A、秀頼がカラオケでデスメタルを歌うのが趣味というのを告白し、周囲を驚かせた」

「B、秀頼さんがいつの間にか小説の主人公になり、別世界に行ってしまった」

「C、秀頼が女になった」

「え?え?なんで打ち合わせなしにみんな問題出せるの?でぃ、D…………明智君が死んだ」

「最後酷いわね……」


咲夜、永遠、タケルと選択肢を開示し、理沙だけがグダグダになった。

因みに、全部秀頼に当てはまるのが奴の怖いところ……。


「まぁ、BとDは除外するわね。明智君が消えてたらもっと大袈裟になるでしょ」


名探偵マドカ、華麗なる推理は続く。


「AとCが残り、ACジャパンになったわけだけど……」

「本気でお前は何を言っているんだ?」

「いちいち突っ込み入れないで!」

「突っ込みを突っ込みで返すな」


デスメタルと女体化で悩む円。

ここでタケルの反応を思い返す。

秀頼と仲良すぎて、タケルが本気で秀頼が恋愛的な意味で好きなんじゃないかとネタ的な意味で囁かれている噂がある。

噂の主は円の妹の和であるが、正直嘘寄りに考えている円。

しかし、秀頼が女になったとしたらタケルは撃沈するのでは?と思い至ってしまう。


「なるほど。答えはCね!明智君が女になった!これよっ!」

「大正解ですよ、円!」


永遠がガッツポーズをしながら正解を伝える。

『まぁ、明智君だからちょっと特殊な事件に巻き込まれるのなんか普通ね……』と、もはや慣れっこであった円。


「流石、円ですね!」

「ふっ……。私はこれでもバーローの映画全部観てるからね!爆弾の赤と青のどちらの線を切るかのやつ好きよ」


円がドヤ顔を晒して正解の余韻に浸っていた時であった。


「あ、おはようみんなー!」


絵美がタイミング良く集合場所に現れた。


「あら、おはよう絵美」

「円も復活ですね!」


絵美からおめでとうと言わんばかりに嬉しそうな声で祝福される。

そして、家が隣でいつも一緒に現れる同行人も声を出す。


「良かったわね円!完全復活だねっ!」

「だれぇぇぇぇぇ!?」


頭では理解しても、女性になった秀頼の実物を見たら100倍混乱する円であった……。













因みに秀頼がデスメタルをするのは本人しか知りません。

秀頼がカラオケでデスメタルするのはこちらを参照。


第8章 病弱の代償

第166部分 7、明智秀頼は昼食を考える

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