番外編、マキアート

「でも豊臣秀頼って奥さんの千姫と仲睦まじいって話だし女の子に優しく育ってくれる子になってくれたらなって思ってさ」

「ウチ、アンチ家康だから三成派」


朝伊先輩の想いにちょっと感動していたんだけど木葉の一言でかなり台無しになった気がする……。


「ほらほら、秀頼イケメンでしょ!将来はイケメンで優しくて女の子にモテモテで、イケメンで人望が厚くて強くてイケメンで面白くて、イケメンでシスコンで、困っている人に手を差し伸べられる人でイケメンでハーレム王で、ノリが良くて格好良くてイケメンで、コミュ力MAXでスポーツ得意でイケメンな人になるわよー」

「秀頼君すごーい」

「『お母さん、俺好きな人が10人居るから全員と結婚したい』、そんな風にイケボで彼女10人紹介してくれるの夢だわぁ!あぁ、可愛い嫁10人とか憧れよねぇ」

「良いっ!なんならウチの娘の咲夜も貰って頂戴!」

「認めるわけねーだろ!イケメンになって欲しい願望高過ぎだしドラマの見すぎってくらい美化し過ぎだし……」


朝伊先輩の欲張り過ぎる息子への期待と、木葉の天然ポンコツっぷりには突っ込みどころしかない。

秀頼君を椅子に戻し、次は星子ちゃんを抱き抱える。


「こっちは明智星子!銀河一きゃわいいウチのブラコン娘!将来は超絶大人気間違いなしのアイドルになるわよ!なんたって名前に星が付いているんだしスター間違いなしよね!ウチの娘は輝く星の子供!秀頼と仲良くて『兄妹2人で結婚したいです、お母さん』とか言われるくらいラブラブな妹に育って欲しいわね!」

「えー!?星子ちゃん凄いっ!早い内に未来のスターのサイン貰わないと!流君、サインペンと色紙準備して!」

「早すぎるだろ!」


朝伊先輩の言葉を鵜呑みにする木葉が将来詐欺師にでも引っ掛からないか不安を煽る。

大丈夫だよね……?


「さぁ、次は木葉の番よ。いかに理想の子供になってくれるのかプレゼンしくよろっ!」

「むふっー!ウチ頑張る!」

「……」


鼻息を荒くした木葉が咲夜を手に取る。

僕たちの尊い娘がようやく登場した。


「ウチの娘の咲夜はね、めっちゃ人当たりが良くてコミュニケーション能力がとても高いの!どんな子とでも仲良くなれて、礼儀正しい子!ウチみたいにポンコツとは無縁でザ・完璧女になるのっ!」

「ポンコツの子はポンコツよ」

「えー?咲夜はウチとは違うよ!ねー」

「あう?」


咲夜に言葉を振っても当然わけがわかっておらず、明後日の方向を見ていた。


「でもでも、咲夜が『秀頼君と結婚します!』ってなったら智尋先輩と親戚になりますね!」

「楽しい家族になるわね!」

「…………」


僕は嫌だなぁと思ったが口にはしなかった……。

仲良しなことは良いことで。

本当にずっと木葉と朝伊先輩が仲良すぎて僕がたまに嫉妬しそうになる。


朝伊先輩は伸ばした茶髪と右目の下にある黒子が特徴的だ。

口を開かないとおしとやかな雰囲気なのに、口を開くとベラベラ喋りまくるノンストップマシンガントーク女である。


「秀頼と星子の将来が本当に楽しみなの……。この子達にはさ、あたしみたいに兄妹で離ればなれになって欲しくないのよ」

「智尋先輩……」


朝伊先輩には仲の良い姉が居る。

しかし、姉は細川という名字を名乗っている。

何故名字が違うのかと言うと、中学時代に朝伊先輩の両親が離婚したからである。

父親に引き取られた朝伊先輩は、姉とも離ればなれという目に合っている。


そんな自分の姉妹と同じ境遇になって欲しくないと彼女は言っていた。

だから自分の子供2人には手と手を取り合って仲良く生きて欲しいのだと思う。


「ウチのお父さんも亡くなってさ、本当に1人で生きることになって辛かったけど、ようやく結婚して子供も2人出来てこれから楽しみで楽しみで仕方ないの。これからが子育てが大変なんだろうけど、寂しいより100倍マシ!」


秀頼君と星子ちゃんの頭を撫でながら朝伊先輩は儚い顔を見せる。


「ぅぅぅ……、先輩ぃ!幸せになってー!」

「なるなる」

「ウチ身体弱いけど、咲夜が成人するまでは生きるからぁ!」

「コラ!孫見るまで生きなさい!流君と咲夜ちゃんを置いていくな」

「生きるぅ!」


咲夜を産むのも大分無理した木葉だが、最近は調子も良く子育てに専念している。


「流君がマスターということであたしは来る度にコーヒーを奢ってもらうわ!ふっふふふー、店の在庫ゼロにして売り上げ0円にしちゃうわ」

「図々しい!」

「棚卸し楽で良いじゃない」

「釣り合ってねーし!」


先輩の言葉に突っ込みながら、親父から受け継いだ店も明日から再オープンだなと気合い入れていかないとなと、誓いを立てる。






そんな時だった。

来客を告げるベルが鳴り、3人が振り向く。


「あ……、こんちわっす……」


軽く会釈をして明智秀吉さんが店内に入ってきた。


「あら、あなた。お帰りなさい」

「智尋先輩!ここ、ウチの家!」

「うるさい、茶々入れない」

「う……」


じゃれあう2人の姿に笑ってしまいそうになる。

しかし、僕は目付きが悪い朝伊先輩の旦那があまり得意じゃないので、同じ空間に居るだけでピリピリしてしまう。

彼が嫌いなわけではない。


しかし、姉貴と結婚した旦那がなんの因果か朝伊先輩の旦那の弟なのだ。

姉貴の旦那がクズな性格だけに、この男もそういう偏見な目で見てしまう。


姉貴に同情はするが、僕の反対を押し切ったんだから自業自得である。


「あなた、結果はどうだった?」

「ギフト陽性だった……。ギフトってなんなんだよ、わけわかんね……」


つい最近確認されたギフトという力。

いわゆる特殊能力みたいな物である。

そして、ギフト因子と呼ばれるものが体内にある人がギフト陽性と呼ばれ、ギフト能力を開花させると言われている。

しかし、ギフトとかよくわかんない能力だし僕には縁のない話だと思っていた。


僕も、木葉も、朝伊先輩も、姉貴も、姉貴の旦那もみんな陰性だったから。

しかし、まさか朝伊先輩の旦那がギフト陽性になっていたのが驚きであった。


「あー、やべ……。ギフト陽性とかショック過ぎて死にて……」

「コラ!木葉も秀吉もすぐ死ぬこと考えて!こんなに可愛い子供置いて死ぬって言うな!」


秀吉さんはネガティブ屋で、少し鬱っぽい人らしい。

しかし、ポジティブの塊みたいな朝伊先輩のお陰でこれでも鬱は回復の兆しが見えているとのこと。

姉貴の旦那との兄弟仲は最悪らしく、姉貴は秀吉さんと会話する機会すら作れないと僕に言ったことがある。


口には出したことはないが、僕は内心あんまり明智の人とは付き合いを持ちたくなかった。


「ほら、秀頼可愛いでしょ!」

「あー、あー」


秀吉さんに抱っこをして欲しいのか手を伸ばしていた。

それを見た彼が朝伊先輩から秀頼君を受け取り、抱っこをする。


「よぉ、秀頼」

「うー、うー」

「そうか。幸せになりたいか」

「あー!」

「なら、幸せになるか」


自分の子供を前にして目を細め頭を撫でる秀吉さん。

彼もこんな嬉しそうな反応をするんだなと素直に驚く。

子供は人の感情を変えることが出来るらしい。


「あんたよくそんなことしてるけど、本当に秀頼の言葉とかわかるの?」

「ああ。親である俺には息子と娘が言いたいことくらいわかるさ。なぁ、秀頼?お前が憧れる人物は誰だ?」

「ああ!いー、いー!」

「なるほど、沢村カワに憧れるみたいだ」

「バカ言ってんじゃないの!」


朝伊先輩から頭を軽く叩かれる秀吉さん。

それにプリプリと怒る先輩であった。

子供がいきなりそんな大人向けな人に憧れるか!


「流君?沢村カワって誰?」

「さあ?」


僕の妻は穢れを知らないのだ。

知らぬ存ぜぬで通す。

僕の部屋のベッドの下に答えがあるんだけどね。


「まったくもう……」

「すまんな」


先輩に悪びれもしない秀吉さんはそのまま僕と木葉に近付き頭を下げた。


「今日は妻と子供の面倒を見ていただきありがとうございます」

「秀吉さん……」

「今後とも咲夜ちゃんには秀頼と星子と仲良くしていただけると嬉しいです」

「いえ!こちらこそ、これからも末永いお付き合いをよろしくお願いします!」


僕が頭を下げると一緒に木葉も頭を下げる。

秀吉さんとほとんど絡みがなかったが、姉貴の旦那とは比べ物にならないくらい良い人に見えた。


見た目こそ、悪い目付きが気になるが態度も口調も淡々としているだけで、悪意が見えてこなかった。


「じゃあ、帰りましょうかあなた」

「うん。ではまた今度」

「さよならー」


今日は久し振りに先輩らと絡めて楽しかった。

僕の恩人で親友でもある先輩へ店のオープン記念にコーヒーを振る舞って楽しかった。

秀吉さんはギフト適性検査と重なり日にちが悪かったが、今度は4人で店に遊びに来て欲しいと思った。


「頑張ろうね、流君!」

「そうだね」


幸せだった日。

穏やかに過ぎるはずだった日常。

僕は咲夜も当然ながら、秀頼君と星子ちゃんの成長を楽しみにしていた。

将来、本当に咲夜が秀頼君を紹介しに来る未来も楽しいかもしれないと木葉と語った時もあった。











しかし、この1年後に朝伊先輩は殺害された。

犯人は夫である明智秀吉。

『相手を自殺させる』ギフト。

それが彼に発現した最悪のギフトであった……。








次回、マスターの反応は……?

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