第10章 月と鈴

1、深森姉妹

短いゴールデンウィークが終わった。

世間ではリーフチャイルドとスターチャイルドが連休の爆弾魔を撃退したなどの非日常を報道している。

しかし、凡人なわたくしはそんな誰もが驚くような連休ではなく、本当にいつの間にか終わっていたと形容するものだった。


『熱い……、あつい……、あつい……』


妹の部屋から呻き声がする。

今日もまた妹の顔は呪いの紋章によって蝕まれているようだ。

放っておくこともできず、わたくしは妹の部屋を開ける。


「美鈴?大丈夫か……?今日はどれくらい辛い?」

「うるさい!お姉様はほっといて!」

「みすず……」


顔を抑えながら、美鈴は一蹴する。

毎日毎日、顔に広がる紋章から伸びる呪いに苦しむ妹を無視できるほど、わたくしは妹に冷たくできなかった。

呪いに抵抗が出来ている美鈴が熱いと苦しむということは、よほど今日は呪いが疼く日であるようだ。


「苦しいのなら学校休んでも」

「うざいから!本当に出て行って……。お姉様に同情されると、本当に惨めになるの……」


言葉を遮りながら目に涙を浮かべて、妹はわたくしに憎悪の顔を見せる。

わたくしは妹の美鈴が好きなのに、わたくしは彼女からは酷く嫌悪されている。

それもこれも全部、彼女の人生を絡めとる呪いが原因だ。

この呪いさえなければ、わたくしと美鈴は普通の双子になれたはずなのに。

昔はこんな拗れた双子じゃなかったのに、どうしてこうなったのかとつくづく思う。


「殺したいくらい、お姉様が憎い。殺したいくらい、お姉様が妬ましい。美鈴に構わないで!」

「……わかった」


美鈴に言われたから仕方ないんだ。

わたくしは部屋の扉を閉める。

殺したいくらいにわたくしは妹に嫌われているし、自覚をしている。

わたくしのギフトを使っても呪いを抑えられるのは5分程度。

美鈴はずっと、呪いに苦しんでいるのに、わたくしは何も出来ない無力な自分が大嫌いだ。

病院でも治せない、呪術でも治せない、魔術でも治せない。

呪いを治せる可能性があるなら、なんでもありであるギフトならとも言われている。

しかし、そんなギフトで呪いを解ける者などついぞ現れず、両親に呪いの解除を見捨てられ……。

そんな孤独な美鈴を、わたくしだけはどうしても見捨てられない。


「はぁ……」


勉強しても、こればかりはどうにもならなかった……。

わたくしより頭の良い永遠にも呪いを解除するのは不可能じゃないかとも言われている。

あるはずなんだ……。

絶対どこかに、美鈴の苦しみを取り除けるギフトを持つ者が……。


だからわたくしはお父様に頭を下げてギフトを所持していない美鈴をギフトアカデミーに連れて行って欲しいとお願いをした。

ただのギフトアカデミーじゃない。

近場でこじんまりした第4なんかじゃなく、ギフト所持者がいっぱい集まりギフトの最先端な授業を学べる第5ギフトアカデミーならそんな人が現れると信じたからここに進学した。


ギフト陽性者1000人弱。

ギフト覚醒者500人弱。

そんなにギフト所持者がいれば、美鈴を助けられる者が現れるかもしれない。

今年中にわざわざ探す必要もない。

来年、再来年には新入生が現れる。

それに後々に覚醒する者が現れるかもしれない。

まだ入学して1ヶ月。

猶予はある。


普通の学校に通うことを希望した美鈴の意見を曲げてまで、わたくしは第5ギフトアカデミーに入学させた。

たとえ本人に恨まれようと、わたくしはこれが正しい選択だったと胸を晴れる。


「……はぁ」


美鈴を部屋に置いてわたくしは1人、マンションを出る。

調子が良ければ自分で学校に行くだろう。

わたくしは振り返らずに学校を目指した。
















「美月さん、詠美さん、おはようございます」

「うむ。おはよう」

「おはよー」


詠美と会話をしていると遥香も教室に到着し、近寄って来た。

ゴールデンウィーク中に1度詠美が観たいと行ったミステリー映画を3人で行った以来である。

視聴する前に3人で誰が犯人だと思うか予想したら、みんなバラバラな人物を選ぶし、なんなら全く違う人が犯人だったということになり3人で笑ったことを思い出す。


「今日はなんの会話をしてたのですか?」

「ミツキとギフト所持者でどんな人を知ってるかって話をしていてね。珍しいギフトの持ち主とか居ないかなって話をね」

「め、珍しいギフトね……。は、はは」


遥香が引き吊った顔を浮かべる。

ギフトの話題になると遥香はよくこんな表情を浮かべる。


「でもさー、みんなギフト能力なんか明かさないからねー。クラスでイキッてる奴はギフト自慢してる奴もいるけどそういう奴に限ってしょぼいんだよねー。ウチのクラスの中山は『車の耐久年数がわかる』ギフトとかしょーもないよねー」


クラスメートのガキ大将みたいな存在の男子を上げて詠美が言う。

中山のギフト能力は、はじめて知ったが『車の耐久年数がわかる』ギフトは流石に美鈴のためにはならなそうだ。

遥香もふーんって感じで聞いている。


「んで、村西が『10秒で1枚折り紙で鶴を折る』ギフトで、高木が『鉛筆を常に尖らせた状態に維持する』ギフトとか。不二が『自転車を手放し運転で時速15キロメートルの速さで走る』ギフト。私が知ってるのはこんくらいかなー」


バラエティー豊かなギフトは山ほどあるんだが、協力してくれ!ってなるギフト能力は無かった……。

能ある鷹は爪を隠すとも言うし、凄い能力のギフトだったらわざわざ口にしないか……。


「遥香はどんなギフトだ?」

「ぼ、ボクなんか本当に使えないハズレギフトだから……。今挙がった4つと比べるのもおこがましいレベルで使い道がないから……」


慌てた遥香はそう言ってヘコヘコしてくる。

一応2人にお礼を言って、自力で呪いが解けそうなギフト持ちを探すしかなさそうだ。


「あっ!そうだ!ボク、ギフトに詳しい人を知ってますよ!」

「なに!?」


遥香が良い案があるとばかりに声を出す。

詳細を聞くと、遥香が頷いて説明をしてくれた。


「ギフト研究家を名乗るヨル・ヒルさんって人が知り合いにいます!」

「えー?めっちゃあやしー……」


詠美がうさんくさい顔で相づちを打つ。

彼女が反応しなかったらわたくしがこの反応をしていただろう。

それくらい、怪しい響きだ。


「でもでも、ヨルさんは良い人ですよ!明智さんと同じクラスですし、昨日も会いました!」

「明智さん……。秀頼のことか?」

「はい!」

「…………」

「つまり永遠のクラスにヨルという生徒がいるのか」

「永遠さんとも昨日一緒にお茶してました!」

「…………」


遥香、永遠、ヨル・ヒルとなんの集まりなんだろうか、よくわからない。

遥香と永遠は同じ部活になったらしいが、ヨルという生徒は文芸部ではないらしい。

ただ、ギフトに困ったら頼れと言われているらしく遥香からヨルさんとやらを紹介してもらえるようになった。

怪しい感じだが、とにかく今はギフト研究家とやらが頼みの綱であった。










「あぁ。2人共、ひぃ君の知り合いなんだ」


詠美は何かをボソッと呟き、やたらニコニコした目でわたくしと遥香を眺めていたのであった……。













本格的に『月と鈴』編開幕です!


ギフト研究家のヨル・ヒルってなんだよ?って人は

第8章 病弱の代償

第195部分 36、ヨル・ヒルは乱入する

参照。

フラグ管理が大変過ぎる……。




本来、美月の近場が第4ギフトアカデミーなのはこちらにて語られています。

第8章 病弱の代償

第185部分 26、病弱の代償・日常

美月が第5ギフトアカデミーに来た理由を

「わたくしが大きい施設で学びたかったから……」と語っていますが、

本音3割、美鈴のためが7割。

勉強熱心な性格なので、永遠との相性も良いのでしょうね。



第7章 プロローグ

第157部分 番外編、プロローグ2

にて、姉を殺そうと企てる病んでそうな人は深森美鈴で間違いないですね。

実際には殺したいくらいに美月にコンプレックスを抱いています。

これからの活躍に期待が高まりますね!




モブギフト使いはギフトランクが低い者ばかりです。

いかにレギュラー陣のギフトが有能なのかがわかると思います……。


D級

『10秒で1枚折り紙で鶴を折る』ギフト

『鉛筆を常に尖らせた状態に維持する』ギフト

『自転車を手放し運転で時速15キロメートルの速さで走る』ギフト


E級

『車の耐久年数がわかる』ギフト




次回、一夜明けた秀頼は……?


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