26、偽りアイドルは肯定されない

『やぁ、こんにちは。スターチャイルド』

「こんにちはです、達裄さん」


鳴り出したスマホを通話状態にしたら、私を見出だしてくれた巫女さんの弟、遠野達裄さんからの連絡だった。


私は、世間的に大注目を浴びているスターチャイルドというアイドルである。

年齢のわりに大人びた姿は、知らぬ間にたくさんの人の憧れになっていた。


『今週の日曜日にね、秀頼と君を会わせるように話は着いたよ。彼、嬉しそうだったなー』

「あ、ありがとうございます!達裄さん!」

『それでね、君について彼に語っても良いんじゃないかな?』

「え?それって……?」

『偽りのアイドルの姿をだよ』


私は本当は憧れを持たれる人ではありません。

なぜなら私は……。


『ギフトを使用していることをさ』

「で、でも……」

『大丈夫だよ、秀頼はスターチャイルド、……君を嘲笑う人じゃないよ』


達裄さんは確信を持った声だった。

『それに自分が付いている!』と誇らしい声を出してくれた。


『ほら、会いなよ。スターチャイルドの姿ではなく、君の本当の姿で秀頼に会いたいんだろう?』

「そ、それはそうですが……」

『カミングアウトをするべきだよ。君の本当の名前や姿はスターチャイルドではない』


達裄さんは私に突き付けるような言葉を発する。







細川星子ほそかわせいこちゃん。スターチャイルドの本名。そして、……明智秀頼と唯一直接血の繋がった妹であることをさ』

「……わかりました」


恥ずかしいけど、そこまで背中を押してくれるのなら私は達裄さんを信用しようと思います。

達裄さんとの通話を終えて考える。



お兄ちゃん、あなたはどれだけ素敵な人ですか?




お兄ちゃんは、私がいて喜んでくれるでしょうか?




お兄ちゃんは、私に可愛いと言ってくれるでしょうか?




スターチャイルドで会った際は夢の様な出来事でした。

佐々木さんと十文字さんと仲が良くて、本当はもっと私もあの会話の輪に入りたくてウズウズしてました。




じゃあ、細川星子としては受け入れてくれるかな……?

受け入れられなかった時を想像すると、天地がひっくり返りそうなくらい怖い……。




「お兄ちゃん……、ずっと……、ずっと探していたんです……」



ーー兄に会いたい。

そう祈りながら、私は目を閉じた。








その日に見た夢は、1人の少女の人生を反映させた長い追憶の記録。


とても悲しく、報われない、不幸の一生。

『悲しみの連鎖』を繋げるだけの、壊れた物語のプロローグである。








ーーーーー



私の名前は細川星子。

家族構成は、おばあちゃんとお母さん。

そして、私という3人家族です。


しかし、お母さんといっても実は本当のお母さんではありません。

本来は伯母さんに該当し、本当のお母さんは既に亡くなったみたいです。

でも、顔も見たこともなく私にとってのお母さんは伯母の人でした。

父親はいません。

お母さんは独身であり、おばあちゃんと一緒に育ててくれました。





「私、テレビに映りたい!アイドルなりたい!」

「そうねー。星子が頑張れば歌って踊れるアイドルなれるかもね」

「本当!?」

「頑張ればなれるわよ」


画面の向こう側。

私は子供の時から憧れていました。

お母さんとおばあちゃんは子供の時は「あらあらー」と笑ってくれていました。

踊りの練習、歌の練習をたくさん続けました。


しかし、小学校の3年生くらいになるとお母さんは「はいはい」と軽くあしらうようになります。

おばあちゃんからは「星子がきちんと現実を見て欲しいからお母さんはそう言ったんだよ」と諭されました。


「現実ってなに……?」


私はテレビで歌番組を見ていた。

だって、テレビの出来事も本当の出来事じゃん。

アニメのキャラクターはいないのはわかってる。


でも、アイドルも歌手も存在するじゃん。

現実を見てるじゃん。

意味がわからなかった。





「アイドルはね、可愛い子がなれるのっ!」


友達のユメちゃんに「どうすればアイドルになるのかな?」、そう尋ねたらそう答えられた。

多分、もう100回くらい聞いた言葉だ。


「でも、星子ちゃんは無理だと思う」

「え……?な、なんで……?」

「だってー、目が怖いもん」


目付きが怖い、そう指摘された。

『目が怖い人はアイドルになれないよ』、その指摘は当たり前だと思った。

鏡に立つ私の顔はつり上がっていて、威圧感がある。


「顔がダメだとアイドルになれない?」


でも、正直可愛くない人や、ブサイクな人でもアイドルをしている人はたくさん居る。

ちょっと目付きが悪いくらいなら大丈夫なんじゃないの?

そう思った。


「可愛くないとださいよ!ブサイクがアイドルしてるのはみじめだーってお父さんが言ってた」

「…………」


あぁ……。

私の顔って可愛くないんだ。


目付きが悪いから怖いんだ。

どうしてこんなに目付きが悪いんだろう……?


「おー、ユメは可愛いな!」

「ありがとう!お兄ちゃん!」


友達の子は、兄と仲良しな子だった。

ユメちゃんは可愛いと言ってくれるお兄ちゃんがいるんだ。

羨ましいな。


お父さんもお母さんもお兄ちゃんもいて可愛いと褒められて、実際に可愛いユメちゃん。

凄い、なんでも持ってるね。


でも、そういえば私……。

お母さんからもおばあちゃんからも『可愛い』って言われたことないな……。


おばあちゃんの『星子がきちんと現実を見て欲しいからお母さんはそう言ったんだよ』という言葉は……。

私の顔じゃ無理だよって突きつけていたんだ。

2人共、この顔じゃアイドルなれないって知っていたんだ……。


クラスの男の子は、ユメちゃんを『可愛い!』『好きっ!』ってよく言う。


私には、絶対にそんなこと言わない。

『普通』『地味』、陰口で私の顔を勝手に評価をしていたのを思い出す。


「…………そっか。無理か」


誰も可愛いと肯定してくれない。

じゃあ、そういうことなんだろう。


……ユメちゃんのお兄ちゃんみたいな兄が居れば『可愛い』って言ってくれたのかな?


誰か1人で良い。

私を褒めて欲しい。

それだけが胸にぐるぐると渦巻いた。


鏡の中の自分が嫌いになる。

でも、本当に嫌いなのはこの鏡の顔になっている自分。


男なら格好良い、ワイルドとか言われるかもしれない。

女の私からしたらデメリットしかない。


こんな目付きが嫌だ……。

嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。


「おばあちゃん、どうして私の顔はこんなに目付きが悪いの?」


家に帰ってくると、お母さんは仕事でいない。

いつも家にいるおばあちゃんに顔について尋ねる。


「……遺伝だねぇ。星子はお父さんに似たんだね」

「お父さん……?」

「そう。本当のお父さんに似てるねぇ

お母さんの妹が、本当のお母さん。その人の旦那だった人だよ

娘に似てたらアイドルになれてたかもねぇ」


遺伝。

親に似ている。


「星子、仕方ないよ」


仕方ないってなに?

夢を諦めることを仕方ないで済ませちゃうの……?

























「遺伝!?目付きが悪いのが遺伝……?嫌だ……。そんなの嫌だ……。アイドルになりたい……、歌いたい……。注目されたい……」


鏡の前で嘆く。

本当のお父さんもお母さんも何もしてくれないクセに、なんで遺伝で邪魔だけするの!?


こんな顔……。




























『お前の願い聞き届けよう。神から能力ちからを授ける。名をギフトと呼ぶ』


そんな声が、脳に届いた気がした。










久し振りにシリアス入ります。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る