45、深森美鈴の運命

「ギフト発動──」


深森美鈴の前に現れた俺は躊躇いながらギフトを発動させる。

前回は絵美が美鈴と関わっていたために使うことが出来なかったギフトだが、今は俺と彼女の2人っきりなのでギフトを使い放題である。

とはいっても10回も100回もギフト使うつもりはないのだが……。

数回で十分。


そして、『命令』で『支配』させる内容のモノを3つ唱える。


「1つ【これから使う俺のギフトについて、記憶をするな。俺のギフトについて、絶対に覚えるな】」

「……はい」


美鈴に対し、ギフトについては忘れるようにと縛りを付ける。

絵美に対してと同じで、やはりギフトのことは誰にも明かすつもりがなかった。


「2つ【これから一切、人に対して害を与える毒を盛ってはいけない】」

「……はい」


よし、順調だ。

どんな経緯で毒を入手し、美月を殺害しようとしたのかはわからないが、毒による美月かタケル、及び俺を含めた他の人物も安全になった。


「そして3つ目……」


ゴクリとツバを飲み、喉が鳴る。

少し躊躇いながらも最後の命令を下す。


「【正当防衛以外で人を殺害してはならない】…………以上だ」

「わかりました。3つの命令を守ります」


美鈴の目がポワーンとしている。

『命令支配』による影響で、俺のギフトを記憶しないようにしている為、正気ではなくなっているのであろう。


しかし、これで終わった。

美鈴が引き起こすことになる悲劇のトリガーを完全に始末し終えた。


タケルが美月ルートに入った場合、何年も前から美鈴にこの3つの命令を告げるのだけは決めていた。

これにより、美月ルート完結っ!


あとはいくらでもタケルと美月がイチャイチャしても毒ルートなし!

つまり、俺と絵美と美鈴が美月の『月だけの世界』に巻き込まれる結末回避!


俺はついにやり遂げた!

ヨルルートは所詮続編に繋がるノーマルエンドだ。

つまり、ゲーム内でも秀頼は生存する。

だから、俺の死亡フラグは1年生の間は関係なし!

2年生からも死亡フラグの嵐だが、まだまだ先だし、ゆっくり対策していこう。


十文字理沙ルートフラグ、三島遥香ルートフラグ、深森美月ルートフラグ、宮村永遠ルートフラグ。

このファーストシーズンの4つの死亡フラグを俺はついにへし折りました。


あとはタケル、いくらでも恋愛してイチャイチャしてくれ!

あ……、俺の前でだけイチャイチャは止めろよ。

明智秀頼に転成して10年、ようやく結果が身に結び付いてきた。


ありがとう、理沙。

ありがとう、三島。

ありがとう、美月。

ありがとう、永遠ちゃん。


俺はこんな狂ったタケル主人公のリアルギャルゲーを終わらせて、ゲーム機でギャルゲーを楽しむぜっ!


やり遂げた達成感が俺の気分を高揚させていた。


「あ、明智君……?」

「あっと。ごめんごめん。用事終わったから帰るね。呪いキツいみたいだしゆっくり休んでてよ」


ルンルン気分になりながら保健室を出て、教室に向かおうと足を出入口の方向へ動かした。


「ま、またね明智君」

「おう、深森のクラス復帰待ってるぜ」


社交辞令のやり取りをして、保健室の扉を開ける。


「あ、そういや忘れてた。」

「ん?明智君、何かしたんですか?」

「あぁ」


そういえば死亡フラグをへし折る3つの命令ばかりが頭に入っていて、こないだテキトーに頭に浮かんだことを試すのを忘れていた。


「【今すぐ『ギフト享受の呪縛』を身体に刻んだ事実を抹消するんだ。君は紋章の呪いなんか受けてない。そのまんまの深森美鈴に戻るんだ】」

「え?」


俺が『命令支配』を美鈴に仕掛けたと同時だった。

美鈴を蝕んだ黒い紋章はそのまま消失していく。

そこには、原作でも見たことがなかった紋章のない深森美鈴の姿が現れる。


…………思いつきだったが、本当に呪いの解除まで『命令支配』でなんとかなってしまった。

こないだ、たまたま咲夜が視界に入り、3年前に『咲夜の風邪を治した』時のことを思い出してみたら案の定というか、成功してしまったのである。

このギフト、チート過ぎない?

原作の『月と鈴』編が、すべて茶番と化してしまった。

まぁ、終わり良ければ全てよし。

そう考えよう。


「どう?なんか変化ある?」


尋ねながら、彼女の顔をよく見ると美月に似ている。

ニ卵性双生児だからか、瓜二つというわけではないが美人だし、結構顔が好みだ。

てか、かなりダークホースだと思う。


紋章のせいでクラスメートからは見向きもされなかった美鈴だが、紋章のない本来の美鈴は結構モテるんじゃねーかな?

それくらいには美人と可愛いが両立した顔付きであった。


「な、なんか顔が軽くなった……。紋章の痛みもすっと消えた不思議な感覚……」

「そっか。鏡を見てみると良いよ」


保健室の壁に掛けられた鏡を指し示すと、美鈴は内履きに履き変えて鏡の前に立つ。


「……え?そ、そんな……。も、紋章が……ない……。ゆ、夢なの……?」


美鈴は信じられないように鏡に手を置いては呆然として驚いている。


「それが本当の君の姿なんだね」

「あ、明智君……?美鈴に何をしたの?」

「何も。ただ、君が前に歩き出すきっかけを与えただけだよ」


よし。

1つ目に命令したギフトが間違いなく効いていることに安堵する。

別にもう俺は美鈴と会話することはないだろうけど、後はゆっくりタケルの攻略でも頑張って欲しいと思う。


「君の姿、可愛いね。男子のファン急増するんじゃないかな」

「か、かわっ!?」


美鈴が照れているのか、頬を赤らめた。

男子のファンが急増する自分の姿は思い浮かんだのかもしれない。


「ふふっ。これから新しい深森美鈴としてのスタートの始まりさ」

「新しい美鈴のスタート……」

「じゃあ、さよならだ。バイバイ」

「うん!ありがとう明智君!」

「ああ!」


そう声を掛けて美鈴と別れた。

もう、美月の『美鈴の紋章を解除』する目的も果たしたわけだし、もう深森姉妹と関わることはないだろう。


まだ、初代の死亡フラグをへし折っただけ。

残っているセカンドとファイナルシーズンのフラグと今後の立ち回りを考えて教室へと戻って行くのであった。












「…………こ、これって運命なのかな?……美鈴は、……美鈴は秀頼様に……、あなたに一生着いて行きます!」


俺的にはもう二度と美鈴と会話することがないと思っていたのだが、そうでもなかったりする。

それはまた別の話……。














悪役のお嬢様は消えて、チョロインが出来上がりました。



第5章に行われた咲夜の風邪エピソードは、この美鈴の呪い解除フラグになっていました。


因みに関君は秀頼たちと同学年なので、去年消された『呪いを解除する』ギフトについては、そもそも学校に入学すらしていない時期なのでコピーはしていませんでした。





次回、理沙が女子会を企むという……。





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