29、宮村永遠は会いたかった
「姉者め……。本気で秀頼先輩を狙うつもりですね」
姉者から1000円札を渡されて外に追い出されてしまった……。
しっぽりむふふでもやるのか姉者?
応援はするが、多分秀頼先輩は戸惑いの気持ちが強いと思う。
私はとにかく手持ち無沙汰になった。
まぁ、折角1000円もらったわけだし遊びにでも行きましょう。
「そういえばせーちゃんがマスターの店がリニューアルしたって話してたね……。暇だから行ってみよ」
バイトを雇ったとかいう話だ。
折角姉者にお金も貰ったし、あぶく銭だしぱーっと使ってしまおう。
もしかしたら咲夜先輩とかも暇してるかもしれない。
そんな感じで私はマスターの喫茶店へ足を踏み入れた。
「いらっしゃいませー!」
「うわ、ヨルパイだ」
「まだ会って2回目で変なあだ名を付けるな!」
なんかよくわからんが、ヨルパイがマスターの店でバイトをしていた。
彼女は私たちの『西軍グループ』内で『ヨルちゃんが秀頼さん狙ってます!』と永遠先輩が拡散したことによりヨルパイは一躍時の人になったことで有名だ。
「好きな席にお座りください」
「好きな席って……、あそこが面白そうですね!」
「ですよねー」
カウンターに見慣れた集団がたむろしていた。
理沙先輩に永遠先輩にゆりか先輩、後1人は短髪の背が低い感じのはじめて見る人だ。
もしかしたら『西軍グループ』に加入したばかりの三島遥香という先輩かもしれない。
彼女らに私は近付いて行く。
「秀頼さぁぁぁん!会いたいよぉぉぉ!」
「明智くぅぅぅん!連休中兄さんばかり2回も会ってずるいぃぃぃ!」
「ししょぉぉぉぉ!我は寂しい……」
「明智さん……。予約埋まるのが早すぎですよ……」
「…………」
負け犬の様な敗者感漂う負のオーラが凄い……。
「お疲れっす、先輩方」
「和ちゃん!こんにちは!」
「こんにちはです、永遠先輩」
永遠先輩の隣に腰掛けると、ゆりか先輩の隣に座っていた見知らぬ先輩が反応してくる。
「津軽円の妹の和です」と自己紹介をすると三島遥香と紹介を返された。
やはり『西軍グループ』の新メンバーであった。
「和、ウチはこいつら相手に疲れた。貴様が相手をしてやるんだ」
「ゴールデンウィーク中、ゴミクズ先輩に会えなくて寂しい集団?」
「正解だ。ウチは会ったから勝ち組だ」
「じゃあ私も勝ち組です」
ふふん、とちょっと優越感に浸る。
苦笑いのマスターに同情する。
「注文はどうしますか?」
「いつもの」
「いつものはやめろっての!なんでこの店の常連客はいつものしか注文しねーんだよっ!」
「抑えてヨルさん……。和ちゃんはメロンソーダフロートの注文だね」
マスターがフォローしながらジョッキを手に取りメロンソーダを注ぎはじめる。
「和ちゃんは秀頼さんと会った……?」
「今、秀頼先輩は家にいるのでついさっきまで一緒でした。姉者に1000円渡され追い出されてきたので彼は姉者と2人っきりです」
「ずるい!ズルすぎですねっ!」
永遠先輩の目からハイライトが消えていた。
なんか怖い……。
「私、明智君の傾向わかりますよ。明智君は仲が良い人の約束とかではなく、早くした約束を優先する傾向があります。こないだ、兄さんよりも私に優先して会ってくれたので明智君に会うのは早い者勝ちみたいになってます」
「こないだのミャクドナルドでの出来事ですね。最終日の今日会いたかったのに円に取られるなんて……」
「ボクそんなルールはじめて知りました!」
「そしてランダムエンカウントで秀頼はウチに来る。ふふん、家に居れば奴からここに来る」
「ヨルは店で連休中2回会ったと聞く。我もこの店でバイトした方が良いのか?」
「会いたくて会ってるわけじゃねーよ」
みんな好き勝手に秀頼先輩を分析している。
ギラギラした闘志が姉者を妬む声とシンクロしている。
「マスタァ!秀頼さんと会えるコツを教えてください!」
「嫌でも明日会えるんでしょ……?」
「1日デートがしたかったですぅ……」
むしろマスターなんか秀頼先輩と会う機会が少ないだろうに……。
「みんなズルですよ!ボクはクラスすら違うんです!ただでさえ明智さんに会えないんだから遠慮して欲しいです!」
「それを言うなら私は学年も学校も違うので全然秀頼先輩に会えないっすよ!先輩なんだから後輩に出番を譲ってください」
「ウチは譲らない」
理沙先輩も永遠先輩もゆりか先輩も咲夜先輩に同意なのか3人で頷いていた。
「あんな奴のどこが良いのやら……?」
「ヨルは最近、秀頼の胃袋を掴み調子に乗ってる」
「はぁ!?……ひっ!?」
咲夜先輩の一言で完全ノーマークだったヨルパイに注目される。
その殺気にヨルパイが短くて小さい悲鳴を上げる。
「私も料理得意です!なのに全然料理を披露する機会がないのに……」
「私も兄さんに料理作っているので腕には自信ありますよ!」
「我とて時短料理が得意だ!」
「ボクも家族に料理出してます!明智さんに食べて欲しいです」
「ウチだってマスターの代わりに料理する」
「私も簡単な料理は作れます」
まさか付き合いが1番無さそうなヨルパイが秀頼先輩に料理を披露していたなんて……。
地味にショックである。
「あっ!そうだ、ヨルちゃん!ヨルちゃんの勧めでヤヒュー知恵袋はじめてみたんですけど人の助けになるアドバイスするの楽しいですね!」
「そうだろ!なんか世界と繋がっている感じがエモいよな!」
永遠先輩の一言で料理の話題からヤヒュー知恵袋の話題へと移る。
そういえば『西軍グループ』では現在ヨルパイの勧めでヤヒュー知恵袋がブームになっていた。
みんなハンドルネームを明かさないで自由にヤヒュー知恵袋を使っているのであった。
悩みを聞いて簡単に人助けをしたり、人とコンタクトを取るというのが最近の若者に受けているらしい。
「ボクなんかの意見が世界の誰かに役立つの素敵ですよね」
「我も今日初めて使ってみた。匿名で質問したり回答できるのは楽しいな」
「ボクが質問を回答した知恵袋に上松さんも回答してたりしてるかもですね」
「ははは!それは流石にないだろう。日々凄い数の質問が来るんだぞ」
「それもそうですね」
遥香先輩とゆりか先輩もヤヒュー知恵袋にどっぷりはまっているらしい。
「まだはじめてないの絵美と円と星子ちゃんと理沙だけですよ。理沙もやろうよ」
「ハンドルネーム作るの苦手で……」
「絵美と同じこと言ってる……。こういうのは感覚で作るのがコツです」
「うーん、感覚かぁ……」
「難しい時は名前の一部を使うのがオススメですよ」
永遠先輩は理沙先輩に知恵袋のアカウント作りを推奨している。
因みに私はヨルパイがヤヒュー知恵袋を勧める前から『津軽海峡エン』のハンドルネームで活動していたりする。
恋愛相談に対して背中を押してあげるコメントが多くて、『ヤヒュー知恵袋の恋愛の女神』扱いをされているので『津軽海峡エン』は有名である。
それから2時間くらい知恵袋の話題や秀頼先輩の話題で盛り上がった。
「よし!とりあえず休みが終わったら学校で『西軍グループ』のみんなで緊急招集を掛けます」
そろそろ解散の時間になり、リーダーの絵美先輩に変わり、永遠先輩が代役を務めていた。
「私出れない……」
「和ちゃんと星子ちゃんの意見も反映させるからグループラインに送ってください!」
「この際なんでヨルさんも『西軍グループ』のメンバーに入ってください。ゆりかさん、送っておいてください」
「承知。送った」
「な、なんであたしが……!?」
理沙先輩の指示で、ゆりか先輩からヨルパイへ招待のリンクが送られた。
すぐにヨルパイの連絡先が『西軍グループ』に追加される。
緊急招集とは『一生に1度のお願いだから用事があっても来い』とほぼ同意義であるのだから。
グループ内でも緊急招集を使うのは月1までの決まりが存在する。
秀頼先輩の立ち上げた『リア充破裂グループ』の意見を参考にしているらしい。
まず一生に1度のお願いを月1で使えることが理解できない。
「秀頼さんの抜け駆けをする円は要注意ですね。秀頼さんから『普段は冷たい円から優しかったり温かい反応される』と相談されてました」
「私たちには何も変わらないのに明智君だけ反応が変わったらしいですよ」
「師匠を抜け駆けしてますね」
姉者休み明け大変だなー……。
秀頼先輩の童貞を心配させられているのは気の毒だ。
しかし、まだ姉者にそんな勇気があるとは思えない。
まだ、十中八九秀頼先輩は童貞に違いないし、卒業は出来ないと確信している。
「…………愛され過ぎてるってのも罪だねー」
ただ1人、マスターだけが冷静でいたのであった……。
「そういえば今日なんで絵美先輩不在なんすか?このメンツに混ざっててもおかしくないのに?」
「なんか叫び過ぎて数日前から喉やっちゃって人前に出れないんだって」
「何やってんすかあの人……」
「ゴールデンウィーク初日に私と理沙と円でカラオケ行った時は普通だったんだけどなぁ。無理させ過ぎたかな?」
絵美先輩も苦労しているみたいですね。
†
この世界の永遠ちゃんは秀頼が違うヒロインと結ばれても背中を押しそうにないですね……。
因みに理沙ルートの永遠は理沙のためにタケルの背中を押して失恋するルートも存在する。
第5章 鳥籠の少女
第83部分39、十文字理沙はゲーセンに偏見を持つ
より。
というか、多分誰も背中を押してくれない。
むしろ背中を押されたい女の集まり。
『西軍グループ』はリーダーである絵美の命名。
関ヶ原の戦いが元ネタ。
要するに秀頼のハーレムメンバー。
秀頼を狙う場合、まずはメンバーに加入しなければならない決まりがある。
秀頼に任せられる基準に達していない女が秀頼と近付くとマネージャーであるタケルにより妨害工作が入る。
みんなタケルが居るから安心して秀頼を攻略出来るのである。
『西軍グループ』メンバー一覧。
初期メンバー。
佐々木絵美、十文字理沙、津軽円、谷川咲夜、宮村永遠、津軽和、細川星子、上松ゆりか。
追加メンバー。
三島遥香、ヨル・ヒル。
秀頼を正々堂々と落とすを名の元に集ったヒロイン集団である。
『文芸部』のグループラインとはまた別。
ゴールデンウィーク中の9章に永遠、理沙、遥香が全く出番なかったのでそれを埋めるために作成しました。
この3人に限って原作ヒロインなのなんなの……?
出番なくても出番ある風に思わせられる境地がヤヒュー知恵袋回。
Q.あれ、スタチャ/星子の9章活躍は?
A.エニアがスタチャに化けていたので……。
次回予告
あなたの人生は平和ですか?
あなたの人生は幸せですか?
あなたの人生はいつまで続きますか?
もし、あなたの人生がこの瞬間に終わるなら……。
後悔はありませんか?
連休の爆弾魔編
始動!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます