9、謎の少女

結局タケルには全員からということで、理沙の選んだ壁掛け時計を送った。

彼は嬉しくて、早速部屋に飾っているという話を聞いた。


ギクシャクしていた円とも、後日再会し「あの時はごめん」と頭を下げられた。

とは言っても、俺は事情がよくわからなかったので何も言わなかった。


そんなこんなで日にちは流れ、いつの間にか高校生になっていた。

早いもので、ここから『悲しみの連鎖を断ち切り』シリーズの開始である。


「秀頼……」

「おはよう、おばさん」

「あなたがギフト持ちだなんて……。本当はおばさんは秀頼にギフトなんて持って欲しくなかったの……」

「ごめんなさい……」


ギフト適性検査で陽性反応の結果が出たことにおばさんはショックを受けていたのを2年近くずっと見てきた。

俺のこの世界の親父の愚行が、マスターと同じでおばさんもギフトを良い目では見ていないのは察していた。


「秀頼……、ギフトの力に溺れない人になってね」

「わかってるよ。うん、大丈夫」


おばさんには、ギフトの能力も教えてないし、能力自体がわからないと伝えている。

しかし、もしかしたらマスターと同じで叔父さんの変化をギフトの影響と勘づいているのかもしれない。


「だからギフトを学びに学校に行ってくるよ」


俺はこれから地獄を見るかもしれない。

でも、もう後には引き返せない。




ーーーーー





慣れない電車に揺らされて第5ギフトアカデミーが見えてくる。


「うー、緊張します……」

「俺も緊張するぜ……」


理沙とタケルが緊張して顔が強張っていた。

口に出さないだけで、咲夜や永遠ちゃんも同じみたいである。


「わたしは平気です」

「そうね。私も全然平気」


絵美と円は平気そうである。

ただ、俺は学校に対する緊張ではなく、生き残れるのかそこに対して緊張やストレスを感じていた。


「秀頼、お前は俺と同じクラスになってくれ」

「知らねーよ」


タケルが俺へ肩を組みながらそんなことを口にする。

ゲームでは同じクラスだったし、大丈夫だと思うけど。


「あれがクラス表みたいだぞ。ウチも変なクラスは嫌だ」


咲夜が新入生のクラス表を見付けたみたいだ。

たくさん人だかりがありながらも、一苦労して見付けたクラスはこんなクラスになった。









「みんな同じクラスやん……」


一緒に登校した絵美、タケル、理沙、咲夜、永遠ちゃん、円、そして俺。

全員同じクラスだ。


「山本の名前もあるな」


山本は俺たちと同じ学校を受験していた。

山本グループ3人全員違う学校になってしまったが、どうせあいつらはいつでも一緒に居る気がする。


ゲームである程度知っていたとはいえ、ここまで同じだと認めざるを得ないな。

校舎の形もまんまゲームで見た外観をしている。

そして……。


「ヒロインの名前もあるわね」

「そうだな……」


円とクラス表を見ながら呟く。

ファーストからファイナルまでの同じ学年に該当するクラスはそこに当然名前がある。


こいつらの誰かが、我らの無能主人公であるシスコンドラゴンと結ばれることになる。

今から胃が痛くなりそうだ。


全員で校舎を歩いて行く。

そして、俺は最重要人物を目撃してしまう。


『…………クハッ』


彼女は木の上から俺たちを見て嘲笑っている。

目が合っても、笑いをやめない。


やがて、全員が俺から離れて校舎に入っていくのを確認すると、彼女が心で呼び掛けてくる。




『神を視覚するか人間、いやお前は明智秀頼か』

『名前がわかるのか?』

『当然であろう』


彼女は心で語りかけてくる。

俺も口には出さずに、心で思ったことで彼女と会話をする。


『神の力を与えし者の名前は全て把握している。……それよりもなんだ?貴様はあんなにギフトを所望をしていてロクに使わぬではないか。ギフトの力は他者とは必ず重複しない。その中でお前には上級のギフトを与えてやったというのに嘆かわしいな』

『……やっぱりお前がエニアなんだな』

『……っ?貴様、なぜの神の名を!?』


ゲームでは初代からタケルの目の前に度々現れては嘲笑う少女の姿をした存在。

名前のメッセージウインドウや公式サイトには『謎の少女』としてクレジットされている。


黒フードを被り、フードの中身を褐色の肌に染める神。

白髪に染まった長い髪で、見た目は小学生低学年ほどである身長130センチほどの小柄な女の子の風貌をしている。

こいつこそ、ギフトをばら蒔く迷惑な神・エニア。

ギリシャ語で『概念』を表すそいつは『悲しみの連鎖を断ち切り』シリーズの黒幕である。


『…………ほう、面白いな。軽く貴様の魂に触れてみたが……。初めてだな。我がギフトを与えたのはお主であってお主ではないな』

『!?』

『こんな人間もいるのか。貴様には魂が2つあるのか……。クハッ、クハハハハハッ!』


彼女は宣言した。

俺には魂が2つあると。

つまり、豊臣光秀の魂と、明智秀頼本人の魂が俺に宿っている……。


『概念さん……』

『変な呼び方をするな』


永遠のエイエンちゃんと同じ、ファンからの通称が概念さんなんだもん……。


『面白いな人間……。観察のしがいがあるというもの……。では、また会おうぞ明智秀頼』


プロジェクターの映像が途切れるように、彼女の姿は一瞬で消えた……。

謎の少女・エニア。


こいつの前では明智秀頼の存在なんか前座の前座でしかない。

波乱に満ちた学園生活は既に始まっている。







エニアの語った通り。

ギフトの能力は下位互換、上位互換、類似能力はありますが、完全に重複することは絶対にありません。

ゲームで語られていたので秀頼君と円は当然そのことは把握済み。


ゲーム世界の住人である他の者は、その事実は現代においてはまだ知られていない。

『偽りの少女』編で語られた未来の世界においては常識の雑学です。


ようやく本編ということで、怒涛の新キャララッシュ開始していきます。



円と来栖さんは次の第8章にて、ガッツリ掘り下げて行く予定です!

正体バレするにはもうちょっとだけやりたいことがあるので……。


現在の7章はかなり短編なのでもうすぐ終わる予定です。

ちょうど最近のストックで来栖さんが登場したところを書いていたので予告しておきます!

読者様が見たいであろうシーンを現在、頭を捻らせて執筆しています。

秀頼の鈍感さも少しずつ改善していきます。


忙しくて、コメント返信の頻度が落ちていて申し訳ありません(^^;)。

全部読んでいますし、全部届いていますので返せる時に返していきますね。

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