11、細川星子はブラコン

CDショップにたどり着き、ヨルと千姫のテンションが特にハイになっていた。

その中で、千姫は2人に愚痴を溢していた。


「今日酷いんだよ!?あたしに対して変態って罵ってくる男子が来てムッカァァァって来たよね!」

「なんだそれは。報復だ!報復をしてやるんだ!あたしなら拷問をしてやるぜ!」

「……それはちょっと……。拷問は可愛くないし……」

「なんでお前が否定すんだよ。お前に同調してんだよ」


信号待ちの横断歩道前で千姫とヨルの報復談義をしている横で、ゆりかは自動販売機で買ったアイスクリームを味わっていたので、突っ込みもガヤもなく2人の漫才を見ているのであった。


「なんで変態ってレッテルを張られたんだ?」

「男子が着替えしている瞬間をたまたま通りがかって見たことで変態呼ばわりですよ!変態は脱いでるお前じゃあああ!」

「おおっ!あたしの知らぬ間に大変なこともあったもんだな」

「本当は八つ裂きにしてやりたかった」

「可愛いさのカケラもないぞ」


突然猟奇的な発言をする千姫を落ち着くようにヨルが制する。

ゆりかはバニラアイスを味わっているので横槍もせずに2人で会話が進む。


「でも、その男子がちょっと筋肉質で可愛く見えた……。悔しい……」

「筋肉フェチめ!筋肉フェチめ!」

「ああああああ!今思い返してもイライラするよ!変態って連呼してさぁ!変態って響きは可愛くないでしょ!?」

「筋肉フェチめ!筋肉フェチめ!」

「ゆりちんはどう思う!?酷いよね!?」


会話に混ざらないゆりかに話を振ると、小さくなったアイスを噛りながら、千姫に共感するように頷く。


「うむ。我も筋肉フェチに理解がある。師匠の筋肉には我も萌える」

「なんの話してんだよ……」

「出た!ゆりちんの師匠!強くて素敵なんでしょ!あー、あたしも見てみたいなー」

「どこにでもいる普通の生意気な奴だよ」

「ゆりちんとヨルちゃんでどっちの師匠像が正しいのかを判断する意味でも1度会っておきたい」


千姫が日々、ゆりかの会話に出てくる師匠と呼ばれる人物に会ってみたくて仕方なかったのだ。

ウズウズした気持ちになる千姫の視界で信号が青になり、横断歩道を歩きだす。


「師匠ってどんな顔してるの?」

「目付きが悪い茶髪だ。しかし、本質は仏みたいな人だ」

「目付き悪いのか……。『可愛くなっちゃえ!』って言いたくなるね」

「言ったら何になるんだ?」

「可愛くなるの」

「んなバカな……」


『痛いの痛いのとんでけー!』と言われてとんでいかないのと同じだろうとゆりかは脳内でガチ突っ込みをしていた。

そして、横断歩道を渡りきりすぐそこにあったCDショップへと3人で踏み込んだのであった。


「あったよ!こないだ発売したばかりのスタチャのやつ!」


ヨルの掛け声に千姫が近付いていく。


「めっちゃ良い!可愛い!可愛い!このジャケのパッケのアングルセンス良すぎ!買おう!今すぐ買おう!」

「この曲の大サビの声が艶っぽくて惚れるんだよ!」

「どうやればあんな可愛い歌声出るの!?ヨルちゃん!?」

「恋とかすれば出るんじゃない!?」

「じゃあ今のあたしは無理だ!」

「…………」


マシンガントークのヨルと千姫が気持ち悪くて距離を置いていたゆりかは近くのコーナーで物色している振りをして他人を装った。

2人がレジに行くのも付いていかないでそこに留まり続けた。


「ん?」


すると、ゆりかの視界で見覚えのある顔が見えて足が止まり、目が一点集中する。

その知人もゆりかの顔を見て動きが止まった。


「星子じゃないか!我のことを覚えているか?」

「ゆ、ゆりか先輩ですよね!こんにちは!」


赤い顔をした挙動不審な星子がゆりかに頭を下げた。

嫌なところを見られたと顔に書かれてある。


「何か用事が?」

「いや、用事とかそういうんじゃないですよ。ただ……あの……ほら……」

「エゴサか」

「うっ……」


エゴサーチ。

通称、エゴサ。

自分の評価やみんなの声を聞きたくて一般人になりすまして評価を見る行為である。


「エゴサってのはネットで行うことを指すので足を運ぶのは多分違うんじゃないかな!」

「そうなのか?我はあんまりそういう言葉を知らなくて言葉選びがわからないんだ。ただ、スタチャファンの声が聞きたかったんだな」

「うっ……」


ギフトを使わずに細川星子の姿のままスタチャのCD売り場近くを彷徨っていたのはそういったリサーチのためなのは間違いななった。


「スマホまで片手にして……。メモ帳アプリ起動しているんじゃないのか?」

「わかったから全部ばらさないでください……」

「努力が報われるように頑張れよ」

「うぅ……。頑張る。リサーチ帳に書いておきます……」


茹でダコのように赤い星子はゆりかに頭を下げて顔を直視しないようにしていた。

芸能人のリサーチも大変だとゆりかは年下ながら地道に頑張る星子を関心し、応援を送っていた。


「そういえば新曲の大サビが艶っぽくて惚れるらしいんだがどうすればそんな歌声が出るのだ?恋とかしてるのか?」

「レッスンとかしてれば出ます」

「身も蓋もないな……」


リアリストな星子であった。


「あと、アイドルは恋愛禁止です」

「や、やっぱりそういうものなのか……」

「恋人います!恋人ラブです!若いアイドルならばファン受けは悪いですが、マザコンやファザコン、ブラコンやシスコンって受けが良いんです。家族愛を大事にしているのを全面に押し出すことになるので。だから私はブラコンなんです」

「星子のブラコンはただの素だろ」

「お兄ちゃんの誕生日に何贈ろうかな!」


兄である秀頼の誕生日は7月7日。

わりと近いのである。


「というかその質問はヨル先輩と可愛いの人の会話じゃないですか」


がっつりヨルと千姫の会話が聞こえていた星子である。


「可愛いの人って……。あの可愛いの人って星子の友達なのか?」

「いえ……。ただこの店でスタチャのCDや写真集を可愛い連呼して興奮している姿を何回も目撃しているので私が勝手に可愛いの人って呼んでます」

「間違ってないな」


スターチャイルド本人に認知されていた千姫である。

本人が知ったら大興奮しそうなことである。


「そういえば今日、星子の兄の明智が男から女になった話は聞いたか?」

「なにそれ。草」

「軽いな。というかアイドルも草とか使うんだな」

「スタチャと星子は別人として考えてくださいね。あ、鉢合わせるの恥ずかしいんでヨル先輩が戻る前に帰りますね!」


ヨルと千姫を回避しながら星子はこそこそっと帰っていった。


「…………師匠も星子もまったく動じないのはやはり血なのか」


というか、多分兄が女になった話事自体を信じてないだけである。

ゆりかは1人、「本当に誰がどんなギフト使ったら男を女にできるんだろう……」と他人事のように呟くのであった……。














次回、一方の頼子SIDEは……。

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