28、エニアは始末する
エニアは焦っていた。
10000年以上生きてきて、はじめて自分が死ぬ可能性が出て来たことが不安であった。
彼女は誕生の瞬間から今まで、自分が消える選択肢というものを知らなかったのだから。
『面白い予感と嫌な予感、まさか両方当たってしまうとはな……』
ギリシャ神話だのクトゥルフ神話だの神を模倣した贋作が生み出されていくも、全部嘘なのをエニアは知っている。
孤独で退屈な何も変化のない気が遠くなる様な悠久の刻を生きて、ようやく人にギフトを与えられるまでにエニアは神として進化を遂げた。
エニアにとって、人間とはオープンワールドなゲームであった。
生きる人間の箱庭が世界である。
箱庭の人間が土器を作ったり、火を使える様になって盛り上がっていても、退屈でしかなかった。
程度の低い文明を数千年も眺めているだけの生活は地獄でしかなかった。
しかし、ようやく人間の歴史は動きだす。
わずか1000年程度の間に船を作ったり、飛行機を作ったり、電話を作ったり。
エニアの想像を超える発明が出来る度に楽しんだ。
しかし、神であるエニアにとって盛り上がるのはほんの一瞬。
飛行機が飛ぶのが当たり前の時代になったら、飛行機の目新しさも消えて、また退屈になる。
自分が介入することのできないつまらない
だからエニアは人間そのものを造り変えた。
一部の人間に対してギフトの力を使える身体の構造へ進化させた。
ギフトを使える人間と使えない人間で分けた理由は、そちらの方がギフトの希少価値が上がるからである。
それに人間は身体能力や頭脳、両親など生まれによって差がある。
その差にギフトの有無の1つが増えたに過ぎない。
エニアは概念そのもの。
人間がギフトを持つという概念を作り上げた。
ギフトを人に与える力を得てからというもの、今までの退屈な時間が嘘の様にエニアの中では楽しい時間の連続となって神の生活を謳歌していた。
今までは見ているだけの垂れ流しにされていたドラマの世界が、自分で介入できるオープンワールドのゲームに変化した。
ゲームなんか知らなかったエニアは、自分が人の一生を大きく変える力を与えるということにのめり込む。
人と同じ。
RPGで例えるなら戦闘のコマンド入力、逃走、アイテムの使用。
これらをプレイヤーがゲームキャラクターに介入するからゲームが面白い。
それが全部AI任せにしたら楽ではあるが、楽しさは皆無になるのと同じ理屈である。
ギフトを与えて叶う恋。
逆にギフトが原因で破局する恋。
ギフトを与えて生活が一変し億万長者になった者。
逆にギフトが原因で借金まみれの転落人生になった者。
ギフトを与えて強くなった者。
逆にギフトが原因で弱くなった者。
こういった尽きることのない人間の欲望をキラキラした目でエニアは眺めるのが生き甲斐になっていた。
今更、彼女の中でギフト配布を止めて、また退屈な人間世界を眺める生活に戻ることが耐えられなかった。
人間にギフトを配ったのが、まだわずか数十年の出来事であるが、10000年以上生きた以上の変化が人間に起きた。
日々、目まぐるしい変化がエニアの退屈を吹き飛ばしては、気分を快感にさせていた。
しかし、そんな自由に生きてきた神ライフがもうわずか3年で終わる可能性がある。
エニアがもう既に忘れていた恐怖の感情が再び沸き上がっていた。
だからエニアは自分が死ぬ芽を潰す行動を開始する。
そのために明智秀頼のノートを頼りに、『悲しみの連鎖を断ち切り』とかいうゲームシナリオを壊しに暗躍していた。
あのノートは確かにエニアしか知り得ぬこと、明智秀頼が知る由がないこと、未来の出来事などが描かれていた。
特にエニアの存在も、桜祭という男が書いたシナリオの箱庭のゲームプレイヤーに過ぎないということが彼女を追い詰める。
神という役割を与えられただけで、ゲームマスターは別に存在したなどあってはならない。
エニアは概念である。
その法則は絶対。
神・エニアの存在が桜祭という人間が描いたフィクション世界など冗談以外のなにものでもない。
『クハッ、クハハ』
なら、その物語を壊してやろうとエニアは高笑いする。
『悲しみの連鎖を断ち切り』には13人のゲームヒロインが存在する。
十文字理沙、三島遥香など彼女がギフトを与えた存在。
また、宮村永遠の様なギフトとは無縁のヒロインも居るようだ。
その13人のヒロインの中に、『理知歩愛紗』の5文字をエニアは見付けていた。
ファイナルシーズンにおけるキーパーソンの1人である彼女はエニアのよく知る人物であった。
理知歩愛紗。
彼女の生い立ち。
彼女の生まれ。
それは邂逅したことがないので知るはずのない明智秀頼が理知歩愛沙の情報をまとめているのを読み込んだ。
そして、エニアに不利になる情報などを含めて全部真実であった。
ならば、先に彼女を始末してしまえば良い。
桜祭とかいう人間の物語を狂わせてしまえば解決である。
エニアは明智秀頼と別れた後、すぐに愛紗の住む部屋へ登場した。
ゴールデンウィーク中にも真面目に勉強していた彼女は突然現れたエニアに対して目を丸くしていた。
「エニア?どうかいたしましたか?」
ピンクの髪をサイドテールした文系少女・愛紗は突然現れたエニアの名前を呼んでみる。
しかし、いつもと違い反応が悪い。
『……』
「エニア?」
短い脚を動かしてエニアは歩く。
その挙動を不思議そうな顔で愛紗は見ていた。
『理知歩愛紗……』
「はい。なんでしょうか?」
『神のためにその心臓をくれ』
「え?…………グァッ!?」
エニアが伸ばした右腕が理知歩愛紗の左胸を貫通した。
そして、エニアの腕の先にある右手には愛紗の生を刻んでいた心臓が握られていた。
「……………がっ」
愛紗はパクパクと魚の様に口を動かす。
可愛らしい姿の少女も、この姿になってしまったら可愛いより惨いという表現が似合っている。
彼女の眼球が白目を向いたと同時に吐血をしておびただしい量の紅が飛び散る。
その吐血でエニアの白髪が赤く染まる。
『クハッ、クハハハッ!これで良い……。ヒロインとやらを始末してしまえば良い。ゲームなんか壊れてしまえっ!』
エニアは目を細めながら愛紗の心臓を舐める。
自分の死亡フラグをへし折った血の味は10000年生きた中で1番甘美で上品な味がした。
『これで、これで神は生き延びられるぞ……。クハハハハッ!』
エニアの足元に心臓を奪われて絶命した理知歩愛紗の遺体が血塗れで倒れていた……。
彼女は確かに明智秀頼のノートにあった『悲しみの連鎖を断ち切り』でエニア討伐におけるキーパーソンになるべき人物で間違いなかった。
彼女はファイナルシーズンにおける攻略ヒロイン・理知歩愛紗であった……。
『クハッ!さて……、次に打てる対策をどうしようかのぉ?』
愛紗の心臓をどこかへ瞬間移動させたエニアは、彼女のベッドへ座り込む。
部屋の主は真ん中で血塗れになり倒れているのに、ベッドはそんな惨劇などなかったみたいに綺麗なものだ。
しかし、エニアが無造作に座ったことで、ベッドは返り血で真っ赤になる。
理知歩愛紗という少女の存在は完全に抹消した。
明智秀頼以外、理知歩愛紗という名前すらもう誰も思い出せやしないだろう。
わざと嫌がらせで明智秀頼の記憶にのみ、存在を認知出来ていたことに世界を弄る。
『前世ねぇ……。そういえばギフトアカデミーで『自分の前世が知りたい』と願っている2年の男子生徒が居たのぅ。クハッ、面白そうだな。どれ、ギフトでも作ってみるか』
ギフト陽性であるが、エニアの好みからは大きく外れた人間だったのでギフトを渡していなかった人物だ。
『そいつに『前世を知る』ギフトでも渡してやろうかの。前世が関わるとなるとギフトランクはS級か……。…………あんまり好きじゃない奴に最上級ギフトを与えるなんてことは普段はやらないが……、まぁ神が死ぬよりかはマシだな』
ゴツいゴリラみたいで見た目が好きじゃない奴にギフトランクS級のギフトを渡すなど不本意ではあるが、しかし命には変えられないのでエニアはギフトを生成する。
ギフトランクが高いほどにギフトの作成に時間が掛かってしまう。
『明智秀頼……。あの明智秀吉の息子か。クハッ、親子揃って神を翻弄するか』
ギフト史上最初の犯罪者と呼ばれる明智秀吉。
エニアもまた、彼と面識があった。
その彼を思い出しながら屈辱が甦る。
『クハッ!明智の血筋は実に神を楽しませる』
エニアは『前世を知る』ギフトを与えようとしている男子生徒の情報を頭に思い浮かべる。
次期剣道部の部長になるのが確定とかなんとか騒がれている坊主の男子生徒だ。
その男子生徒の名前は……『織田家康』。
『クハハッ!さぁ、ギフトを使って己が何者かを思い出せ』
エニアのギフト生成がはじまる。
後はギフトが完成したら彼の体内にギフトが宿る。
原作からは大きく外れてしまった新しい物語の始まりはもうすぐそこまで迫っていた……。
†
散々原作から大きく外れているので今更ではありますが……。
この回、エニア目線なのでかなり情報の濃度が濃いです。
軽く情報をまとめます。
攻略ヒロインは全員で13人です。
名前だけ登場のキャラクター含めてまとめました。
初代ヒロイン
ヨル・ヒル
十文字理沙
三島遥香
深森美月
宮村永遠
セカンドヒロイン
ヨル・ヒル
???詠美
???茜
赤坂乙葉
???
ファイナルヒロイン
ヨル・ヒル
理知歩愛紗
???
???
???
※詠美と茜は名字が不明なので、名字を???表記。
※名前すら不明の人物は???とだけ表記。
※セカンドヒロインの茜って誰やねんという人は以下参照。
第9章 連休の爆弾魔
第221部分14、明智秀頼は視界に入れない
意外と残りヒロインの数が少ないですね。
しかし、まだこんなにヒロイン作らないといけないのか……。
書くのは良いけど、秀頼君こんな人数を幸せにしないとあかんの……?
これに絵美や円みたいな非攻略キャラクターも登場するとなると果てしねーな……。
物語も中盤くらいには差し掛かっているのかもしれません。
ただ、物語序盤から登場していたキャラクター優遇!終盤キャラ不遇!というのは嫌いなので早い段階で全員登場させてゆっくり攻略していきたいですね!
突然の展開に驚かれたかもしれませんが、エニアが愛紗を殺害した理由もきちんとあります。
『原作の攻略ヒロイン殺してどうするの?』みたいな意見はあると思いますが、きちんと救いのある展開になるので愛紗ちゃんファンの読者様は安心してください。
この犠牲は規定路線。
エニアも意地悪でこんなことをしているわけではありません。
逆に言うと理沙や遥香など他のヒロインはエニアに襲われる理由がないので、現段階で襲撃されることはありません。
この犠牲は愛紗でなければならなかったのです。
第3章 賑やかし要員
第20部分2、津軽円に起きているイレギュラー
ここでピンク髪のキャラクターについて触れていますが、愛紗ちゃんのことですね。
白髪はエニアでしょうね。
エニアも悪役ではありますが、原作に殺される展開を変えたいという意味では秀頼と同じ悩みと目的があるので実質彼女も主人公みたいなモノなのかなぁ……。
原作前座の悪役 (秀頼)と原作黒幕の悪役 (エニア)が協力して原作破壊を目指すのがクズゲスの主軸かも?
明智秀頼の父、明智秀吉について。
エニアと面識あり。
明智秀吉が引き起こした事件も、実は単純な問題ではありませんでした。
この辺は語る優先順位が低いので、明かされるかは不明です。
秀頼君が両親を認知してないのが語りにくい原因になっています。
連休の爆弾魔編が終わった後の番外編で秀頼と星子の両親が登場する予定なので楽しみにしていてください。
S級『前世を知る』ギフトを渡される予定の織田家康……。
全く捻りのない名前です。
察しが良い人ならコイツが誰なのか一発でわかりますよね。
間違ってないです(笑)。
そして、ギフト陽性者の願いを叶える形でギフトを渡さなければならないという縛りがある。
神であるエニアが人の世界に介入する条件である。
この縛りを守れないと神としての力が減少していく。
叔父に命令され続けるのが嫌で、逆にこちらから命令をしてやりたい→『命令支配』
可愛くなってアイドルになりたい→『キャラメイク』
弟を殺した犯人を切り刻んでやりたい→『アイスブレード』
など悩みから願いを叶える形でギフトが生み出される。
設定がガバガバの時からある程度決めていた部分です。
エニアがギフトを配った人=お気に入りの人物や目を掛けている人物。
面食いの神様なのでイケメンや美少女がギフト持ちになりやすい。
ギフト陽性かどうかは完全ランダム。
アレルギーを持っているか、持っていないかくらいで捉えてくれて構いません。
ギフトランクが高いギフトを作りすぎると均衡が崩れるため、本当はなるべくS級は作りたくない。
しかし、E級ギフト(ゴミランク)は逆に願いの程度が低いのであまり生み出されない。
C~D級ギフトが生成されやすい。
秀頼の知人にS級~B級も多いが、こんなの異常である。
次回、1000円をもらった和が向かう先は……?
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