28、病弱の代償・悪夢

「最近どうだ?何か不自由な感じは?」

「全然ないです!本当にこんなに普通の日常が楽しいなんてボクは気付きませんでした」

「泣くなって。なっ?」


ボクは週1くらいで明智さんと廃墟で会う。

色々な人生が転機になった場所がこんな廃墟なのはロマンチックのカケラもないのだけど。

それでも誰も近寄らないこの場所が好き。


「本当に三島は危ないところだったんだぞ」

「本当にそれを痛感してます……」

「俺には大体三島の結末がわかってたから」


そうやって辛そうな顔を見せる明智さん。

よほどボクの『エナジードレイン』は恐ろしい能力だったのだと恐怖を覚える。


「最近どうだ?友達増えたか?」

「はいっ!美月さんと詠美さんの2人だけなんですけど仲良くなれました!」

「美月と……詠美……」

「あれ?2人共お知り合いですか?」


なんとなく女の勘というものが発動した。


「ま、まぁ、そんな感じ……。ウチのクラスに深森姉妹の双子の妹がいるし、詠美も知ってはいるだけだ。うん、別になんでもない」

「え?美月さんに双子いるんですか?」

「俺のクラスにいるよ。大人しい子でね。深森美鈴っていうね」

「へぇ」


美月さんは全然そんな話をしなかった。

妹が居るとは言ってたけど双子とは思わなかった……。

妹と不仲なのかな?とか悪いことなんだけど友達を勘ぐってしまう。


「詠美か……。…………会いたくねぇ名だ……」

「明智さん?」

「あぁ、いや。なんでもないよ」


明智さんがなんかボソボソと詠美さんの名前を呟いては考え込んでいる。

詠美さんを知っている?

よくわからない接点に次の休み明けの月曜日に明智さんのことを聞いてみようかな?

なんか怪しい関係……?


「でもこの廃墟に明智さんと居ると安心します。明智さんはどうしてこの廃墟を知ってたんですか?」

「この廃墟は…………あー……、友達と秘密基地にしてた場所だよ」

「友達?」

「前に話したけど十文字タケルっていう……、知らんよな。双子じゃないけど兄妹一緒で同じクラスの奴がいるんだよ」

「ごめんなさい……、わからないです……」


ボクは本当に学校の人間関係に疎くて……。

でももしかしたら学校で明智さんと一緒にいる黒髪の人かな?

たまに何回か目撃したことある人だ。

そういえばあの人、学校始まってすぐにぶつかってしまった人かもしれない……。


クラス入ってすぐに体調悪そうにしていた子が居たから急いで逃げちゃった時にぶつかった人と明智さん友達なんだね。


「でも何もないなら良かったよ。これで三島も自由だね」


そうやって笑う秀頼さんに顔が赤くなる。

しかも本人を前にしてどうるんだよボク!?

この流れをどうにかしようと頭を巡らせて話題を反らす。


「はい!家族や友達に囲まれてボクは幸せです!」

「…………家族、か」


明智さんが複雑そうな顔で呟いたのをボクは聞き逃さなかった。

そういえば明智さんって兄弟とかいるのかな?とか考えてみる。

なんとなく一人っ子の様な気はするけど。


「明智さんは弟や妹とか居ますか?」

「いんや?1人も居ないよ」


明智さんはサラッと返答をしてきた。


「じゃあ一人っ子なんですね。両親の3人家族ですか?それともおじいちゃんとかおばあちゃんとか居たりするんですか?」

「いや、……家族全員亡くなって俺は1人暮らししてるよ」

「あ……、えっとごめんなさい」

「んなの気にしてねーよ」


明智さんが一瞬憂いを帯びた表情をしていた。

左耳に付けているピアスが銀色に光る。

そんな姿だけで格好良いとか思っちゃうボクは末期かもしれない。

参ったな……。


「ん?三島の顔赤いぞ?熱でもあるのか?」

「だ、だ、だ、大丈夫です!ま、また来週会いましょう明智さん!」

「お、おう」


ボクは恥ずかしくて逃げ出した。

すぐに離れたくて自転車に跨がる。


あわわわわ、ボクの片思い知られちゃったかな!?

……あ、知られたなら告白した方が良かったのかな!?


信号待ちをしていてようやく冷静になる。

はぁ……、せっかく『エナジードレイン』を克服したのにこの調子じゃなぁ……。


痛い心を引きずり、三島家へ帰宅する。













その日の夜。

ボクは部屋でネコ助と会話をしていた。


「はぁ……。なぁ、ネコ助?お前はボクが好きか?」

『にゃあ!』

「和馬も好きか?」

『にゃあ!』

「その好きは恋愛か?」

『にゃあ!』


ネコ助の答えが全然わからない……。

そもそもネコに相談するのが間違っている気がする。



『なんだ姉貴?恋煩いってやつか?』

「うるさい黙れ弟野郎」


廊下越しから和馬の声がする。

ネコ助と会話をしていたのを聞かれてしまっていた。


たまに電話の声を聞かれている壁の薄さが嫌になる。


『おー、怖い怖い』

「ネコ助ミサイルを見舞いするぞ」

『部屋に居る姉貴のネコ助ミサイルは効きませーん』


ムカつく和馬の声がする。

ガチャと部屋の扉を開ける。


「いけっ、ネコ助ミサイルだっ!」

『ぎにゃああ!』

「だからやめろって!?」


和馬にネコ助ミサイルを命中させて満足する。

なんでこうなるのがわかって煽るのか……。

ネコ助とボクの勝利だった。



「もう寝よ……」


ネコ助を解放した頃には深夜0時を回っていた。

そのまま眠気が襲ってきてボクは目を瞑る。






そして、ボクは1つの夢を見た。













何か恐ろしい闇がボクの家を包む夢。

とても寝苦しくて汗が止まらない。

何……?

なんなの、この感覚……?


今何が起きているの……?

夢なら早く覚めて……!


一生続くんじゃないかという気持ち悪い不快感がずっと胸に渦巻いていた。

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