33、佐々木絵美は見付ける
この日、俺は部屋の片付けをしていた。
もう少しで衣替えが始まるので、冬服を押し入れへ、夏服をタンスへ入れる作業をしていた。
「秀頼君の私服、あんまり無いよね」
「女子と比べたらそうなのかもね」
絵美からも衣替えを手伝ってもらっていたのだが、私服の少なさに意見があるようだった。
しかし、俺の中身はもう30歳。
ぶっちゃけオシャレよりも、機能性を大事にしているところは多い。
タケルや山本がオシャレをするから俺も前世の記憶を頼りにオシャレな格好をしたりするが、あの2人と友達じゃなかったらもっとオシャレに無頓着になるのは目に見えている。
「もう少し夏服揃えたら?」
「そうか?なら近い内に服買いに行くか……」
「なんならわたしが秀頼君のために特別一緒に服を買いに行ってあげるよ!」
「じゃあ頼むわ」
「がんばるー!わたし、頑張って秀頼君をコーディネートするよ!」
絵美がやる気に満ちていた。
女の子は服買いに行くのが好きってマジなんだな。
山本がよく「女の服買いは長くて辛い」っていう不幸アピールと幸せアピールを両立させた自慢を思い出してしまう。
俺はよく、心で「ファック!」と叫びながら学校中をパイプを持って駆け回るくらいに山本に対して怒りを覚える時がある。
まさか、絵美から直々に服買いに行こうという誘いは純粋に嬉しい。
「デュフフフフフフ!」
「どうせならタケルとか理沙とか円辺りも一緒に誘ってみるか」
「……秀頼君、余計なことしないで」
「え?」
3秒前まで嬉しそうに笑っていたのに、突然原作の永遠ちゃんみたいにハイライトが消えた目になった絵美がピシャリと言い放つ。
「なんなの?どうしてたくさん人を誘おうとするの?」
「色んな人の意見とか大事かなって……」
「大丈夫です。わたしが責任を持って秀頼君をモテる男に仕上げます」
「ま、マジで……?」
「はい。オシャレというのは他の意見があると、混ざってしまい崩れます。パスタ屋行ってナポリタンの上にミートソースは乗せないでしょ?美味しいパスタならミートソースだけで十分です。わたしがミートソースになります。だからナポリタンとなり得る他者の意見は不要です」
「なるほど、確かに」
メイドコスプレのスタチャが、上着に巫女服を着ていたら確かにごちゃごちゃして魅力半減だ。
メイド需要のスタチャか、巫女需要のスタチャか、どっちかにして欲しいな。
俺は断然メイド派だ。
「絵美だけで十分だな!絵美と2人だけで服買い行くの楽しみだよ!」
「単純……。でも、そんな秀頼君が好きだよ」
もしかしたら、今まで俺がモテなかったのは俺の私服センスが微妙だった説あるからな。
絵美の言うモテる男になれるか期待である。
「ふふっ、たのしーみだー。秀頼君とのデートたのしーみだー」
「…………」
「秀頼君?」
「あ、あぁ!俺も楽しみだよ」
「?」
で、で、デート!
絵美がデートって呼んでる!
うわっ、こういうのもデートって呼ぶのか……。
や、やっぱり絵美って俺のこと意識してるのかな……?
なんだろう……?
絵美に対する胸に広がるモヤモヤは……?
理沙、円、咲夜、永遠ちゃん、和、星子、ゆりか、ヨル、三島……。
彼女らに抱くモノとなんか絵美だけ違うんだよなぁ……。
なんとなく前世の来栖さんに対する気持ちに近いような……。
でも来栖さんは円で……、あれ?
俺、なんかおかしくなってきてるのかな……?
「秀頼君」
「ぅえ!?」
絵美に心を見透かされた声を掛けられ、ドキッとしてしまう。
俺の緊張が絵美に届いてしまっただろうか……?
おそるおそる絵美のいる方向へ振り返る。
「な、なに?」
「アルバム見付けたよ!アルバム!」
「あ、アルバム……?」
「押し入れから発掘しちゃった」
なんだ……。
俺が絵美を恋愛対象として見ているかもしれないとバレたのかと思った……。
『え?なんでわたしが秀頼君が好きとか変な妄想できるの?』とか言われたら多分人間不信になるくらいには絵美が好きなのかも……。
原作やってた時は絵美なんか眼中になかったのになぁ……。
うぜぇ敵役だし、でしゃばるなと永遠ちゃんルートではすっげームカついてて好きにはなれないキャラだったんだけどな……。
ずっと俺とこんな関係を続けてくれる絵美を意識するなって、んなの無理だろ……。
「一緒にアルバム見よっ!こういうのワクワクするよね」
「あ、あぁ。確かにな」
小さいアルバム帳の前に絵美が正座をする。
俺はそれより少し離れた位置に胡座で座った。
もはやアルバムを見て懐かしいとか言い合う日が来るとは思わなかったよ。
絵美とも、結構長い付き合いになったものである。
どんな幼少の記憶があるのか少し思い出してみる。
─────
「でんでんむしむしかてつむりー!」
そう、確かこんな感じに絵美が歌っていた記憶がある。
「おまえのおうちはどこにあるー?」
「そういうこと言うなよ!」
「え?」
「家がないカタツムリに『おうちはどこ?』とか言うなよ!ホームレスに家どこか聞くようなもんだからな?」
「ほーむれす?」
「無人島行ってな、家のある生活のありがたみを知ってしまうとそんな歌うたえねぇよ……」
「よしよし……。がんばれ、秀頼君」
同情された絵美に頭を撫でられた記憶であった。
─────
な、なんも言えねえ記憶が蘇ったモノである。
そんなことを知らない絵美が、床を叩きながら何か喋りだした。
「もう!そんなんじゃ、秀頼君見えないでしょ。今更わたしに遠慮とか要らないよ」
絵美が接近して俺の左腕にべったりと付く距離まで、絵美の右腕が当たる。
「よし、これなら見えるよね」と絵美がアルバムを開きはじめた。
………………こんなん、意識せざるを得ないじゃないか。
†
おら、原作で絵美を散々な目に合わせてんだから責任取れよ秀頼っ!
一応、秀頼と絵美が付き合うのが正史だぞっ!
絵美の「たのしーみだー」は、初登場で公園で「たのしー」って言ってた頃の名残。
無人島ってなんやねん?という人はこちら。
第6章 偽りのアイドル
第115部分 17、明智秀頼は忘れやすい
次回、アルバム回!
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