14、深森美月

グダグダと女子と接点を持つ方法を考えても答えは出なかった。

ならば、やるべきことは初対面だった時の永遠ちゃんと同じことをすれば良い。

正面突破である。


「はぁ……」


同じ女子が居れば輪に入りやすいのだが、今回は俺1人である。

本当だったら津軽円をビシバシと馬車馬の如く働かせたいものだが、ちょっと今回は危険なミッションなので俺1人で行動をしている。


…………なんか常に俺1人で問題解決に動いている気がする。

普通主人公が行動するべきじゃない?

ねぇ、十文字タケルさん?


あいつは動く気配がないので、今回も無能主人公は無能で終わりそう……。

あまりにも原作再現が忠実すぎるな。


ただ三島遥香のギフトはかなりヤバイので『アンチギフト』を持つタケルの手を借りたいのが本音だ。


そろそろ言っちゃう?

タケルに『お前のギフトはギフト無効化だよ』って言っちゃう?


でも、『なんでお前知ってんの?』とか言われたら『命令支配』を暴露しなくちゃいけないしな……。

自分でギフト能力を気付いてくれるのが1番ありがたい。

そんな都合良くはいかねえよなぁ……。

ヨルも『アンチギフト』持ちだけど協力は得られそうにない……。


三島遥香の在籍する1年B組の教室まで来た。

知り合いもいないので自力で探すしかないか……。


ちろっと廊下から教室を覗いてみる。



うわっ!?

あの子脱いだら凄そう!



……違う、そんなことをやりに来たんじゃない。

教室を覗いた瞬間に視界に入った子が沢村ヤマ似でストライクな見た目だっただけだ。

腋がみてぇとか決して思ってない。


しかし、やはりゲームの世界。

モブですら可愛い。

モブかわというやつである。




「おい、君!こそこそして怪しいぞ!」


と、廊下から三島遥香を探していると横から声を掛けられた。

聞き覚えのある声に振り向く。


「あ、あぁ。ごめんなさい。人を探していて」

「そうなのか?」

「知人もいなくて困っていたもので…………え?」

「む?どうした?突然目を丸くして?」

「いえ、なんでもありません……」


びびった……。

この話し掛けてきた子は初代の最後のヒロイン・深森美月その人である。


輝くような長い金髪、凛々しい顔付き、真面目な性格、口元に黒子、お嬢様でありながらお姉さん系に振る舞う仕草、立ち方もスラっとしている美月はユーザー人気もかなり高い。


初代のヒロインの人気順を並べるならこうなる。

永遠>美月>>ヨル>>>理沙>遥香。

そう、あの永遠ちゃんに次ぐ人気ヒロインなのである。


メインヒロインのヨルの人気が微妙な位置だが、初代の永遠と美月が強すぎる。

セカンド以降ならヨルも人気な立ち位置なのだ。


「えっと……、人を探していまして……」

「そうなのか?君の名前は?」

「明智です。明智秀頼」

「あ!君が例の」

「知っているんですか?」


すると深森美月は頷く。


「もちろんだとも。君、永遠と仲が良いんだろ?わたくしと永遠は小学生の頃の友達だ。今もよくラインをしている」

「え?エイ……永遠の前の学校と同じ!?」


そんな設定あんの!?

ゲームでは永遠と美月の絡みが無いから知らなかった……。

せいぜいタイトル画面に一緒に映ってる程度である。


ヒロインが一同に揃ってるパッケージとかよくあるけど、接点ないキャラ同士が写ってるの見るとシュールだよね。


『悲しみの連鎖を断ち切り』はヒロイン同士であんまり横の繋がりが見えない特徴があるからな。

この世界では仲良しな永遠ちゃんと理沙ですら、ゲームでは数える程度しか絡みがない。


5本のシナリオ全部が完全に独立しているイメージだ。

だからこそ、凄いやりごたえのある作品なのであった。


「なるほどねー、永遠が気に入る秀頼さんとは君のことか」

「そ、そんな……、気に入るだなんて」

「赤くなってるな、ウブで可愛らしい」

「やめて、からかわないで……」


美月のからかう仕草に恥ずかしさがぐっと押し寄せる。

こういう同い年なのに年上なお姉さんを演じる彼女に骨抜きにされたプレイヤーも多いのだ。


「君のクラスにわたくしの妹がいるのは存じているかな?双子なので同じ深森姓の子だ」

「う、うん。なんとなくそんな気がしてました。髪も同じ色ですし」


ガッツリ知ってます。

まだ接点はありませんが、近寄りたくはないかな……。

美月の『月と鈴』シナリオでは、鬼畜なクズゲスな悪役・明智秀頼はかなり空気化する。

その変わりを務める悪役なのが美月の双子の妹である。

……それでも秀頼と絵美は死にますが。

なんで恋愛ゲームで悪役が当然のように出るかな……。


「そうか、妹とも仲良くして欲しい」

「……うん」


妹思いの優しい姉。

でも姉のこの『想い』は叶わない。

それはまるで、タケルの親友に向ける気持ちと同じ。

交わることのない平行線を辿る。


「おっと、話が逸れたな。君が探している人を聞いても良いかな?」

「三島さんっていう人です。教室に居ますかね?」

「三島か、ちょっと待ってくれ。…………居ないな。もう帰ったかな」

「そうですか。……深森さん、ありがとうございます」


一足遅かったか。

なら朝イチとか昼休みとかに来た方が良いなと明日以降について考える。

まったく、変にヒロインと接点を持つ原作の秀頼の手の早さには参るね。


「深森さんなんて他人行儀はやめてくれ。永遠の友達なら君も友達だ。わたくしのことは美月と呼んでくれ」

「わかった、よろしく美月」

「うむ。よろしくな秀頼」


彼女から差し出される手を握る。





…………彼女からタケルやヨルみたいに殺されないように気を付けよ。

この子のギフトもチートも良いところだからな……。





三島遥香と出会うことは叶わずに教室へ引き返す。

早く帰宅する人というイメージは付いた。

じゃあ今日は帰るか……。


「あっ、秀頼さん」

「エイエンちゃん!」

「一緒に帰りましょう」

「そうだね」


ヒロインである深森美月の知り合いという宮村永遠本人から偶然帰宅を誘われる。

彼女について色々と聞いてみようかな。












深森美月さん。

名前がキレイですよね。

お気に入りの名前です。

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