3、十文字タケルの浮わついた話
タケルに『やってんなぁ』と言われつつ、意識はそっちになかった。
うわ……、来栖さんだと思うと可愛すぎか!
妙に気恥ずかしい……。
前世で恋人寸前になりそうだった子を絵美やタケルに見られると授業参観で『あれ、豊臣先生の親かよ!若いねー!』みたいに弄ってきたクラスメートを思い出す。
叔父とおばさんには絶対に授業参観に出るなと言ってあるから来たことはないけど、前世の両親は『光秀の授業の活躍をきちんと目で確認して動画に納めないと!』という親バカだったのをなんとなく思い出した。
特に母親は『一緒にお父さん殺そうとした仲じゃない!』と変な絡みしてきたんだよなぁ……。
「ふふっ、今日から学校再開だね。明智君と毎日会えるね」
「そ、そうだね!気合い入れていかねーとな!」
「ふふふ」
付き合ってるわけじゃねーけど、付き合ってるって言いてぇぇぇ!
彼女いないけど、俺に彼女出来たって言いてぇぇぇ!
本当に原作やエニアなんてことを知らない人生だったらもう付き合ってたんじゃねーかな!
モヤモヤが止まらない。
前世との折り合いは済んだはずだったのにぃぃぃ!
「円……」
「おはよう、と…………わ?」
「これは、やってますね……」
永遠ちゃんがいつもよりトーンが低い声を出す。
恨み、妬みといった感情が見える気がしないでもない。
「円さん、やってますね」
「やってんなぁ」
「絶対やってる!」
理沙、咲夜、絵美がタケルと永遠ちゃんと同じ呪文を呟く。
『やってんなぁ!』って何!?
やってるって何やってんの!?
「円、あっちの車両行こっ」
「え、絵美?」
「今日はウチ、前の車両の気分だ」
絵美と咲夜に両腕をガッツリロックされた円。
永遠ちゃん主導で前の車両へと案内され、円が引きずられて行く。
「じゃあ、兄さん!任せます!」
「おう、頑張れよ!」
「ビシッ」
理沙とタケルが敬礼をして、そのまま理沙が離れて行く。
どうした?
円ともうちょっと会話して良い気分の朝の通学を楽しめるかと思ったのに、女性陣総出で消えてしまった。
残ったのは俺とタケルだけだった。
「……なぁ?みんなどうしたの?なんで前の車両に行ったの?」
「やってんなぁ」
「だから何を!?」
「これはやってますよ明智先生」
「だから何をっ!?」
「やってんなぁ!」
「会話をしてくれっ!」
タケルも朝から変な調子だった。
「じゃあ例えばよ」
「うん」
「俺が理沙を佐々木の家に泊まらせて、俺の家からヨルが出てきたらお前はなんて思う?」
「やってんなぁ!ってなるかな……」
主人公とヨルさん、コンシューマーゲームでは描写出来ないけど少女マンガなら描写してるなんかをやってんなぁ!ってなるかな……。
「やってんなぁ!」
「やってねーよ!?なんちゅう下世話な勘繰りだよ!?」
「それくらい、今の秀頼と津軽がやってんなぁ雰囲気が出てるのよ」
「やってんなぁ雰囲気……?」
やってんなぁがそろそろゲシュタルト崩壊してきた……。
やってねーよ!
まだ童貞だよ!
和に昨日笑われたばっかりだよ。
「そういえばよ、お前の女子の影はどうなんだよ?ヨル?理沙?」
「は?」
「タケル君は最近、隣の席の真鍋さんと仲良くなーい?」
「消しゴム貸してるだけだが」
「彼女、18回ぐらい借りてない?」
「なんで数えてんだよ……。あいつよく消しゴム失くすんだよ」
タケルから消しゴム借りてる横にある筆入れにガッツリ入ってんだよなぁ……。
俺と山本からニヤニヤされているのに気付いてないらしい。
「俺には残念だが一目惚れしている奴がいるんだよ。残念だが、俺に色恋沙汰はねぇ!」
「え?一目惚れ!?誰々?みんなに内緒にするからよ、教えてよ!」
「ツーン」
「ねえねえ?」
「ツーン」
タケルは目を瞑りながら口を開かない。
主人公が一目惚れした相手とか気になるじゃねーか!
俺の死亡フラグに繋がるかもだし…………なんていうのは建前!
純粋に恋愛鉄壁主人公の一目惚れ相手が知りてぇぇぇぇ!
「ねえねえ?進展は?どれくらい?どれくらい?キスした?付き合ってる?」
「キスもしてねーし、付き合ってねーし……」
タケルが赤い顔になって、強い口調になっている。
「じゃあ具体的に何をしたか?みたいなだけ!頼む、1つで良いから情報をくれっ!」
「……い、一緒に2人でウォータースライダー乗った……」
「へえー、にやにや」
「うっぜ」
絵美に言われて照れくさかったことをタケルにしてみると、タケルにも効果があるのか恥ずかしそうにしていた。
しかし、2人でウォータースライダー乗ってるとかそれもう彼女じゃん!
恋人じゃん!
タケル君、主人公なのに浮わついた話が無さすぎだと思ってたけどちゃっかりしてるなー。
…………。
……。
ん?
山本に彼女がいて。
タケルにはウォータースライダーを2人で楽しむ相手がいて……。
…………あれ!?
俺、やばくない?
高校卒業してから恋愛しようとか考えていたけど、ひょっとして周りにバカにされる案件?
タケルという独身貴族がいるから俺も高みの見物をしていたのだが、もしタケルに彼女が出来たらとぞっとした……。
主人公にはファイナルシーズンが終わるまで恋愛はして欲しくないなぁ……。
勝手な願いではあるが、タケルには恋人が出来ませんように!とゲスなお願いをする自分と、タケルの恋心が報われますようにとお願いする矛盾した俺が心に巣食っていたのであった……。
「…………っ」
うわ、タケルの顔が真っ赤になってる。
よっぽどその子のことが好きなのが伝わってくる。
「うん。一緒に童貞卒業できるように頑張ろうぜ」
「黙れ」
「……はい」
調子乗んなとばかりのタケルの目が険しかった……。
†
前世でもしれっと『豊臣先生』呼びが浸透していた人。
いくらでも盛られるなこの主人公……。
前世で母親と一緒に父親を殺そうとしたって何!?と驚いた人はこちらを参照。
第6章 偽りのアイドル
第115部分 17、明智秀頼は忘れやすい
より。
段々、前に張ったネタがどこにあるのかわけがわからなくなるこの頃……。
タケルがウォータースライダーに乗った相手とは?
第5章 鳥籠の少女
第95部分 51、男共は身体を評価する
これを読んで幸せになってください。
次回、ヒロインズに連れて行かれた円は……?
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