36、ヨル・ヒルは乱入する

「どうですか?かなりギフトの力を引き延ばしてみました」


それから2時間くらい三島の特訓に付き合っていた。

自信満々に三島が言うのでギフト板を装着するとかなり安定していてギフトのどす黒いオーラが見えなくなっていた。


むしろ、俺が意図的に出しているギフト耐性を身に付けるギフトの力の方が強いくらいだ。


ようやく越したんだ。

タケルが行き着いた領域まで三島を進化させたんだ……。


「よし、じゃあテストしよう。そのまま前みたいにギフトの力を出して『エナジードレイン』を集中的に出せるか?」

「う、うん。多分時間を掛けながらになるけど……」


徐々に徐々に三島の身体を守るように黒いオーラ『エナジードレイン』を包み込む。

離れていても立ちくらみがしそうなくらいに俺は辛い……。

それを堪える。

最低でも、完成までは見届けないと……。


「大丈夫ですか明智さん!?」

「よし、これが出来たら成功だ。また『エナジードレイン』をさっきの完成形まで持っていってくれ」

「任せてくださいっ!」


そのまま空気から消失していくみたいに『エナジードレイン』の力が見えなくなっていった。

やった……!


ついに、本当に三島は『エナジードレイン』を克服したんだ……。


「やった!やりました!明智さん、ボクはやり遂げましたよ!」

「ぁぁ、……そぅ、だな……」

「……明智さんっ!?」


やべぇ……、安心したら立っていられねぇ……。

頭を抑えたまま、膝を付く。

あぁ、本当に円を連れて来なくて良かった……。

やっぱり俺、タケルじゃねぇから、無理だ……。


「ぁ……ち…………さん!?」

「…………ぃ」


三島が駆け寄っているのがわかるが、全然声が聞こえない。

そんなのお構い無しと貧血の症状が俺を襲ってきた。

ヤバい、視界が白に染まっていく。

汗が止まらなくなってくる。





ーーーーー




「明智さん!?明智さんっ!?目を覚まして」

「ぐっ……、だ…………ぶだ……」

「大丈夫じゃないですよ!?」


お母さんや和馬らの家族が貧血を起こした時以上に顔色が悪い明智さん。

ボクの……、ボクのせいで明智さんをこんなに苦しませていたという事実に胸が締め付けられるように痛い。


「明智さん!深呼吸です!深呼吸!えっと……飲み物飲み物……」


明智さんが飲んでいたお茶のペットボトルを蓋を外しながら渡すも受け取らない。

受け取る気力すら見えないことにボクは焦る。


「飲んで!飲んでください!」

「ぁ……。ぅぅ……」


ボクがペットボトルを明智さんの口に放り込み、傾けると口からお茶が垂れてはいたが、飲んでくれた。

良かった、水分を口にしてくれた。




『おいっ!』




廃墟内にボクと明智さん以外の声がして心臓が止まりそうになるくらいに驚く。

その方向を振り向くと赤茶色の髪に、赤い目をした女性がボクに近付いてきた。


「……え?だ、誰ですか……?」

「あたしはヨル・ヒル。おい、こいつは君……三島のギフトの影響だな?」

「は、はい……。ボクどうしたら良いのか……」

「寝かせてやるぞ」


慣れた手付きでヨルさんは明智さんを横にさせる。

ヨルさんが未開封の水のペットボトルを明智さんの額に置き、そのまま腕から離さないでセルフで固定をしていた。


「ヨルさんは明智さんの知り合いですか……?」

「そんなんじゃねー。因縁みたいなもんだ。あたしはこいつが大嫌いだ……。けど、三島?明智はお前をずっと助けていたのか?」

「は、はい……。ギフトが暴走しない様にって昨日からずっとギフトのコントロールを教えてくれてて……」

「…………お前は誰なんだ?明智秀頼なのか……?」

「え?」

「なんでもねー」


ヨルさんが明智さんの苦しそうな顔を見ながらぶつぶつと呟く。

わからない、ヨルさんの態度は本当に明智を嫌っている感じで親しさも感じない。

でも、どこか必死になっている。


「う……」

「ん?」

「あ、明智さん!?」


頭を抑えながら明智さんが目を冷ます。

ヨルさんもペットボトルを明智さんの額から離すと明智さんは立ち上がった。


「おい、明智!?」

「あ?ヨルか……?っ……、頭痛いから帰る」

「あ、明智さん」

「…………ごめん。今日はもう無理っぽい。三島もヨルもまたな……」


頭を抑えながらフラフラした足取りで廃墟から消えていく明智さん。

本当に『エナジードレイン』で無理をさせ過ぎたんだ……。

ボク、今度きちんと謝らないと……。


「おい、三島。とりあえず連絡先をくれ」

「え?」

「君のこと、あたしも色々知りたい。友達になってくれ」

「は、はいっ!」


明智さんのことは気になるけど、本気でこのままずっとボクが居たら迷惑になるかもしれない。

ボクが手を握って欲しかったから『手を貸して』って言ってしまった罰かもしれない。

……けど、素敵で優しい手だったな。


「三島遥香な……。じゃあ、三島じゃなくて遥香だな。よろしく」

「よ……ヨルさん、よろしくお願いします」


奇妙な人間関係が生まれてしまった。


「じゃあ握手だ」

「あ……、えっと……。ボクのギフトの『エナジードレイン』でヨルさんも明智さんみたいに……」


ボクはある程度制御できるからすぐに体調が悪くなることは無さそうだけど……。

そう考えているとヨルさんが割り込むように声を出す。


「あー、大丈夫だよ。あたしのギフトはギフトが効かない最強の防御能力持ちなんだよ。『アンチギフト』ってやつさ」

「『アンチギフト』?そんなギフトが……?」

「あるんだよ。ほら」


ヨルさんはボクの手を握っても平気で涼しい顔をしている。


「ま、ギフトに困ったら明智だけじゃなくてあたしにも頼るんだな!ギフト研究家ヨル・ヒルでありますっ!」

「あははっ、なんですかそれ?」

「ギフト研究家って格好良いだろ?」

「いや、全然」

「なんだと!?」


センスはちょっと残念な子に感じた。


「『アンチギフト』ってネーミングはどうだ?」

「わかりやすくて良いと思いますよ」

「くっ……、負けた」

「誰と戦ったんですか?」

「『アンチギフト』って命名したゴミクズ……」


口が悪い子だなぁと苦笑いしてしまう。

でも、不思議とヨルさんからは怖いといった感情は沸かなかった。

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