47、深森美月のうっかり

「見付けたぁー!秀頼様ぁ!」

「ファッ!?」


突然現れた美鈴の姿に素で驚愕する。

体調を崩して保健室で寝ていたとは思えないほどに元気な姿で、甲高い声で、俺の名前を様付けで呼んでいる。


え?

さっきまで明智君って呼んでたじゃん。

あ、俺の聞き間違いか。

美鈴が俺を『秀頼様』なんて呼ぶわけないじゃん……。

様付けなんてするわけねーだろ、と自分自身に突っ込む。


「美鈴は秀頼様のおかげで元気になりました」

「……」


聞き間違いでもなんでもなかった……。

マジで『秀頼様』って呼んでた……。


普段の顔色の悪さはどこに行ったのやら、元気で明るい姿からさっきの美鈴に繋げろというのが難しいモノである。


「や、やぁ深森さん。元気そうで何よりだよ」

「深森さんなんて他人行儀なことはお止めくださいませ。美鈴のことは、『美鈴』と呼び捨てで呼んでください!」

「え?え?」


姉貴の美月と同じことを言ってきて混乱する。

ど、どうした?

美鈴はタケルに恋に落ちて美月ルートに入ったんじゃ……?

あれ?

もしかして美月はタケルを好きになってない?


今まで、タケルが美月ルートに入ったものだと仮定していたのだが、そうではないのか?

もはや、原作の知識が宛てにならない展開ばかりで混乱する……。


みんな好き勝手動き過ぎ……。

もうちょっと原作をベースに動かしてくれないと、俺が対策を取ることができない……。


「み、美鈴……?」

「はい!深森美鈴です!改めてよろしくお願いいたします!」

「……」


頭でも打ったのか、美鈴のキャラクターが崩壊してしまった……。

こんなの姉の美月に見られるわけにはいかない。

そーっと教室に帰ろう。


「……おい、秀頼。なんだこの美鈴は?」

「げ……」


会話に混ざってこないから都合良く美月と理沙で消えたのかと思ったが、そのまま居残っていた2人である。


「べ、別人じゃないか?ほら、顔の紋章ないし……」

「お前、顔の紋章だけでわたくしが美鈴を認識しているわけではないぞ。姉であるわたくしがそれしきのことで美鈴と気付かぬわけがないだろ。」

「ですよねー」


もう2度と美鈴と会話をすることがないだろうという予想が10分程度でひっくり返ることになるとは俺も計算外であった。


「美鈴なのか……?」

「お、お姉様……。というか秀頼様とお知り合いなんですね」

「ああ。秀頼は美鈴の紋章をどうにかしようとしてくれる協力者であり、友だからな」

「そうなんですね。ありがとうございます、お姉様!」

「あ、ああ……」

「お姉様が美鈴と秀頼様を引き合わせてくれたんですね!」

「…………ん?」


美月が深く考えていたのだが、『え?』と顔に書かれてある。


「美鈴は、秀頼様から紋章を消滅させてもらいました。この恩は身体で払います」

「え?……はぁ!?」

「美鈴!お前何を言っているんだ!?」

「邪魔しないで下さいお姉様。お姉様が対価を払う必要はありません。美鈴が払います」

「は、払わなくて良いよ。そんな無理矢理させるとか無いからさ」


俺って美鈴の中で対価が出せないなら犯す奴とか思われてるわけ?

見た目だけならそれっぽい顔なのは否定しないが……。


「そうですか……。わかりました」

「わかってくれたか」

「身体で払うのがダメなら、秀頼様の嫁に行きます。……一生尽くします」

「わかってないじゃん!」


深森家の教育が怖い……。

お金持ちって身体で払うのが決まりなのだろうか……?


「な、なんと……。ならば、婿に行きますか……?美鈴はそちらも歓迎です」

「違うんだってばぁ……。要らない、対価なんか要らないから!」

「対価が要らない……?」

「え?」


美鈴が『それは理解できない』と顔に書かれてある。


「秀頼。対価は必要だとわたくしも思う」

「美月……」

「秀頼が足りないなら深森の跡継ぎとしてお父様にわたくしも頭を下げる」

「しなくて良いってば!」


庶民と金持ちの思考でこんなに差が出るとは思わなかった……。

別に『美鈴の紋章消えて良かったねー』くらいで明日からは普通の日常が始まる程度になると思っていたから、こんな大事になるのは想定外だった。


「対価が必要ってんならスタヴァのコーヒーとか奢ってくれるだけで良いからさ」


何かあげなければ気が済まないのならば、スタヴァのコーヒーで十分だ。

俺はただギフト使っただけだし500円程度のモノをもらうのも躊躇うくらいである。


「お姉様、スターヴァックスを買収しましょう」

「完全買収まで数年は掛かるが仕方ないな。それくらいが妥当か」

「俺の話を聞いてたか!?スタヴァくれって言ってねーよ!?スタヴァのコーヒーって言ったんだよ」


マスターの店と競合しちゃうしそれはアカン……。


「ちょっと理沙ぁ!助け、て……?あれ?」


ついさっき理沙の姿があったのは確認済み。

それから何故か空気のように消えてしまった理沙。

神隠しにでもあったのか心配していると、いつの間にか教室にいたらしく、廊下へ入ってくる姿が見えた。


「来てください、永遠さん!」

「もー、何ですか、理沙?」

「…………」


理沙が永遠ちゃんを連れて来てしまい、俺が無言になってしまう。

永遠ちゃんが美月と美鈴と俺に気付いたらしく、俺と目が合った。



その時、美月からだった……。



「も、もしかして美鈴じゃなくてわたくしが良いか?わたくしが、秀頼の嫁になるか……?」

「はぁっ!?」

「お、お姉様!?そんなのズルです!」

「美月!?何言ってんのあんた!?」

「お?永遠じゃないか」

「呑気ですか、あなたは!?」


美月は親友と妹に取り抑えられた。

なんだろう、紋章が無ければ息ピッタリな深森姉妹にどっと疲労感が訪れる。

精神的だけに限れば三島のギフト『エナジードレイン』の暴走を食い止める以上にしんどいかもしれない。


「こっちは美鈴ですよね!?」

「あら、永遠じゃない。久し振り」

「ほぼ毎日教室で顔合わせてるでしょ!それより、顔の紋章はどうしたんですか!?消えていますよ!?」


俺からしてみたら触れて欲しくない核心部分に迫る永遠ちゃん。

その指摘に美月が『そうだった!』と表情が変わった瞬間を目撃してしまった。

うっかり美月さん、可愛い。


「んー。よくわかんないけど、秀頼様が紋章を消してくれました」


きちんと1つ目のギフトが効力を発揮しているのはわかるが、俺の名前を出してしまった……。

こんなことになるなら美鈴の紋章の呪いを解除したのが俺という記憶そのものを消さなかった自分自身を呪いたい。


「ひ、秀頼様……。なんで美鈴が秀頼さんを『秀頼様』って……」

「それはどうでも良い。そんなことよりどうやって秀頼は美鈴の紋章を消したのだ!?ま、まさかだが秀頼、お前ギフト持ちか?」

「…………えっ!?秀頼さん、ギフト持ってたんですか!?」

「ギフト持ってる雰囲気はありましたが、まさか本当に持ってるなんて……」

「…………」


付き合いの長い永遠ちゃんから驚愕と、理沙からの武者震いが俺がギフト持ちということの衝撃の強さがあるようだ。

とはいえ、絵美、円、ゆりか、ヨル、三島辺りはその事実を知っているはずだが、この2人に知られた以上はタケルや咲夜、和など知人に広まる覚悟が必要だ。


そこで「『人に命令を下して支配させる』ギフト持ちです」なんて言ってみろ?

『あいつのギフトは危険でマジでヤバい』って言われて気味悪がられるだけだ。

俺は、もう友達の輪に入れてもらえないのが確定であり、せっかくへし折った死亡フラグが再構築されるかもしれない。


だから、俺は──。


「ギフトはあるよ」

「え!?」


永遠ちゃん達の問いに肯定しておく。

いつかはこうなる運命だったんだ。

俺は頷いてみせた。


「ギフトの能力は『手品』のギフト」

「私が考えていたより斜め上の不思議なギフトですね。もしかして昔、私に見せた手品ってギフトですか?」


即、理沙に突っ込まれた。


「いや、ギフトを使わなくても手品自体は得意だよ。前に理沙に見せた手品もギフト使ってなかったし……。まぁ、俺が手品が出来る関係上、あんまり使い道がないギフトだよ」

「そうなんですね。明智君のギフトだから凄いのかなー?とか考えてましたが至って普通でしたね」


どうやら理沙の中での明智秀頼はもっと凄いギフトを持っている気がしていたらしい。

間違っていないのだが……。


「『手品』のギフト?そんなギフトで紋章の呪いが消えるのか?」

「あ、ああ!10円玉を掌の中から隠すのと同じ要領で美鈴の紋章を消したんだ」

「…………全然原理が違うと思うが?」

「それはもう、あれだよ」

「あれ?」


美月が半信半疑な目を向ける。

こうなったらあれを口にするしかない。

和の批判を思い出しながら、例の言葉を出してみた。


「て、……てじなーにゃ」

「久し振りに見ましたよそれ!だからそれはなんなんですか!?」

「きゃあ!秀頼さんの猫真似可愛い!」

「お?また秀頼が猫カフェに行きたいと言っているわけだな」

「ふふっ、秀頼様ったらお茶目ー!」


女子4人から同時に弄られることになる。

俺のギフトの興味からてじなーにゃに行けばという目論見があった。


「なんにせよ、凄いギフトじゃないか秀頼」

「あ、ありがとうな」


因みにランクこそ俺の『命令支配』より美月の『月だけの世界』の方が低いのだが、能力のスペックだけは美月の方がヤバい。


原作では『命令支配』を躊躇いなく使う秀頼と、フィジカル最強の絵美の2人を美月は退けるくらいに『月だけの世界』はチート中のチートギフトである。

そんな美月から『凄い』と言われてもお世辞にしか聞こえないのがちょっと悲しい。


みんなに俺がギフト持ちがバレてしまった昼休みであったが、永遠ちゃんの「チャイム鳴りますよ」の一言で解散になるのであった。


しかし、俺はこの時油断していた。

まさか、今週末に俺は盛大な死亡フラグに見舞われることになるとは考えてもいなかった……。













「ねぇ、永遠さん。私、美月さんに西軍メンバーを紹介する予定だったのですが、これ強制加入させるべきじゃないですか?」

「美月どころか美鈴も強制加入だよ……。もう、こんなに恋のライバル要らないよぉ……」


俺が今週末に構築される死亡フラグとは関係はない場所にて、女子達の集まりのメンバーが増えたらしい……。













理沙が昔、秀頼の手品を見たのはこちら。

第2章 禁断の恋愛

第17部分 10、十文字理沙は友達が増える





無事(?)に美月と美鈴が西軍メンバーに加入しました。

うん、知ってた。





次回、達裄主催で秀頼とタケルがキャンプへ行くことに……(死亡フラグ)。

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