8、十文字理沙は食べさせたい

3人に連れられて十文字家のマンションに敷居を跨ぐ。

滅多にタケルの家に来る時がないので新鮮だ。

俺の家にはよく来る3人だけど、あんまり絵美も十文字兄妹の家にも入ったことがない気がする。

あまり明智秀頼を家にはあげたくないのだろう。

別に今さらそんなことでは動じない。


「奢りとは聞きましたけど、何食べるんですか?」

「絵美さん、これ見て……」


理沙が俺と絵美に大きいサイズの段ボールの中身を見せてくる。

案の定、袋に入ったラーメンがいっぱいに詰め込まれている。


「……お前ん家、ラーメン屋?」

「いや、多分違うけど……」

「なんで否定が曖昧なんだよ。親の職業知らねーの?」

「医者の親父と弁護士の母親がいる」

「え?お前の両親どっちもエリートだったん!?」

「普通の両親だよ」


ギャルゲーの主人公あるある、親が居ないのに良い家に住んでいるの裏側にはチートみたいな一家だった……。


そりゃあ主人公だよ……。

顔良し、性格良し、家族金持ちってもう逆に何したら嫌われるんだよ……。

顔はそこそこ、クズゲス、一般家庭な明智秀頼が何から何までかませ犬にされてしまう理由がわかった気がする。

普通にギフト使えば荒稼ぎはできるけど、絶対バッドエンドになるの確定になるだろうし、使えるわけなかった。


「はぁ……、お金ってあるとこにはあるんだな……」

「秀頼君!元気出してください!」

「だ、大丈夫だよ……」


絵美から叫ばれて気を取り直す。

十文字家と差でカルチャーショックを受けてしまっていた。


「ふふん。兄さんと明智君にはわんこラーメンをしてもらうわ」


出たよわんこラーメン……。

ファンの間で迷シーンばかり産み出したそれは忘れられるはずのないイベントだ。


テンションがおかしい秀頼、頭が悪い文章のオンパレード、わけのわからない理沙の好感度の上がり方、理沙ルート必須イベント、絵美の舌打ち、声優がふざけているなどとやたら印象に残るんだよな……。


しかも専用イベントCGとしてはタケルと秀頼でわんこラーメンをしている姿のSD絵という誰得なものである。

なんでギャルゲーで野郎2人のイベントCGを見なきゃならんのよ。


突っ込みどころしかない狂ったシーンだ。


「というかわたしと理沙ちゃんは食べられないの?」

「終わるまで我慢です」

「…………帰りたい」

「俺も帰りたい」

「お前ん家だろ、ここ」


そういえばタケルも内心はやりたくないんだっけか……。

理沙だけがやる気満々であった。


「もう!みんなやる気出してくださいっ!」

「出るわけねーだろ……。絵美なんかもうやる気のない顔になってるじゃねーか」

「……やる気、ないよ……。わたしもお腹すいてるもん……」


絵美のこの態度を見るに、あのイベントが舌打ちが出るほどに嫌だったのかが痛いほどに伝わってきた……。

挙げ句には2時間の拘束、機嫌悪くした秀頼の命令により空腹のまま退出、わんこラーメン対決なのに数を数える手段がないなど踏んだり蹴ったりなオチを付けられるからな……。


それでタケルに舌打ちしたら絵美アンチが溢れて嫌われまくり、セカンドではルート没収されるのだから可哀想とかでは生ぬるい被害者である。


俺は絵美の声優の怪演もあって、あの舌打ちシーンでゾクゾクしてご褒美と思ったけど、世の中人により捉え方が違うという例である。


「仕方ありません、わんこラーメンは諦めましょう……」


おお!

3対1で理沙が負けを認めた!


「でもこの生麺、賞味期限が明日までなので今日には無くしたいところです。4人で全部食べましょう」

「…………え?」

「これを?わたしたちで?」


段ボールに山ほど乱雑に入っている麺を4人で……?

1人何人ぶん食べる必要あるの……?


「廃棄するにはもったいないでしょ!もったいないお化け出ちゃいます!」

「もったいないお化けってなんですか?」

「がしゃどくろよ」

「え!?怖い……」


理沙と絵美の会話にちょっとほっこりした。

理沙はがしゃどくろがお好きな様で。


「んなもん4人でどうにかする必要もねーだろ!スマホを使って増援を呼ぶぜ」

「おぉ、秀頼君が頼りになります」

「頼んだぜ、秀頼」

「任せておけよ」


俺はスマホをタップしながらラインの履歴が1番上にあった名前の人に通話する。

呼び出し音が鳴り3コールくらいで彼女が電話に出た。


「もしもし」

『あっ、秀頼君。どうしました?』

「タケルの家に来てくれ」

『もう居まーす』

「あっ、絵美に電話してた……」


ラインの履歴の1番上が絵美だったのが敗因だった……。


「バカだろ、お前」

「急ぐあまり名前を確認してなかった。2番目の履歴の奴……タケルじゃねーか。仕方ないタケルに電話するか」

「なんの意味もないことすんなよ」

「なんで君らばっかりラインしてくるのよ。3番目の奴……、彼女ならこの場に居ないな」


絵美に電話したミスから学び3番目の履歴にあった名前をタップする。

5コールくらいの呼び出し音の後に通話画面になる。


「もしもし」

『もしもし、明智さんですか?どうかしましたか?』

「今すぐタケルの家に来てくれ!頼むっ!」

『今、スタチャはインスタの写真撮ってるから無理だぜ☆ミスドーナツいまーす』

「うわっ、星子だと思ったらスタチャに電話してた!?……なんでスタチャスタイルの時はお兄ちゃんって呼んでくれないの……?」

『スタチャに兄は居ません。細川星子に言ってください……』


スタチャが真面目なトーンの声で喋る。


「星子の正体がスタチャとわかった時には俺をお兄ちゃんって呼んでくれたじゃないか!?」

『スタチャは星から生まれた子供です。兄なんか居ない……そういう設定キャラなんです……。残念ですが、今の明智さんはスタチャファンのオタクでしかありません……。お兄ちゃんとなんか呼びません』

「……ちょっと引いてない?」

『引いてます☆じゃあすみません、また今度にお願いします明智さん』


アイドルにドン引きされながら通話が終わってしまう……。

大丈夫か?

兄としての威厳失ったんじゃないか?


「あ、すげー。スタチャのインスタに載せてるドーナツってリーフチャイルドがCMしてるやつじゃん」

「スタチャと一緒に写ってる新人アイドルの子、オーラが霞んでるな……」

「スタチャが隣に居る時点で霞むだろ。いいね!押しとこ」

「俺も」

「秀頼君も十文字君も真面目にやってくださいよ!」

「ごめんごめん。スタチャに気を取られてた」


絵美から強制突っ込みをされてしまった。


「理沙ちゃんからもふざける2人になんか言ってください」

「あっ!?このドーナツ明日買おう!ふへへへ、いいね!」

「理沙ちゃん!」

「はっ!?」


理沙もスタチャのインスタの魔力に取り憑かれていた。

ラインの4番目の履歴は理沙であり、これもスルー。

5番目の履歴の人に通話をしてみる。


「もしもし」

『おー!?師匠!ついに我を弟子にしてくれる日が来ましたか!ウェルカムです!』

「あぁ、修行をしてやる。今から送る住所のところへ向かえ。怪しい場所じゃない、タケルの自宅だ」

『かしこ!』

「あと、誰か呼べるなら呼んで連れて来てくれ」

『かしこ!師匠の修行頑張ります!』

「頑張りが認められたら褒美もやるから本気で来てくれ」

『承知!』


やる気のある上松に連絡したら即OKをもらった。

安心である。


「とりあえず上松に連絡付いた。もしかしたら1、2人くらい連れて来るかも」

「じゃあ上松さんが来るまで麺を茹でていましょう」


こうして、わんこラーメンの野望は阻止して、変わりに生麺の処分をすることに変更したのである。










秀頼は自分の顔をそこそことは言っていますが、自己評価はかなり低いだけです。

原作において、

ヒロインにモテるタケル

モブにモテる秀頼みたいな感じ


事件が起きる前の永遠も秀頼のことを印象良かったりしてるのもあり、美形なんだと思います。

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