ギャルゲーのヘイトを溜めるクズでゲスな親友役として転生してしまいました。そして主人公が無能すぎて役にたたない……。

５、深森美鈴

電車を降りてからも、俺はタケルと２人で歩いていた。

よほど女性陣は大事な打ち合わせをしているらしい。

絵美に円に三島と３人くらいから好意っぽい視線の女子を意識してしまうから野郎といるのが落ち着いたりする。

「俺はな、リーチャとスタチャの事件を見て思ったね。ギフトってヤバいんじゃね？って」

「お、おう」

昨日の夜からずっと報道されていたリーフチャイルドとスターチャイルドが連休の爆弾魔事件に巻き込まれそうになったことに対し、タケルはギフトの見方が変わってるらしい。

星子に大事なくて本当に助かったよ。

理知歩愛紗の存在抹消に消沈しながらも気力を振り絞り、達裄さんに電話したら犯人を殺そうとしているみたいでヤバかった……。

修行をはじめた当初、『１００対俺１人で襲われた時は死ぬかと思ったけどどうにかなったね』とか笑っていた時は冗談かと思ってたけど、拳を重ねるごとに『あ……、あの話ガチだ』って確信してしまった人だからなぁ……。

普通に達裄さんならやりかねない……。

リーフチャイルドの葉子さんが犯人の歯を折ったという噂もあるらしく、兄妹揃って強さが異常過ぎる……。

どうやったら俺は達裄さんの領域に行けるだろうか？

ワンチャン、俺はリーフチャイルドより弱い気がする。

会ったことないからわからんけど……。

そういうわけであの事件に対して逆に冷静になってしまったというわけだ。

「本当、ギフトってヤバいかもな……。俺ギフト持ってないから逆に良い人生かもって考えたね」

「……」

何言ってんだこいつ？

お前、バリバリのギフト持ちだろ。

俺のギフトを無意識に解除してたじゃねーかよ。

無能かよ、この主人公と未だに鈍感なタケルの姿を見て突っ込みたくなる。

「うーん。でもギフトにも憧れるよなぁ……。ギフト陽性なんだから何かしら覚醒する可能性はあるんだけど……」

いや、君はずっと覚醒してんだよ……。

「秀頼もギフト無いわけじゃん。ギフト欲しい？」

「べ、別に……」

ギフトなんか転生に気付く直前から持ってるから『ギフト欲しい？』とか言われても、もうどうしようもないんだわ……。

タケルとギフトトークをしていると毎回複雑な心境になる。

そのまま廊下を歩いていた時だった。

１人の原作キャラクターが突然角から出て来た。

「おっと……」

俺とタケルの間に割り込みそうになった彼女をタケルが避ける。

その子は顔を抑えながら苦しそうにしていた。

「う……。熱い……。熱い……」

よろよろと俺とタケルが視界に入らない様に俺たちから離れて行く。

顔全体に広がる呪いの紋章、彼女の姉譲りの金髪に、おでこを出して髪を結んでいる子はクラスメートの深森美鈴であった。

「退きなさいよ、どんくさいわね」

高飛車な彼女の不満さが現れたセリフを吐いた。

──って、これもしかして原作の出来事！？

１周目で、理沙か三島のどちらかのエンディングを見ることにより、解放される選択肢。

タケルと秀頼で会話をしていると苦しそうな美鈴が現れ、タケルが美鈴に『大丈夫か？』と声を掛けることにより美月ルートのフラグが立つ。

因みに美月ルート攻略には、非攻略対象である美鈴の好感度も関わってくる。

ここで美鈴に関わらないと、ゲーム中ずっと彼女の出番はない(初代、セカンド、ファイナル含め、美鈴は初代共通ルートと美月ルートにしか出番が無いキャラクター)。

美鈴の好感度が上がるイベントの入り口がここだ。

ここで美鈴の好感度を１上げることで美鈴イベントが発生。

美鈴の好感度が５以上になってようやく完全に美月ルートのフラグが立つ。

因みに美月だけの好感度を上げていても、美鈴の好感度が低いとどうやっても秀頼とずっ友エンドにしかならない。

さぁ、大事だぞタケル！

お前の選択肢がすべてを変えるぞ！？

タケルが美月ルートに入ると、お前は死ぬとか廃人になったりするエンディングになっちまうぞ！？

美鈴をスルーか、美鈴に『大丈夫か？』と声を掛けるのか？

お前は、一体どの選択肢を選ぶんだ！？

「大丈夫か？」

うわっ、やっちまった……。

美月ルートフラグ、美鈴好感度アップのフラグを踏みやがった……。

タケルの声が聞こえた時、思わず目を摘むってしまう。

「ったく、前向いて歩けっての。なぁ、秀頼」

「……あ？」

「ん？大丈夫か秀頼？」

「…………？」

あれ？

完全に無視するか美鈴を心配そうにする選択肢の二択のところでなんでタケルは俺を心配してるんだ？

これ、誰ルートのフラグなんだよ！？

美月ルートに入っちゃったってことなの？

わかんねー！

イレギュラーな選択肢を選ぶんじゃねぇぇぇ！

「あ、あぁ。大丈夫だ……」

既に美鈴は俺たちの前から消えてどこかに行ってしまった……。

原作でのエニアと同じ悪役の美鈴だからな。

関わらないのが正解なんだが……。

どっちだ？

タケルが美月ルートの『月と鈴』編のルートを踏んだ認識で良いのか？

でも、シチュエーションが違うとはいえ、『大丈夫か？』って言ってしまったしな……。

やはり悪役である美鈴の好感度を上げてしまったという認識をした方が良いな……。

美月と付き合ったタケルは美鈴に毒を盛られて殺害、または廃人にさせられる……。

チクショウ……、嫉妬の悪役お嬢様・深森美鈴には関わりたくなかったのに……。

タケルをあんな女に殺されないようにしないと……。

なんなら、ギフト使ってでも彼女を……。

「秀頼？」

「あ？」

「ちょっと顔が怖いぞ？」

「あぁ、お前が心配になっただけだ」

「ばっ！……だ、大丈夫だよ！」

「ご、ごめん」

タケルが興奮しているのか顔が赤くなっている。

よほど謝りもしないで素通りした美鈴に怒っているようだ。

邪魔だな、深森美鈴。

始末して、退場させることも考えないといけないな……。

『月と鈴』編の美月のギフトで始末される救いのない末路を迎えるくらいなら、俺の手で彼女の出番を終わらせてやる。

大人しく、出番のないモブになっていればこちらも都合が良かったのにタケルに関わってくるか……。

ゴールデンウィーク中の平和な空気は一変。

やはりギフトアカデミーはやはり危険がいっぱいだ。

†

悪役のお嬢様、言ってしまえばクズゲスにおける悪役令嬢みたいな存在を目指しています。

一応舞台が日本っぽいので、本物の令嬢ではないのがちょい残念ですが……。

美鈴は純粋に秀頼やエニアと同じ悪役ポジション。

誰も美鈴に転生しないし、ループもしません(笑)。

純粋な悪役が本格参戦。

クズゲスの悪役のお嬢様がどんな末路になるのか、想像していただけると幸いです。

このページの突っ込みどころは秀頼君まで悪役ムーブをはじめたところ。

多分、秀頼はそんなに美鈴が好きじゃない気がする……。

秀頼が彼女を助けるかは不明。

次回、ハーフデッドゲームに起きた出来事を追うヨルが電撃参戦！