5、明智秀頼は差し上げる

「じゃあ次は料理だね。僕が1人だとコーヒー淹れるのと接客がメインで、料理は手軽に冷凍食品出してたけど、ヨルさんが店に待機している時だけは料理出せるから達裄君と秀頼君に試食してもらおうか」


時間帯もちょうど昼前だし、食事には良い時間であった。

ヨルが料理を作るから何か注文して欲しいと頼まれる。


「咲夜も料理出来るからあの子に作らせるのも良いけど、コミュ力無さすぎてね……。厨房から出ない条件なら咲夜に作ってもらうのもありかなー」

「咲夜ちゃんにはちょっと店は任せない方が良いと思う……」

「ねー」


マスターも達裄さんの言葉に苦笑いしている。

基本的に俺と会話したり、俺と仲の良い子とは話しかける努力をする咲夜だが、それ以外では俺や絵美やゆりかの後ろに隠れることが多いからな……。


「ご注文はいかがでしょうか?いつものとか言った瞬間舌打ちします」

「……」

「……」

「ではご注文をどうぞ?」


黒い笑いを浮かべてヨルが注文を取る。

強いオーラに俺も達裄さんも無言になる。


「俺、豚汁」

「俺は回鍋肉ホイコーロー

「定食屋か!せめてメニューにあるやつ頼んでくれねーかな!?ないじゃん、そんなメニュー!?」


自分の食欲に従った注文を出したらヨルから怒られた。

マスターも苦笑いである。

ミートソースやナポリタンなどのパスタ系。

サンドイッチやピザトーストなどのパン系。

ありきたりな喫茶店メニューしか置いてない。


それじゃあミートソースにしようかなとかメニュー表を眺めているとヨルが厨房に入っていく。


「マスター、材料はあるっすよね?」

「う、うん。僕の家族の食料ぶんも冷蔵庫にあるよ」

「じゃあ豚汁と回鍋肉作るっすわ」

「え?」


俺と達裄さんが冗談で言った言葉をそのまま鵜呑みにして、フライパンや鍋を出し始めた。


「マスター、ご飯焚いてるっすか?」

「まぁ、あるけど……」

「じゃあ、あたしらのぶんも昼食も作りまーす」


てきぱきと準備しながら、包丁で野菜を切り始める。

マスターも想定していなかったのか、ヨルの行動を呆然と見ていた。


「あんた、良いバイト見付けたな……」

「そうだね……」


俺にエスプレッソと、達裄さんにコーラフロートを出しながらマスターもヨルを感心した目で見ていた。

なんやかんやがさつな女だけど、タケルの胃袋を掴むくらいには家庭的なヒロインだから家事スキルは高いんだと思う。

よく、親に料理を作っていたらしいしね。


そのまま30分と結構待たされたもんだが、俺たちの目の前にご飯、豚汁、回鍋肉が目の前に置かれた。

ちょっと贅沢した定食屋みたいになっているが美味しそうだ。


「今日はあたしのバイト記念っすよ」

「おぉ!?スゲー野菜入ってて旨そう!」

「ったく……。なんであたしが明智に料理なんか……」


豚汁を少し冷ましてから口に含むと、出汁の効いた味噌の味が口全体に広がる。

豚肉も柔らかくて噛みやすい。


「旨い!めっちゃ旨いぞヨル!」

「お、おぉ」

「あー、この豚肉の柔らかさ好き」


家庭的な豚汁がメチャクチャ心に染み渡る。

数日前に食べたインスタントの豚汁とは比べようがない。


「うん。美味しいね!」

「これは良い人雇ったなマスター」


男2人も満足そうにしていた。


「お、おう。……あたしの料理が旨いとかそんなの当たり前だから」


まんざらでもない態度でヨルは意地を張るように腕を組んで自慢気であった。

ヨルの境遇、ヨルの過去、ヨルの使命。

俺は全てがわかっている。

そんな苦労の中でも必死に料理を覚えたんだろうなという背景には尊敬する。


「どうした、明智?」

「あぁ。ヨルの努力が伝わってきてさ。凄いな、お前は」

「……んなの、普通だし」

「いや、お前は凄い奴だよ。もっと胸張って『けらけらけら』って笑ってろよ」

「けっ、けらけらけら」


ヨルの口癖のわざとらしい笑いを聞いて、微笑ましくなる。

タケルをからかう時、よく口にする口癖をリアルに聞けて感動する。


「なんかあたしに貢いでも良いんだぜ?金でも金でも金でも」

「ちょっとマスター!?この子、この店キャバクラかなんかと勘違いしてない!?」

「いや、でも秀頼君は全然貢がないと思うの……」

「ぐっ、それを言われると……」


おばさん特権でただ飯している身には痛い言葉だった。

なんかヨルにアメやガムみたいな貢ぐものがないか探していた時であった。

記憶の彼方にあった紙袋を見付ける。

あっ、これがあったか。


「じゃあ、ヨルにはこの紙袋を差し上げよう」

「……」

「……」


マスターと達裄さんから『うわ、やりやがったこいつ……』みたいな目を向けられる。

不評だったおばさんのお土産のタペストリーである。


「お?なにこれ?貰って良いの?」

「OK牧場」


ヨルが嬉しそうに鼻歌を歌いながら紙袋を開けると例のタペストリーが出てくる。


「サンキュー」

「え?良いの?」


そのままお礼を言うヨルに俺が突っ込んでしまった。

『こんなん要るかー!』って投げられるオチになるかと思った。


「なんで?くれるって言うなら貰うよ。ちょうどあたしの寮の部屋殺風景だったし、飾っておこ」


ヨルが嬉しそうにタペストリーを眺めている。

うーん……。

男から見たら変な柄だが、女から見たら良い柄なのかな?


「なんだ?じろじろ見て?返さねーからな?」

「いや、返せとか言わねーけどよ……」

「へへっ。じゃあもーらった」


ヨルが満足そうにしているなら良かった……。

回鍋肉の最後の肉を食べきって完食した。

また、今度ヨルの手料理を食べてーなと思うくらいには満足した日であった。


マスターと達裄さんからも高い評価を貰っていた。

ヨルがバイトを始めた際は喫茶店に行き辛くなったかとも思ったが、杞憂だった様である。

そのまま、数時間みんなと駄弁ってこの1日が過ぎて行くのであった……。









ヨル的に、少しずつ秀頼に歩み寄っているのだと思います。




★★★★★


まだ未定ですが、近い内に谷川家の番外編を書きたいかなと考えています。

200話記念に書こうとしてた1つの候補です。


読者様に質問します。

クズゲス世界と原作世界のどちらで見たいかコメントを残してください!

想いを受け継ぐ様なハッピーエンドならクズゲス、

想いを踏みにじるバッドエンドなら原作と票を入れてください。


あまのじゃくではないので素直に多い票を書きます。

票がない場合は、作者の独断で書く予定です。

秀頼目線の話をしていたら多分一生マスターの本名が出ない気がしますので、番外編でマスターの本名や、咲夜の母親とか出したいかなと思っています。

マスターは本名じゃないです(笑)。

ベースになる話は頭では出来上がっているので、後は明智秀頼をどっちの姿で登場させるか迷っています。

個人的には原作ではなく、クズゲスで書きたい。


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10月7日までのアンケートを反映させます。

よろしくお願いいたします!

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