15、深森美鈴の欲しいモノ
昨日は1日大変であった……。
おばさんへ女性になった説明を絵美がしていたが半信半疑な目で私が見られていた。
絵美が帰った後には、「付き合った?」とか聞かれたので「虐待されていた過去があって、女に変わるような男を好きになる奴なんかいねーよ」とマジレスしておいた。
叔父さんからは昔、性的虐待をされていたこともあり、身の危険を感じてはそもそも顔を合わせない様にコソコソと家を移動していた。
まるで自宅がメタルギアの世界観になった気分である。
因みに中の人である秀頼に『叔父さんの目の前で入れ替わるかどうか?』を尋ねたところ「死ね」って言われた。
せっかく身体が欲しがっているからあげると言ったのに理不尽である。
あとはトイレと風呂は極力大事な場所は見ないように努めた。
なんか凄いそこだけは直視するのが恥ずかしくて躊躇われた。
湯船に浮かぶ女性の胸で限界だった……。
絵美や理沙らは自分のを直視しているんだろうか?とかバカな想像が胸のモヤモヤをかき混ぜた。
「まったく……、こんなにメンバーが揃っていて明智君を男に戻す手段が見つからないなんて不甲斐ないわね……」
「じゃあ、円は何か手段があるんですか?」
「いや。知らないわよ」
「なら文句言わないでください。私達だって放課後頑張ったんですから」
円の放った辛口に、永遠ちゃんが真面目に回答を出していた。
電車を降りた後まで『秀頼を男に戻そう議論』はノンストップであった。
「頑張ったじゃダメよ!結果が大事なのよ!」
「だーかーら!円が解決をしてからなら説教を聞きますが、何もしてない円から文句を言われるのがイラっとくるんですよ!」
「いつまでやってんの?」
不毛な争いを絵美の乱入で終幕に至る。
既に教室へ足を踏み入れた状態である。
円らが会話に混ざっていない間、絵美や十文字兄妹と放課後にまた部室で集まることを約束させられた。
またみんなで女性化を終わらせる作戦会議を行うらしい。
それに昼休みは私1人での単独作戦を立てているし、何も出来なかった昨日とは違う結果になっていることを目標に絵美と理沙は燃えていた。
教室に入り、とりあえずこのメンバーは解散をして自分の席に着く。
授業の準備などをテキパキと進めていく。
「おーい!なんだよこのボス!マジありえねぇ!」
「お前3日くらい勝ててないじゃん」
「明らかに調整ミスってんだろ!アプデはよ」
クラスの男子2人がゲーム機を弄りながら文句を言っている場面を目撃する。
ゲームが私を呼んでいる…………気がして近付いていく。
「よっ!おはよ紺田!何に勝てないの?」
「おー、…………って頼子ちゃん!?」
「いつもみたいに明智で良いんだが……。それで、何に勝てないの?」
「見てよ頼子ちゃん」
何故かいつもクラスの男子からは明智呼びなのに、今日に限り頼子呼びをしてくる。
こいつら……、ネタじゃなくて本気で
「このポイズンスパイダーが倒せねぇのよ」
「なるほどなー。てか弱いぞそいつ」
「はぁ!?ネットでもここで詰んだって意見ばっかりなんだぞ!?はったりじゃねーよなぁ!?」
1週間ほど前に新発売したゲーム画面を見せられる。
ネットでは神ゲーと持て囃されているが、
逆に楽しんでたゲームがクソゲー扱いされる私のゲーム人生悲しいものである。
因みにポイズンスパイダーは3回負けたが、4回目で突破したので攻略方法も頭に残っている。
「こいつ、毒状態にするとすぐ倒せるんだよ」
「は?どう見ても毒耐性の見た目してんだろ?」
「見た目はな。でもこいつ毒弱点だから瞬殺できるよ」
なぜかネット民や実況者らは毒状態にさせないで、耐性ある炎属性装備で挑むんだよね……。
倒せないなら、倒せる方法全部試すべきよ。
「え?1秒で1000ダメ削れるんだが!?」
「ちょ、なにこれ!?頼子!?バグ!?」
「仕様でしょ。逆に毒以外じゃこのクモはラスボスより硬いからな」
すると、紺田は1週間倒せなかったポイズンスパイダーを3分で撃破したらしい。
「うぉぉぉ!?サンキュー、頼子!」
「ふふーん!紺田うぇーい!」
「頼子ちゃんうぇーい!」
紺田と付き添いの男とハイタッチして別れる。
「頼子ちゃん愛してるー!」と告白されたんで、「のーさんきゅー」と断りを入れた。
男子2人から逃げるように席に戻ろうとすると、探し物をしているのかカバンを漁ったり、机の中を慌てて覗いたりする女子の姿を見掛けた。
「あら?どうかしたの?」
「あー!頼子ちゃん、おはよう。実はね、一昨日買ったばかりのシャーペンが消えちゃって……」
昨日頼子になったばかりで、男女共に頼子が受け入れられてしまい複雑である。
この子も、こないだまで明智と呼び捨てで私を呼んでいた子だ。
「そ、それは大変だね!どんなペン?」
「ピンクで、振るとシャー芯出るやつ」
「落とした?」
「わかんないの……。いつの間にか消えちゃって……」
「ならあなたは机やカバンを、私は床を調べるよ」
「ありがとー!」
私は女子の机の高さや、シャーペンがこの場から落としたらどうやって落ちていくのか脳内シミュレーションしていく。
ここから落ちたら……ない。
この角度からなら……ない。
もし落ちた後に転がるとしたら……。
近くにシャーペンが無さそうだったので、少し移動してみる。
咲夜の席が進行上にあった。
ぐるっとまわってみると、机が設置されている場所と死角になるようにピンクのシャーペンを発見した。
「もしかしてこれ?」
「あー!それだ!ありがとう頼子!恩に着る!」
「こんなことで恩に感じなくて良いよ」
「感謝感激!」
探し物を終えて、机でゆっくりラノベの読書をしようとしていると視界に深森美鈴が映る。
知っている仲だし挨拶しておこう。
「おはよう、美鈴」
「お、お、お、おはようございます頼子様ぁ!」
緊張したように美鈴は挨拶を返してくれた。
微妙にまだ彼女と距離があるんだよね……。
美鈴が原作秀頼にされたことを考えるなら本能的に嫌われているだけなのかもしれないが……。
「頼子様!今日も格好良くて美しいですわ!」
「あ、ありがとう……」
頼子が美しいのはイコールで星子が褒められているみたいで悪い気はまったくしない。
「どこか出るみたいだけど、何かあった?」
「次の授業の準備ですわ。先週提出した数学のノートをクラス全員ぶんのを回収に向かいます」
「あらあら。力仕事で大変でしょ。私も一緒に手伝おうか?」
「よ、頼子様が手伝ってくれるんですか!?」
「うん。暇ですることないし」
ラノベ読むより力仕事して鍛えたいしね。
「任せて!」と意気込むと「頼もしいですわ!」と腕に抱き付かれた。
こ、こんな風に女子ってスキンシップするのか!?
野郎同士の『うぇーい』なんて言い合うスキンシップと比べると可愛さが段違いだ。
男同士で腕に抱き付かれるスキンシップを見たいわけではない。
「最近どう?紋章消えて何か生活変わった?」
「段違いですわ!やっぱり健康はお金では買えませんもの!」
「それはなによりだね」
原作での嫉妬にまみれて堕ちていく美鈴はちょっときついものがあり、あんまり好きにはなれなかったなぁ……。
美月推しもあり、邪魔すんなくらいの感想しか湧かなかったけど、スッキリした顔を見ると紋章が無くなって良かったとほっこりしてくる。
「最近1番欲しいモノもお金では手に入らなくて……」
「へぇ?どんなモノが欲しいの?」
「素敵な恋人!」
「あら素敵」
高校生が恋愛なんてゲーム世界も前世も変わらないねぇ……、なんて考えこんでしまう。
遺伝子を残したいという人間の本能が恋人を求めるのであろう。
「秀頼様ぁ!頼子様ぁ!美鈴に素敵な恋人見付かるかなー?」
「美鈴は可愛くて素敵な子だからたくさん出来るよ」
「美鈴はたくさんなんていらないんですよ!たった1人の素敵な恋人がいればそれで良いんですからぁ!」
「健気だねぇ」
原作の美月ルートであんなにタケルさん、タケルさんと病んでる描写の多い美鈴だ。
腕に抱き付かれたまま歩いていると職員室が見えてきた。
「…………もっと職員室が遠いと良かったのに」
「それは不便だなぁ」
賛同の得られないことを呟きながら美鈴は職員室に入り、数学の教師に向かっていく。
1分程度待っていると美鈴がクラス全員ぶんの数学ノートを持って帰ってきた。
「じゃあ半分持つよ」
「あぁ、そんな頼子様の手を煩わせるなんて……。半分でも重いと思う」
「気にすんなって」
美鈴が抱えているノートから目安半分ガッツリと持っていく。
身体が女性になって力が衰えているのか、確かに重く感じる。
しかし、筋肉がやりがいがあるぜぇ!と喜んでいる。
「…………ところで頼子様。5分の4くらい持ってますわよ。美鈴に少し返しても良いですよ?」
「半分だって」
「でも高さが違う……」
「私のノート、辞書くらい分厚いからこれで半分くらいよ」
「いや、そんな分厚いノートありませんわよ!?」
もっともっと鍛えて達裄さんクラスまで強くなりたいので、些細なことでも力を付けたいのだ。
「じゃあ戻りましょ美鈴」
「頼子様を嫁にしたい!」
「えっ……!?」
美鈴が婿なの……?
完全に女として見られてしまっている頼子であった。
†
たまに思い出したかのように虐待に触れると『スン』ってなります。
人助けは秀頼でもよく同じことをしています。
前世から変わらないお人好しです。
次回、頼子の前に現れたのは……?
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