12、津軽円の本気
その日、俺と円はまた原作の話し合いをするために打ち合わせをしている。
会うのは当然、お馴染みの川での合流だ。
「最近どうだ?お前、俺を避けてないか?」
「べ、別にそんなんじゃない……」
突然円が泣き出して以降、ちょくちょくと会話はしていたが、ガッツリとした会話は無くなっていた。
それで呼び出しも断られるかと思ったが、普通に姿を現した。
「さぁ、原作について話し合いましょう」
「あぁ。わかった。それでだけど、目下危険なシナリオは……」
「うん。『病弱の代償』でしょう」
高校に入り、多分真っ先に解決するべきは『病弱の代償』であろう。
とにかく彼女のギフトはヤバい。
どうにかする必要はある。
……が。
「円……」
「ん?」
「俺は『病弱の代償』は放置しても良いかもと考えている」
「……はぁ!?」
「『月と鈴』はもしかしたらタケルが死ぬ可能性もあるから手を打つ必要はある。しかし、『病弱の代償』は……」
「なんでよ!?危険って今、あんたが言ったんでしょ!?」
「危険だから触れないんだろうが」
取り乱す円に一喝する。
『病弱の代償』に思い入れがあるようだが、正直あんなの俺と円でどうにかなるのか?
「パンドラの匣だよ、彼女のギフトは……」
「そうだけどあの子はルート入らないと絶対死ぬのよ!?ある意味、絵美と同じじゃない!」
「秀頼が介入したから絶対死ぬんだ。だから俺が介入しないと高校の3年間は生き残れるんでないかな」
「でも、将来彼女が人を殺す可能性は消えないじゃないの!それに彼女が死ぬ可能性もずっとずっと高いじゃない!」
「…………」
ダメだな、今の円は目的を見失っている。
こうなる気はしてたからこれまで1回も彼女を放置しようって言わなかったんだ。
「俺と円の目的は?」
「……え?」
「生き残るんだろ。原作の最後まで。ヒロインを助けることによる結果で俺の死亡フラグが折れるからエイエンちゃんを助けた。でも彼女はその必要がまったくないんだよ」
「そ、そうだけど……」
「むしろ彼女に関わることで円やみんなが命を落とす可能性がある。だから怖いんだ……。俺だって死にたくない……」
誰1人、失う姿なんか見たくない。
無能な主人公も、口が悪い円も、原作には登場しない咲夜も、既に死んでいるゆりかも、絶対に死ぬ運命の絵美も。
全員で呪われた世界を終わらせたい。
「そういう選択肢もあるというのを踏まえて、お前は彼女を助けたいか?」
「……助けたい。助けられる命を助けられないのが嫌。ワガママなのはわかってる。……お願い、助けてあげて」
「なんでそこまで助けたい?理由があるのか?それともなんとなく?円の言葉で聞かせて欲しい」
初代の攻略ヒロインがヨル・ヒル、十文字理沙、宮村永遠、三島遥香、深森美月の以下5人。
……が、ヨルルートは実質続編であるセカンドへと繋がる誰とも結ばれないノーマルエンド。
ヨルは放置で良い。
『病弱の代償』ルート、三島遥香は自分のルート以外にはほぼ全く出番のない空気キャラクター。
セカンド以降でもちょい役であるが、理沙も永遠も美月も登場するのだが、遥香は初代の共通と自分のルートにしか登場しないのだ。
ある意味、絵美より存在感のないキャラクターは、自分のルート以外では預かり知らぬ場所で死んでいるキャラクター。
俺は助けないルートの方がむしろ正しいのではないかとすら考えていた。
「……私、前世で好きな人が亡くなったの」
「うん」
「何もできなかったの……。私がベッドで寝ている間に……、彼死んじゃったの……」
「……うん」
「……だから、助けられる命を見捨てたくない。それにこの世界は彼が好きだったゲームだから、本当にみんなでハッピーエンドを迎えたい!だから……、協力して……ください明智君……」
円が俺に頭まで下げる。
全く、なんで俺が顔も知らない円の好きな人なんていう動機で動かないといけない。
あー、マジ面倒くせぇ……。
転生してすぐの時は原作キャラクターには近寄らないとか考えていた誓いも、もはやどこかに消えてしまったな……。
その誓いからすぐに絵美と関係を持ってしまった。
その時から、原作キャラを磁石のように引き寄せてしまう体質になったものだ。
「わかったよ、やるか。三島遥香を助けるように動くか」
「明智君……」
「ったく、なんで俺が……」
「とかなんとか言って、助ける気満々だったんでしょ?単に私を試したんでしょ?」
「…………知らん」
「拗ねてる拗ねてる。目論見がバレて恥ずかしいんだ」
「…………うぜっ」
「明智君も可愛いところあるわねー」
円がニヤニヤと俺を見てくる。
その視線に耐えられなくて立ち上がる。
「お?帰るの?帰るの?」
「シーユーアゲイン」
「さよなら。関係ないけど急に『シーユーアゲイン』とかいう単語が出て驚いたわ」
「わざと横文字使ったんだよ」
円に背を向けて歩き出す。
今日はずっとあいつのペースに巻き込まれた。
嫌になって自宅へ向かう。
「…………違うよな?」
『私がベッドで寝ている間に……、彼死んじゃったの……』
夜に寝ている時に彼が死んだってことだよな?
手術して病院のベッドで寝ている時に彼が死んだわけではないよな?
「…………はぁ」
来栖さんと同じ共通点を探すなんていう女々しいことをしてしまっている自分に嫌気が差した。
†
初代『悲しみの連鎖を断ち切り』のルート一覧。
推奨攻略順番は以下の並び順を参照。
十文字理沙ルート
『禁断の恋愛』シナリオ
※最初から攻略可能
※最初の攻略推奨
三島遥香ルート
『病弱の代償』シナリオ
※最初から攻略可能
深森美月ルート
『月と鈴』シナリオ
※1人を攻略することにより解放
宮村永遠ルート
『鳥籠の少女』シナリオ
※2人を攻略することにより解放
※唯一1番最後に攻略するのが不可能なシナリオ。
ヨルルート
『悲しみの連鎖』シナリオ
※実質ノーマルエンドなので、タケルは誰とも結ばれない
※続編に繋がるルート
※宮村永遠を攻略することで解放
※明智秀頼は生存します
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