24、津軽和は媚びを売る

俺と和の恋人ごっこは続く。


「私は子供5人欲しいなぁー」

「ソウダネー」

「秀頼はどれくらい欲しい?10人くらい?」

「ソウダネー」

「きゃあ!じゃあ最低10人ですよ!」

「ソウダネー」


和の妄想恋人ごっこに文句を言われない様に相づちだけ打っていた。

和は満足そうに笑っていた。


「私と秀頼はずっとずっと一緒です!」

「ソウダネー」

「じゃあ恋人になったんだしキスしてやりますか!」

「ソウダネー」


和が両腕を使い、俺の左右の肩を触って固定させる。

ん?何やってんだこいつ?

恋人ごっこなのにガチキスしようとしてないか?


「秀頼、私世界で1番……」


ガチャと円の部屋が開いた音がする。

和の動きが止まり、その音が鳴った方向へ目が行く。

そこにはお茶やお菓子を乗せたお盆を両手で持つ円本人であった。


「…………ねぇ、和」

「あ、姉者!?」

「何やってんのあんた……?明智君に何するつもり……?」

「ラブラブなキッスをします!なぜなら私と秀頼は付き合ってます!ですよね、秀頼!?」

「ソウダネー」


和が止めるつもりがなく、目で『続けろ』と指示しているから肯定だけしておく。

あまりの俺の演技の上手さに円は口をパクパクしている。


「じゃあ、早速ディープなやつをしちゃいましょう!」

「ソウダネー」

「好きだよ秀頼」

「ボクモスキダヨー」


何事もなく続けて和は俺にうっとりした顔を見せる。

う……。

円をちょっと幼くさせた顔が可愛くて直視するのが恥ずかしい……。


「ダメ!ダメ!だめえぇぇ!絶対ダメぇ!」


円は持っていたお盆を床に置いて、和を制止させにやって来た。

多分、出会ってから円が1番大声を出した瞬間であった。

そのまま和が引き剥がされて円に飛ばされた。


「……上手くいけば既成事実作ってみんなから秀頼先輩をゲットできるチャンスだったのに」


和がボソッと変なことを呟いたが、脳が理解することを拒み頭に入らなかった。

むしろ理解したら負けだったと思う言葉を完全スルーする。


「ねぇ、明智君……」

「え?」

「和と付き合っているって嘘だよね?嘘以外許さないよ?」

「嘘だよ!?嘘だから!」


ダークサイドウーマン円とは違う意味で怖くなり頷きまくった。

5秒間で1番頷きまくったというギネスブックがあったら1位が俺になるくらいに頷き連打しまくった。


「和……?」


円にしては珍しくぶち切れている。

一言だけなのに重みが違う。

和もこの重みを感じて、いつもの余裕ぶっこいた生意気な態度は消失し、謝罪をしている。


「あ、あはは!冗談っすよ、冗談!あ、姉者の反応見るための冗談っす!ねぇ、秀頼先輩!?」

「あ、ああ!だ、だから円も落ち着いて!」

「私の反応を見るため?説明してくれない?」

「あ、あははー」


和は捕まり円に捕まれ頭から持っていかれた。

物理的に。

南無、部屋の隅まで引きずられていった。

姉妹喧嘩とか見たくなかったから近くにあった雑誌を手にする。

オシャレな女子が買うファッション誌みたいだ。


「へー、今年の流行りは赤い服なんだ!へー、オシャレー!」

「和っ!」

「ひっ!?」


姉妹喧嘩の内容はわざと聞かない様にしていたか、和を一喝する声がして俺の心臓も鷲掴みされる。

和の説教終わったら俺殺されるやつか……?

転生してベスト3に入るくらいに死亡フラグを踏んだ感覚がある。

円に気付かれない内に逃げ出すか……?


おそるおそる円と叱られている和に視線を送る。


「今から私は明智君と大事な話をするの。だから、はい」

「ま、円姉ちゃん……。なんですかこれ……?」

「1000円あげるから外に出てって」

「う……、はい……」


いつも舐めた様な姉者呼びすらやめて円姉ちゃん呼びしている。

あー、やっぱり和も姉には勝てないのね……。

おそらく恋人ごっこについての動機も吐かされたに違いない。


しかも、そんなに円と大事な話をする予定もないのに和を外に出そうとする行動……。

なんかヤバい、なんかヤバい!

俺の体内防犯ブザーが除夜の鐘みたいにゴーン、ゴーンと鳴っている。


「い、行ってきますね姉者……」

「早く行って」

「はい……」

「明智君が帰るまで和も帰って来ないでね」

「はい……」


1000円もらったのに全く嬉しく無さそうな和。

生意気なメスガキの末路は姉からの説教だった。

さて、和のことは終わったとばかりに満足そうな円。


既に帰りてーよ……。


ちょっと原作の話して、円とまたバカなやり取りして終わりくらいの軽い気持ちで家に来たのになんでこんな重苦しいところで会話をすることに……。


シリアス無縁な頼みの和はレッドカードという名の1000円で退場した。

和が家を出ていく物音が聞こえる。

あぁ……、俺も帰ってギャルゲーしてーな……。


チラッと窺う様に円の顔を見る。

すると目が合うと円はニコって笑った。

は、はは……。


「ようやく2人っきりになれたね明智君!」

「っ!?」


怒られる覚悟をしていたら急に明るい声で語りかけてくる円。

その反応のギャップに俺もどんな返しをすれば良いのか完全にわからなくなった。


ラスボス円との一騎討ち編は続く……。













久し振りに登場して3ページで退場する和……。

本当はもっと暴走するつもりだったのに……と特に反省はしていません。

円を怒らせたのでほとぼりが冷めるのを待とうぐらいしか考えていません(笑)。

和が『円姉ちゃん』と呼ぶ時は大体媚びを売る時。

秀頼へディープキスをしようとしたのはガチ。

既成事実を作る気満々でした。

和は最低でも5人子供が欲しいのは本音。

ゆりかで3人、和で5人……、どうする秀頼?


秀頼を巡る正妻戦争はまだまだ序章……。



次回、秀頼が円に来栖さんの思いを語る?

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