35、明智秀頼は心で叫ぶ
「おー、確かに廃墟内は普通に包む距離だな。凄いな、三島は物覚えが良いんだな」
「あ、ありがとうございます!明智さん!」
嬉そうに頭を下げてくる三島。
なんか本格的に三島を弟子にしている感じになる。
『我は!?我にもなにか伝授してください!』
脳内で俺の弟子を名乗るゆりかがぎゃあぎゃあ文句を言ってきた。
本人ならもっとうるさくなりそうだから言えないよなぁ……。
「ただもうちょっと範囲を伸ばせると良いな。黒さが見えなくなるくらいまで」
「黒さが見えないくらい、ですか……?えっ、そんなに……?」
「大丈夫、三島なら必ずできる」
「明智さん……」
タケルが持ってきた最高レベルまで三島の『エナジードレイン』を制御させる。
三島遥香ルートでタケルが『遥香の周りすらギフトが発動しているか全然わからない』と言わしめたレベルまで俺は三島に要求している。
そのレベルになると人体には全然影響がないと表現されている。
大丈夫、もうちょっとでその領域だ。
「大丈夫。焦るな。ゆっくり、深呼吸をしろ。自分が川の水だとしたら、凄く早く流れる水の流れを意識するんだ」
「う、うん」
「固くなるな。もっと柔らかくだ。大丈夫、俺が君を暴走させないようにするから」
「うん……」
三島の手を握りながら焦らないように声を掛ける。
直接触れるとまた一気に力が抜けるけど、どんどん三島のギフトの扱い方が上手くなってきているのを肌で感じる。
「三島、『想い』を強く念じるんだ。誰も傷付けない。大事な家族を、大事な人を守るって意思を強く持つんだ」
「大事な家族……、大事な人……?う、うーん?大事な人?」
「家族ぐらいに大事と思える人だ。ペットでも良いし、三島が好きな人でも良い。とにかく近くに居ると安心できるものをイメージする感覚だ」
「…………う。……えへへ」
「?」
三島が頬を赤く染めて笑う。
もしかして好きな人とか居るのかな?
年頃だからそれくらい居ても不思議ではない。
小説版やゲーム本編でタケル以外で三島が好きな人が居るみたいな描写あったかな?
うーん、あんまり『病弱の代償』シナリオなんか本筋関係ないし読まなかったからな……。
三島自体が空気ヒロインで、佐々木絵美より存在感ないから仕方ないけどなんか居た気がする。
秀頼に騙されて…………ん?
誰に騙された……?
原作の明智秀頼に騙されて……?
恋心を裏切られた挙げ句に、ギフトが暴走して……。
恋心……?
あれ、秀頼を好きになって秀頼を盲信してたんだっけ?
なんでゴミクズを好きになったんだ?
え?ゴミクズが好きだった?
…………ん?
「三島」
「は、はい!?」
「顔が赤いぞ?」
「う、うわわわっ!?な、なんでもないですよ!?」
俺が顔を近付けると、三島が赤い顔をして俺から視線を反らす。
…………あれ?自意識過剰……じゃ、ない?
なんで?
俺を好きになってる?
…………え?なんで?
俺、三島になんかした!?
わからない、なんで三島は俺を意識してるんだ!?
首を振って否定していると、俺の視界に三島の手を握る俺の手が見える。
…………ボディタッチしていて意識していた……?
「ご、ごめん!?手を握ったままだったね!?」
「あ……」
ちょっと寂しそうな三島の顔が写る。
後ろ髪を引かれるような気持ちと、異性から意識されているのを感じて心臓がバクバク鳴る。
普段から彼女欲しいとか考えているのに、いざ出来そうだとへたれちゃうのが悪いクセだ……。
ゲームや小説で三島の気持ちを知ってしまっているというインチキが酷く落ち着かない……。
俺が十文字タケルに転生したらヨルや理沙が最初から好感度マックスじゃん!みたいなのが察することができるわけだ。
うぅ……、まさか三島が秀頼に憧れていたなんていう設定を思い出すなんてなんてことをしてしまったんだ……。
「あ、あの……、もうちょっと手を貸してくれませんか……。ボク、明智さんから手を握られると落ち着くんです」
「う、うん……」
昨日までは意識してなかったのに三島が気になって仕方ない。
文芸部誘ったのも、手を貸してと言うのもそういうことなんだ……。
母さーん!
前世の母さぁぁぁん!
俺どうすれば良いんですかぁぁぁぁ!?
来栖さぁぁぁん!
これって恋ですか!?下心ですかぁぁぁぁ!?
前世への届かない思いに独りどぎまぎする。
原作で永遠ちゃん最高!美月素敵!とか考えていたのに三島にもドキドキするなんて考えたことすらなかった……。
「ありがとうございます。ボク、頑張れる気がします」
「う、うん」
絵美……、タケル……、理沙……、円……。
誰でも良い……。
俺を『自意識過剰乙www』って指摘してくれ……。
『エナジードレイン』で盗まれていく体力で苦しくなっていき、三島から頭が離れていくのが唯一の救いだった。
ーーーーー
「明智が彼女のギフトの制御をコントロールしている……?それとも、単に騙して悪巧みをしているのか……?」
視界に映るあの茶髪の男は誰だ?
あれは何者なんだ……?
最低のギフト所持者の明智秀頼ではないのか……?
「わからない……。おかしい……、こんなの狂ってるじゃないか……?」
気が付くと、あたしは縋るように命よりも大事な銀のペンダントを握っていた。
信用しても良いのかどうか、天秤が揺らぎはじめる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます